弱肉強食2
 

“ん、ぁああっ。あぁんっ、きもち…っ、いんちょ、もっとぉ、もっと、そこ、シてぇっ”

“はぁ、は、っ、…うさはここがいいの?”

“うんっんっ、そこぉっ、きもち、いいのっ。グリグリっすきっひぁあんっ”

“やらしいな、うさ。…ほら、そんなに締めないで。きつい…っ”

“ん、らって、いんちょ、あん、離れて、欲しくない…っずっとこうしゅ、るん、んあっ”

“はぁ…っ、かわいい。ずっと俺とセックスするの?うさのここにずっと俺の挿れてていいの?”

“うんっうんっ、いりぇて、ぬかないでっ、ちゅ、ちゅうも、ん、んあっん、ぎゅうもしてえ”

“っは、もちろん、たっぷりしてあげる”

“うれしっ、ちゅう、はむ、んちゅ、…ん、ずっとっ、ずっとこうしててっんむ、ちゅ、ーー”

「わーーーーっ!!」

卯崎は【ディザイア】で風紀委員長こと鷲波に抱かれた日の事を唐突に思い出して叫んだ。幸い学生寮の自室、一人部屋のためその叫びに迷惑をかけられるものはおらずジタバタと卯崎は枕に顔を埋め叫んだり、暴れたりと忙しかった。

オメガのヒートは一週間。
最初の晩はディザイアのVIP席で空が明るくなり店から追い出されるまでセックスして、
次の日以降は朝昼夜関係なくクラブ密集地周辺のラブホを梯子して、
その移動中に我慢できずに人通りの少ない路地や公園のトイレの個室に入ってはシて、
最後の日には鷲波の家のリムジンで学園までの送迎中に運転手に気づかれないようこっそりねっとりとヤって、

二人は本能の求めるまま食ってはヤり、寝てはヤり、ヤッてはヤり、ひたすら行為に耽た。

卯崎が思い出したのはそんな濃い一週間のほんの一部である。これ以上に卑猥な言葉を吐きに吐いて乱れて、ただただ鷲波を求め快楽の海底まで溺れた夜もあった。

ヒートが治った今、それらを思い出して卯崎は羞恥にのたうち回っているのだった。

「俺…どうかしてる…」

真面目で信頼の暑い、所謂お堅い系の鷲波とまさかスクールカーストの底辺を這い蹲って歩くような自分がセックスしたなんて。地味顔の淫乱なんて、とんでもなく気持ち悪い一面を鷲波に見せてしまった、はしたなくも求めに求めてしまった、優しい鷲波にこんな落ちこぼれみたいなオメガを相手をさせてしまった、

ぐるぐると羞恥、後悔が卯崎の脳や胸を何周も何周も駆け回る。
風紀委員会に所属しているからファンクラブや親衛隊こそ規則上発足出来ない為存在しないが、鷲波だって生徒会の天王寺会長や荊姫とあだ名される姫松副会長と人気が並ぶほどの美形。

そんな人と、ハグをして、キスをして、なんなら四十八手の全て攻略しそうな勢いでセックスした。

「…きもち、よかったなあ」

いやだめだだめだ快楽に流されるな、
でも今までヤッた人たちの中で一番気持ちよかったしなあ、
いやいや、風紀委員長はこの学園の人だし!明日から学校で噂されてるかもしれない、
噂されててもいいからもう一回風紀委員長とシたい、他の人じゃもう満足できない、

とまあ、こんな風にひたすら心の中で葛藤を何度も繰り広げていた。
そして鷲波との行為を思い出して下半身に集まる全身の熱。
ベッドの上で仰向けになるとそろりとズボンと肌の隙間に手を入れて、ふるふると着ていたTシャツの裾を口で掴んで自分の半勃ちのそれに触れた。
既に鈴口からは愛液が溢れていて、片手で竿をこすこすと上下に動かし握りながら空いているもう片方の手の指でにゅるにゅるの愛液を掬う。
それをそこもまた粘液で既に湿っていた後ろのアナに塗り広げながら卯崎は鷲波とのセックスをオカズに自慰行為を始めた。

「ん、あ…ん、こんなの、指だけじゃ、も…がまん、できな…ふ、んん」

ヒートが終わったばかりだというのに元々の体質というか、性欲の強さに負けてこの後二度ほど達するまでその手は止まることがなかった。

(もう一度、抱いて欲しい…)

最初の葛藤はどこへやら。卯崎はどうにかしてもう一度鷲波に抱いてもらう方法がないかを夜更けまで考えた。




次の日、朝から卯崎はソワソワドキドキとなんだか落ち着きがなかった。
それもそのはず、いつもなら首が詰まって苦しいほど制服のブラウスのボタンを一番上まで止めて、ネクタイまできっちりしめているところ、今日の卯崎は制服を着崩して着ていた。ノーネクタイに、胸のボタンは第二まであけて少し胸をはだけさせて、ディザイアに行くときにしか触らない髪も少しワックスでセットした。

