新たな千年に乾杯
 

「確かに僕は結婚すると認めたが、それにはいくつか条件がある」
「…聞こう」

式当日の朝のこと。ようやく前魔王を殺害したあの日以来三日ぶりにサフランの前に姿を現したバロックは魔王妃の間のカウチに赤ワイン片手に目の前で仁王立ちをしているサフランに視線をやった。

「まず一つ目、この城の宝は全て僕のものにする」
「構わん」
「二つ目、これから手に入る宝も全て僕のものだ」
「構わん」
「三つ目、僕は今まで通り魔の森の小屋で自分の好きなことをする」
「構わん」
「四つ目、王妃なるからと言って僕はおまえとチョメチョメしたりするつもりはない」
「構わん」
「五つ目…」
「構わん」
「…なにも言ってないんだけれど」

むすっと深々と被ったフードの下で不貞腐れた表情をするサフランはぼふんっとキングサイズのベッドに勢いよく座るとそのまま腕を組んでバロックを睨みつけた。

「…おまえが望むことならなんでも叶えてやりたいと思う」
「ハッ!!そんな事を言うくらい僕の事が好きなのなら無理矢理王妃の座になんてつけないで欲しいな」
「それは無理だ」
「ハンッ!!!」

サフランは大きく鼻で笑うと、諦めたとでも言うようにベッドに倒れこんだ。期待はしていなかったようだ。

あと半日をすれば魔界中の魔族たちがこの魔王領に集まってきて新たな魔王と魔王妃の誕生、これから始まる歴史の門出を祝いに来るだろう。

サフランはたった今の今まで様々な無理難題をバロックに押し付けていたが全て認められてしまった。一つでも拒否されようものならそれを盾にあの愛しい魔の森の我が家に帰ろうと目論んでいたようだったがそれも叶わない。

「約束は以上で構わないな?」
「ああ、いいよ」

きっとバロックは決して何があっても僕を離しはしないんだろう、とサフランはカウチ側からこちらに声をかける新しい魔王の問いかけに答えつつ考えた。

僕が抵抗すればするだけ無駄な行為で終わる、ここはさっさと切り替えてバロックから甘い汁を吸いつくして乾涸らびたカスカスの魔王にしてやらなくては。

サフランは目を閉じながら深くそんな思考に図った。
幸いバロックは夫婦としての営みもサフランに望まない、宝物も全てサフランの物になると言う。サフランにとって他に憂いは無かった。

だがしかし、サフランが一番嫌うのは他に干渉されることや馴れ合いである。こんな魔族だらけの城なんて、サフランからしてみればトリハダ立ちまくり寒気しまくりのなんとも落ち着かなさすぎる環境。

早く魔の森に帰って新たな魔族を召喚しよう、バロックよりも強靭で自我の無い、サフランの思い通りに操れる者を。そして今度は本当に魔王暗殺の首謀者になってもいい。誰かバロックを殺してくれ。

そう決意したとき、漆黒の夜の海の色に、煌びやかな金の刺繍が施されたシーツの上にサフランではない誰かの気配が加わる。
この状況でそんな真似が出来るのはバロックの他誰もいない。サフランが驚いてアメジストの瞳を見開くと案の定バロックがベッドに侵入して来ていた。しかも、仰向けに両の掌を枕にして寝転がるサフランを四つん這いで覆い被さるようにして。

「なっ!なんの真似だい!」
「…夫婦の契りを交わそうと」
「ばっ…!っかじゃないのか!たった今そういう真似はしないと言ったばかりだ!」
「チョメチョメをしないと言っただけで、同衾しないとは言っていない」
「そっっんな屁理屈が通用するとでも?!」

ぎゃーぎゃーと喚いて暴れるサフランをバロックは気にも留めず暑苦しいローブを脱がし、そのままその大きな手でサフランの両の手首の一纏めにして掴むと真っ白な首筋に端正な顔を埋めた。

「今言う!今約束しろ!僕はおまえとこんな性的な行為はしない!!もしして見ろ!こんな結婚なんて破棄だ!」
「約束は先程で以上だと言った。これ以上聞くつもりはない」

召喚主が召喚主なら召喚された魔族も魔族である。
お互い屁理屈的なところは負けていなかった。

「こ、こら!どこに手を入れてるんだ!」

ローブの下には黒のシャツと脚のラインがはっきりと分かる生地が薄めのズボンを身に纏っていたサフラン。バロックは腹から胸にかけてそおっと手を這わしサフランの肌に直に触れながら小さな胸の頂を指で弾く。

「はぁ…サフラン…っ」
「あ、ほ、ほんとに…っ、やめ、ないかっ」

肉食獣が狩をするときのように、通常時はふつうの人間となんら変わり無い爪をバロックは瞬時に鋭く長い鉤爪のような形状に変えて、サフランの衣服を引き裂いていく。
露わになった病的なまでに白い肌。バロックは桃色の尖りを引き続き指で弾きなぞり、撫で抓る。さらにはその真っ赤な舌をいやらしく這わせてサフランを蹂躙した。

「ふぁ…っ、やめ、やめ、っあっ」

顔を羞恥で林檎のように真っ赤に染めて、荒れた息でなんとか呼吸しながらバロックを拒否するが、そんなか弱い抵抗でバロックが止まるはずもなく。
バロックはサフランの手を自分の猛りに誘導し、サフランの手に自らの手を上から重ね触れた。

