俺の友達の羽鳥という男はとことんやる気がない男だ。
そのせいで何かと損をしている。
やる気さえあれば解けない問題ではない小テストも赤点取って後日再テストを受けてるし。
ほんとは運動だって得意なくせに体育のマラソンではやる気がないからいつもゴールは後半組だ。
「羽鳥〜〜お前は顔はとんでもなくカッコいいのになんでそんなにやる気ナシ男なんだ〜〜」
「うるっせえ、顔関係ねーだろ」
大の親友の俺に対してもこの通り。人間関係も築く気がないときた。
頭をグリグリしようとした俺の手は寸前でパシーンと冷たくはたき落とされる。
鋭利な目つきのクールな男はそんな性格のせいで周りからも少し距離を置かれている。と言ってもそれはいい意味で、高嶺の花扱いだ。観賞用にするにはこんな優れた人間他にはいない。
「そうだぞぉー羽鳥くん。君はもう少しやる気を出すべきだ」
そこにやって来たのは同じクラスの間宮だ。羽鳥とは正反対でごくごく普通の奴。変な口調で会話に混ざって来るのはいつものこと。間宮はノリも良くて面白い奴だ。
間宮と俺と、羽鳥。俺たちはいつも３人で連んでる。
俺の第二の友達、間宮はその顔からは想像もつかない程性格が男前で面倒見のいい男だ。
羽鳥がテストで補習や再テストを受けることになれば放課後居残りに付き合って羽鳥の勉強を見てやってる。
そもそもテスト前にもそれぞれの科目にヤマ張って要点まとめたノートを作って２人はよく一緒に勉強してるし。間宮は勉強は中の下くらいでそこまで優れてる訳でもないのに羽鳥のためにいつもそうしてた。なんていいやつなんだ間宮。
でも運動はからっきしでマラソンの授業は羽鳥と同じく後半組だ。それでもやる気ナシ男を引っ張ってゼーハーゼーハー言いながらゴールするとんでもなく友達思い。
その面倒見の良さからオカンならぬ、名前をもじって俺はマミーと呼んでいる。うちの羽鳥をこれからもどうぞよろしくお願いします。
「なんかお前失礼なこと考えてるだろ」
「いひゃい…」
とか考えてたら躊躇なしに羽鳥からグーパンが顔面に飛んで来た。力加減されてるとは言え暴力反対。
「こら、すぐ手出すなよ羽鳥！山根、大丈夫か？」
「マミー…マミーが女神に見える…ほっぺたナデナデしてくれたら治るかも…」
「おい、ふざけんな。俺がしてやるよ」
「あっ、こら羽鳥！」
申し遅れましたワタクシ羽鳥と間宮の大の親友、山根と申します。俺たちはいつもこんな感じでワチャワチャしてます。２人のおかげで楽しい毎日です。
「は〜、やっともうすぐ冬休みだあ」
「まみ、クリスマスと大晦日と正月空けとけよ。てか毎日空けろ」
「ねえ羽鳥くん？俺は？」
「やだよ、冬休み中にまで羽鳥の面倒見たくねーよ」
「ねえねえマミー？俺は？」
これが大親友に対する対応かっ。やっぱり前言撤回する！
休み時間、次の時間の教科書ではなくポッキーを一箱分パーティー開けして机の上に広げる。ポリポリ食べながらもうすぐ訪れる冬休みの話題になった。
「てか来週のテスト赤点取ったら冬休み丸々補習で潰れるってセンセ言ってたね、そいえば」
「…まじか」
「羽鳥が赤点１個も取らなかったら俺の冬休み全部あげてもいーよ」
間宮は「絶対、羽鳥には無理だろうけど。キヒヒ」と悪い顔して笑って言った。
けど俺は知っている。
「よし。分かった。条件はそれだけでいいんだな？」
「お、おう…？なんだ、自信ありげだな。その調子なら予習もいらなさそうか」
さらに悪い顔して条件を付け加える間宮に、不利なはずなのに間宮よりもさらにさらに悪い顔して笑う羽鳥。イケメンのニヒルな表情はぞくっと背筋に悪寒が走るほどだ。
「あーあ、カワイソ」
俺の言葉に間宮はだよなあ、と共感して笑って、羽鳥は余計なこと言うな、ときっと睨みを利かせてきた。コッワ。
（違うんだよマミー。カワイソなのはマミーなんだよ）
もし羽鳥が赤点取ったら何奢ってもらおう〜と勝手に賭け勝負始めて既に勝った気でいる間宮。
お前は知らないんだろうけどな、マミー。
超やる気ナシ男羽鳥という男は、やれば嫌味なほど誰よりも結果を残せる男なんだ。
テストだって、あいつの頭なら学年一位も届かない目標じゃないんだ。テスト前勉強や補習に付き合ってくれる間宮が可愛くてあいつはわざと本気でテストに挑まないだけ。
マラソンだって、本当は誰より早く走れるのに息切れしてまで自分より図体でかい男の手を引っ張ってゴールする間宮が可愛くて、あいつは本気で走らないんだ。
（騙されてる。騙されてるよマミー）
指折り数えてあれも、これも奢ってもらう！と既に嬉しそうな間宮を哀れむ目で見つめる俺と愛おしそうに見つめる羽鳥。
間宮の冬休みの予定はもう既に羽鳥で埋まってしまったも同然だ。厄介な奴に好かれちゃったマミーってばほんとカワイソ。
………アレ。待って。もしかして一番カワイソなのって冬休みの予定真っ白な俺…？？