柄にもなく卯崎がこんな真似を突然したのは、昨晩卯崎が考えたもう一度鷲波に抱いてもらうための作戦に必要不可欠な行動だったから。

風紀委員会は毎朝、正門前に立って服装点検や風紀チェックを行っている。学期末ごとに朝の挨拶運動を実施する生徒会と被った時は朝から正門前のファンクラブたちによる大混雑はある意味この学園名物だ。

しかし今日は正門前に立っているのは風紀委員会のみ。しかも週の始まりの月曜日、その日は決まって風紀委員長の鷲波が何人かの風紀委員と一緒に立つのがお決まりだ。

卯崎はもう一度鷲波に抱いてもらう為の作戦としてそれを利用するつもりである。

わざと違反行為をして、風紀委員長の鷲波に注意される。悪いことをした生徒は“生徒中心”をモットーにするこの学園で先生からではなく生徒で組織された風紀委員会に叱られることとなっている。

違反をすれば風紀に注意される。注意されれば反省文を書かなければいけない。その際風紀室に行くことだってあるだろう、学年も違う風紀委員長の鷲波と会話をするチャンスが普段より格段に増えるはず。

その時にお願いしよう、と。
付き合ってくださいと告白するのはあまりに烏滸がましいから、たまにでいいので、ヒートでなくても、抱いてはくれませんかと。卯崎はそう鷲波に言うつもりだった。

いつもと違う服装の自分、今まで恐れてきた学園の人との接触、それを求める自分、
卯崎はいくつもの複雑な感情を抱えながらバインダーとシャーペン片手に校舎へ向かう生徒たちに挨拶しながら監視の目を向ける鷲波の前で足を止めた。

「お、おはよう、ございマスっ」
「ああ、おはよう卯崎」

奥二重のツリ目がちの瞳と、左の口元と右の目元のほくろが鷲波の慎ましやかな色気を出していて、同級生達より少し大人びた印象である。それに加えて普段の勤勉な授業態度や、学園の秩序を守る者として、現代の男性版アテナだと、性とはかけ離れた純真無垢の高貴な存在として一部の生徒からは神聖化されていた。

そんな鷲波に意を決して、見てください、この違反!とでも言わんばかりにその場で立ち止まり勇気を出して挨拶する卯崎。しかし普通に挨拶を返されただけで終わる。たった二秒で撃沈だ。しかも、

(呼び方…うさき、って、)

ヒートの七日間、鷲波は卯崎のことをずっと“うさ”と呼んでいた。あだ名で呼ばれる事実が鷲波にとって自分は特別なんだと喜んでいたが、ヒートも終わり学校で再会して再び苗字で呼ばれるというのはなんともいえない空虚感を卯崎の胸にもたらした。

「あ、の…その」
「…なにか、言いたいことが?」

作戦達成の前に卯崎はもう心が折られた気分である。やっぱりらしくないことはするもんじゃない、今まで通り大人しく陰気な生徒として過ごしておくのが分相応なんだ、と完全しょぼくれモードに入った。

「い、いえ…なんでもありまセン…」
「そうか、じゃあ早く教室に行くように。もうすぐ朝礼も始まるよ」

諦めて重たい踵を上げて校舎へ向ける卯崎。勝手に丸まる背中のせいで視線はとぼとぼ石を蹴る自分の足元。明らかに朝から落ち込んでしまって陰気な様子である。

「ああ、言い忘れていたけど…」

卯崎の後ろからそう独り言のような声を吐いたのは鷲波だった。鞄も持つ手とは反対の卯崎の手首を掴み引っ張って、耳元に薄い形のいい、何度も卯崎が情事中に吸い付き重ねた唇を近付けた。

「胸元…キスマーク見えてるよ。ちゃんとしめて隠しておきな?…ね、うさ」

小声で周りの誰にも聞こえないように、あの七日間でたくさん聞いた声と同じ、甘い艶っぽい声であだ名を呼んでそう忠告した。

途端、ぐわあと足元から一気に込み上げてくる喜びと羞恥の悲鳴に卯崎は空をも跳ねられそうな気になった。

鷲波は自分と過ごした七日間を忘れていない、それだけで卯崎は舞い上がるほど喜ばしいと言うのにさらに鷲波は卯崎に追い打ちをかける。

「それとも誰かに見せつけたかったのか?…それなら風紀として見過ごせないな」

滅多に表情を崩さないと評判の鷲波が結んだままの唇を片側だけ上げて口元に微笑を滲ませる。それにつられて上がるほくろもなんとも色気を纏っていて卯崎の下半身は朝だと言うのに、またきゅんと疼いた。

「今日の放課後、風紀室に来ること。悪い子には個別でたっぷり指導しないとな」

作戦と多少ズレはあるが、ひとまずこれは成功と言えるだろう。第一段階は突破である。

(はやく、放課後にならないかな。…お願い、しないと)

授業どころか朝のホームルームすらまだ始まっていないというのに卯崎は今日の放課後を想像して脳も瞳も下半身も全身期待に膨らませてその時を待った。




……

実はFAKEのふたりと同じ学園に通ってました。





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