デート
 

週末の昼前。
シノとソーは早い時間から広大な森に囲まれたルイスの学園を出てソーの愛車へ跨り、近くの街へやって来た。
首都シャルテール程ではないが、休日には人で賑わう明るいこの街はシノとソーがルイスの購買では手に入らない食材や日用品を買い揃える為に外出デートついでに月に一、二度は訪れる。

バイクを止めて街を十字に割る商店街の南口から店舗を見て回る二人。今日は食材などだけでなく、服や小物の買い物も兼ねていた。

「ねえ、あの人かっこよくない?」
「ほんとだ、俳優さんかな?」

そして外に出ればソーに集まる視線に、たくさんの黄色い悲鳴

学園内ならソーのほぼほぼ真実ばかりの恐ろしい噂のおかげで周りは遠巻きにその精霊のように整った美貌のソーを眺めるだけだが、外の街にそんな噂は流れている訳もなく。

「…チッ」

シノを除く全世界の人間全てが嫌いと言っても過言ではないほど、人嫌いのソー。
そもそも機嫌が悪い時に遠巻きに眺められているだけでも気分が悪くて仕方のない、虫の居所悪さに身を任せ物損、暴行、御構い無しに大暴れするソーが、それよりも煩わしい学園にはいない女の高い悲鳴を聞いてイライラしないはずも無い。

しかしシノがいる手前、なにか物やら人に当たるわけにもいかず。なんならせっかくの外出デートなのだ、その雰囲気や今日1日の予定を自分ひとりの機嫌でぶち壊す訳にもいかない。
ソーは怒りを舌打ちに変えた。

「ソー、すっごい怖い顔になってる」

可笑しそうに笑うシノ。ソーは自分とシノを繋ぐ左の手をきゅっと握り直した。

「まわりがうるさい…」
「でもすっごい我慢してくれてる。ありがと」
「…後でシノに八つ当たりしてやる」
「えぇー、仕方ないなあ。ばっちこい」

あいてる方の手で自分の胸をどんと大きく叩くシノはいつにも増して上機嫌だった。恋人の機嫌が悪いと釣られて自分も悪くなって空気が悪くなるのは恋人同士ならよくある話だろうがこの2人には当てはまらなかったようだ。

「なんでそんな機嫌良いわけ?」

自分は歩いているだけで見ず知らずの女たちに騒がれて辟易していると言うのに。恋人なら普通、嫉妬やヤキモチ妬いたりするところではないのだろうか。ソーはそう言う気持ちでシノに質問を投げかけた。言い方が幾分か不貞腐れたようになったかもしれない。

「えぇ、なんでって、悪くなる要素ないじゃん」
「?」
「だって、他人があんなに騒ぐほど俺の彼氏はかっこいいんだよ?そのかっこいい彼氏は俺に夢中なんだよ?こう…優越感が満たされるというか」

一番流行りの可愛らしい服で身を包み、髪をみんなそれぞれ結ったり巻いたりして飾って、指の先まで色とりどりに染める一般的に見て可愛らしい女の子たち。

彼女らがいくら頬を赤く染め愛らしく飾ろうとソーは男の、ましてや容姿は平々凡々のシノしか眼中にない。

加えてルイス魔法学校の性質上、女生徒や女教師はいない。異性に飢えた同級生や先輩後輩たちがたくさんいる中で、ご覧の通りソーはそれに当てはまらない。

「ふつうの男なら、女の子にあんな騒がれたら有頂天になってもおかしくないと思うんだけどな」
「煩いだけだ」
「へへ、そーいうとこだよ」

シノと見ず知らずの彼女らの間に、「大なり」を一万個用意しても足りないくらい、ソーの中のシノの優先順位は高い。そもそも何人もシノと同じ土俵にすら立てないが。

それを分かっているからこそ、シノが機嫌を悪くする訳がない。愛されている自信と自覚があるだけ、シノの機嫌は良くなっていく。

「ふふふふ、ソー。俺のこと、好きでいてくれてありがとね」
「おー。今更だな」

ソーは体ごとシノの方に向けると、繋いでいない方の手でシノの髪をさらりと撫で、チュッとリップ音を鳴らし触れるだけのキスを額に落とした。

その行為に周りからまたきゃあきゃあと悲鳴が上がるのを2人は感じた。しかしその行為にお互い恥じらうわけでもなく、さも当然のように甘い空気を纏うだけ。
シノの使い魔ケット・シーがいればこの空気に乗った甘い魔力を1グラムも残す事なくパクパク食べている事だろう。

「外だよ、もう」
「買い物。さっさと済ませて帰るか」

突然の恋人のキスに、シノは言葉だけは非難するものの、その声や表情はただただ幸せそうな笑みを浮かべるだけ。

恋人の不機嫌には釣られないが、幸せオーラ全開の上機嫌は伝染するらしい。





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