未来のはなし2
 

シノとソーがルイスを卒業して二ヶ月。桜が散ってちょうどシノとソーが初めて出会った頃と同じ季節になった。

シノは大学に進学、ソーは軍に入隊した。
そしてルイスの寮を出て二人はマッケンジという地で同棲を開始する。シノの大学とソーの所属する軍基地のちょうど中間あたりである。

学生最後の夏、特にやりたい事なりたい職業が思い浮かばなかったシノはとりあえず農家である実家の手助けになる魔法一つでも勉強できたら、という気持ちから大学進学を選び、対してソーは何か学びたいと思わない、体を動かす仕事をしたいと軍に入隊した。

当然卒業すればこの三年世話になった寮から出ていかねばならない。
二人は最後の長期休み、一緒に暮らす部屋を探した。当然別々に暮らすという選択肢はなかった。
二人で見つけた広めのワンルーム。家賃も安く、キッチンなどの設備もしっかりついている。ルイスの寮に比べれば狭いしお風呂も二人一緒に湯船につかれるほど大きくはない。
しかしお互いがソーがいるなら、シノがいるなら、という大雑把な考えで特にこだわりもなくそこに決めた。

新たなスタートは好調かのように思えたが環境の変化は二人の間に少しずつ、少しずつ、亀裂を入れていった。


「おかえりーのちゅー」
「…ん」
「ご飯出来てるけど、お風呂先する?」
「今日は疲れたから風呂だけでいい。飯いらねえ」
「え、うそ。ちょっとだけでもいいから食べない?」
「悪い。風呂入ったら寝る」

毎日毎日厳しい軍隊の訓練にさすがのソーも疲れているようで、夕飯が食べられない日が週に何度かあった。もちろん食事は二人で、と決めているシノはソーの帰りを料理を用意して待つがそれは毎日不規則で、今日は日付が変わる二時間前に帰ってきてのその言葉だった。


「俺、明日四時半起き」
「そんなに早いの?お弁当どうする?俺起きて作るけど」
「しばらく続くし、シノも学校あるのにしんどいだろ。別にいい」
「んー…わかった」

一年目と言えど軍人は軍人。既にソーは訓練と平行しながら現場にも駆り出されているようでプライベートな時間も、寝る間もない。
シノはシノなりに、ソーはソーなりに相手を気遣っての言葉だったが少し受け取り方が違えばそれは否定の言葉ともとれる。


「ただいまー」
「…おかえり。遅かったな」
「新歓で飲み会があって…」
「へえ」
「ソーは早かったんだね」
「…最近朝早くて全然一緒に入れてねえから、急いで帰ってきた」
「あー…今度からちゃんと連絡入れる。ごめんね」

各々の新しい環境での人間関係や時間が絡んだすれ違いも少なくはなかった。
そしてさらにシノはアルバイトも始めた。二人の生活の金銭面をソーだけに頼るのは嫌だと大学終わり夕方頃から夜遅くまで飲食店で働いている。仕方のない事ではあるがそれがさらに二人で過ごす時間を削っていった。




その日は新生活が始まって、お互いの休みが初めて被った日だった。
この日からしばらく五月の連休に入るからである。だがソーは連休全て休めるわけでは無く、二日間だけのオフではあるが。

現在朝の九時、二人はダブルサイズの布団に寝転がっている。シノはソーに腕枕されながら久しぶりのゆとりのある時間に思わず笑みを零していた。

「ソーの顔ゆっくり見るの久しぶりー」

未だ夢の中にいるソーの寝顔をつついても起きる気配がない。そんなに疲れが溜まってたのかとシノは労わるようにソーの胸の中からヨシヨシと頭を撫でてやった。

慣れない環境、しかも軍というたくさんの人間がいるはずの環境で人嫌いなソーがそれを抑えて頑張っているのだ。食欲が失せるほど頑張っている彼氏の為に美味しい朝ご飯を用意してあげようとソーを起こさないようそおっと布団から抜け出す。

「わっ」

何を作ろうか考えるシノの手を引いて布団に引き戻したのはソーに他ならない。

「…おはよ」
「ごめん、起こした?もうちょっと寝てなよ。俺朝ご飯作っとくから」
「…まだ寝てようぜ」
「えー?しょうがないなあ」

言葉の割りには嬉しそうに自分からもぞもぞと布団の中へ入り直すシノ。さらにぎゅっとソーの胸の中へ顔を押し付け目をつぶった。

「さいきん、ソーとゆっくり出来なかったから…いますごい楽しい」
「楽しいのか」
「うん、楽しい」

ソーも目をつぶりながら腕の中にすっぽり収まるシノを大切に大切に抱きしめた。

「…すぐに出世して、早く生活楽にしてやる」
「別に生活は苦しくないけどお…出世したらお金より休みをたくさんもらってよ。二人でのんびり出来たら俺、お金いらない」

立派な部屋は無くとも、互いが健康で笑っていられるならそれが幸せだ。
食欲が失せるほど疲れて帰ってくる姿はあまり見たくない。反対に自分が遅く帰ってソーに寂しい思いもさせたくない。シノはそう思っている。それはソーも同じ事だ。

「待ってろ、すぐに偉くなって週五日は休んでやるから」
「それは休みすぎだしー」

なんて頼もしくてかっこいい恋人なんだろう。
寮暮らしの時より窮屈になった布団に包まり、最近のすれ違いを埋めるように二人は互いにきつく抱きしめあって久し振りに至福の時を堪能した。





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