「っなっ!にを、さわらせ、は、ン…る、んだっ」

きゃんきゃんと子犬のように喚くサフラン。それも仕方なく、その手には人間の女の二の腕くらいの太さのそれが握らされていた。
伊達にサフランは長生きしていない。魔と人の共存する世界に生まれること早四世紀と五年。外界とほぼ遮断された魔の森で生きて来て魔界世間一般の常識がほぼ欠落していたとしても、これらの行為が何を意味するかぐらいなら、サフランも知っている。
そして魔族も人と同じく雌体と雄体が性行して子供が産まれる。サフランもバロックも性別は男。なんの生産性もなく無駄であるこの行為をサフランはただちにやめさせたかった。

「サフラン…っ」

甘い吐息とともに低くくぐもった声がサフランの名を呼ぶ。手元からはぴちょぴちょと卑猥な水音がずっとしていた。

「ン、ンう、ふ」
「はっ、サフランッ」
「ぁあっ、なに、出して…っん、」

サフランの頭上で身動きを封じていたもう片方の手をバロックは自由にして、自分の空いた手でサフランのゆるく勃っていた陰茎に触れる。サフランの体格に見合ったサイズのそれにバロックは愛おしさを覚え、サフランの快楽と羞恥に染まった半泣きの顔を見ると同時にサフランの薄い腹に吐精した。

しかしそれで満足することのないバロックは自らが出した精を手に掬うとそれを指に絡め臀部の奥の秘孔に触れた。浅く指を出し入れして慣らしながらバロックはサフランの嬌声を楽しみつつ、だいぶんほぐれてきた頃に緩急をつけながら指を二本、三本と増やしバロックの太く長い指の第二関節まで侵入させた。

「あっ、ふぁっ、んあっ、あっ」

前も後ろも快楽の波に飲まれているサフランに、もう抵抗の余地はなくバロックにされるがままであった。
バロックはそんなサフランの隙をついてか、指を抜いてまた再び熱り立った自らの巨大な陰茎をサフランの秘孔にするりと押し付ける。浅く亀頭がサフランの中を出入りする。

しかし、さすがに指とは違う質量と火傷しそうなほどの熱にサフランは気づいて暴れた。

「ほんっ、とに!やめ、ぇ、ぁ、んっ、おし、つけるなあ…っぁああっ」

元々ハスキーボイスのサフランの声がときどきひっくり返って裏声のような喘ぎとなって音に出る。悲鳴にも似た声と同時にバロックはその大きな猛りをサフランな中に勢い付けて三分の一ほど挿入した。

「あっ、ありえな…っ!やめ、ろと…ン、言ったのにっ」
「止めれる訳ないだろう」
「ばっぁあっ、あぅ、あっ、っかぁあ!」

十分ほぐしたようだったがバロックのものがあまりに大きすぎるせいで全て入りきらなかった。ゆるゆると動ける範囲でしかしさらに奥にじっくりとバロックはサフランを侵略する。
しかしサフランからしてみれば体内を直接、大砲が砲撃してくるようなもの。あまりの息苦しさと快楽を勝る痛みに悪態をつきながらも目尻に涙が浮かんだ。

くぅ、どうして僕がこんな目に合わないといけないんだ、あんまりだ、

緩やかに揺さぶられる視界の中、ぼんやりとした思考の中でも脳を占めるのはその一点だけだった。

「あぁぅっ、あんっ、ンっ、た、すけ…!ろま、ろまねぇっ、んぁっあ、たふけてえっっ、あぁあっ」

咄嗟に思い浮かんだ過去に二番目に召喚した息子の名前。あの憎たらしい愛想のない男にでさえ助けを乞いたかった。

「私の前で他の男の名を呼ぶか。いい度胸だな」

バロックは腹黒い笑みを浮かべると、胸や陰茎に触れていた手を離しサフランの肋が浮いたうっすい腰を両手でがっつり掴んで再び勢いつけてさらに深くまで入るよう、挿入体勢になった。
二メートルを超えるガチガチの筋肉質な体型のバロックと、それに比べて身長だけでもおよそ50センチは下回るサフラン。大の大人と小さな子供くらいの体格差はある二人。常識的に考えてそれだけ小柄なサフランがバロックの規格外の大きなそれを受け止めることができるはずもなく。

酷く、強く、とてつもなく、これまでに無いほど、サフランは後悔し、自分の性格を見直した。

ああ、僕は今からこれで貫かれて死ぬのだ、
どうして、どうしてこんな事態になってしまったんだ、
男なのに王妃になれだなんて馬鹿みたいなことを言われて、
ああ、僕の大馬鹿め。宝物に惑わされず結婚の申し込みも断ればよかった、
そうだ、そもそも、召喚の儀なんてしなかったらよかったんだ、

しかし後悔しても後の祭りである。もちろん、助けだって当然来ない。サフランは迫り来る恐怖に怯えるしかなかった。

「あぁぁあああっっッ」

それからおよそ半日後、式典の用意が完了したとロマネが魔王妃の間に二人を迎えにやってくるまでサフランの嗄れた嬌声は一切止むことはなかったという。

いつのまに零したのか、今朝バロックが飲んでいた赤ワイン、…人の血を半世紀寝かしたものが液体だった頃の姿は面影もなく豪華絢爛な青の龍の鱗が敷き詰められた敷物の上にシミとなって残っていた。





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