竹馬の友

「ねぇ、キミも捨てられたの?」

どうやってキーボードを手に入れようかと考えていたら向こうが先に話しかけてきた。
流星街の住民にしてはフレンドリーだ。子供だからだろうか?
というか私って捨てられたのか預けられたのか未だにわかってないんだよね。ナズナさんもスズシロさんもお父さん(仮)について何も話してくれないし。

「知らない人に家のこと話しちゃダメだから言えない」

なんて答えるか迷った揚句こんな返し方をしてしまった。
男の子はポカン…とした後、家族と暮らしてるの?と驚いたように聞いてきた。
家族といえば家族だけど家族じゃない。

「違うよ、お世話になってるだけ」
「なんだ、拾われたんだ」

拾われたのとはちょっと違うけど説明は面倒なので頷いておく。

「ね、キミ名前は?」
「………人に名前を聞く時は自分から名乗るべきだよ」
「んー、それもそうか。俺はシャルナーク」

年下にこんな言い方をされたら気を悪くするかと思ったら、特にそんな様子もなく普通に名乗られた。
子供同士だからか警戒している感じもない。シャルナーク………………………聞き覚えあるような、ないような。

今、流星街で暮らしている私より少し年上の子供は将来の旅団の可能性がある。
この男の子は条件を満たしている上に名前まで言ってくれたんだけどさっぱりわからない。そもそも旅団って誰がいたっけ?
クロロとマチとノブナガと明らかに人間じゃなさそうなのが何人かいて、携帯かゲーム機で人を操る男にセクシーなお姉さん。
それからデカイ男が二人くらいいて…あっ、掃除機持った女の子もいたな。そのくらいしか覚えてないや。

Q:で、この中にシャルナークというキャラはいますか?
A:わかりません

「ねぇ、ちょっと聞いてる?」
「えっ、うん。聞いてる聞いてる。シャルナークって名前なんでしょ」
「そう。で、俺は名前言ったんだけど?」

すっかり旅団について考え込んでいた私は、シャルナークの言葉によって現実に引き戻された。
もしこの子が将来の旅団員なら名乗らず逃げたいけど、今のところわからないしなぁ。ちょっと話すくらいなら別にいいか。

「私はセリ」
「セリね。セリは最近流星街に捨てられたの?」
「いや?赤ちゃんの時からずっといるけど」
「……ってことは此処とは別の地区で暮らしてるの?」
「地区?」

何の話だ急に。
意味が分からず首を傾げる私を見て、シャルナークは目を丸くした。

「自分が暮らしてるところ知らないの?」
「というか、地区とか初耳っていうか…」
「ああ、世話してもらってるんだっけ?なら知らないか。セリまだ小さいし」

お前も小さいだろ、と思ったけど私が小さいのは否定できないので黙っておいた。
シャルナークが言うには此処は第三地区。私が普段暮らしてるのは第四地区らしい。流星街って一応区分けされてたんだ……。
なんでも地区ごとに住民登録所があって、そこで登録して初めて流星街の住民として認められるらしい。
登録しなければ流星街でも人間として扱ってもらえず、マフィアに売られたり集会所で支給品を受け取れない、などのデメリットが生じるんだとか。前半デメリットなんてもんじゃないだろ。

「…全然知らなかった」
「セリが一緒に暮らしてるのって大人なんでしょ?なら、勝手に登録してくれてるんじゃないかな」

登録してない人間は流星街の住民ではなくただのゴミ。だからマフィアに売られるわけで、赤ん坊の時から流星街に居る私が売られていないのはとっくに登録済みだからだとシャルナークは言う。
安心した。何気なく過ごしてたけど流星街怖すぎる。

「シャルナークも登録してるの?」
「うん。俺は仲間に一緒にやってもらった」
「仲間………、って大人じゃなくて?」
「そうだよ」

あっけらかんとシャルナークは言った。
なんか、流星街というとものの実態を垣間見た気がする。保護者なんていなくて当たり前なのだ、捨てられたのだから。

「あのさ、俺のことはシャルでいいよ。みんなもそう呼ぶし」
「あ、そう?ならそう呼ばせてもらう。…ね、シャルは仲間と暮らしてるの?」
「いや、ただ皆で一緒に行動したり集まることが多いだけ。………うーん、でも感覚的には一緒に暮らしてるようなもんかも」
「へぇー、みんな年近いの?」
「そんなに近くないよ。一番上は14か15、一番下はセリと同じくらいかな」
「そうなんだ…」

結構年上の子も一緒だと聞いて少し安心した。
年齢的には中学生くらいで世間から見ればまだまだ子供だが、少なくとも私やシャルぐらいの年の子供ばっかりじゃなくてよかったと思う。
こんな風に子供だけで生きている子達がいるのだ。はるかに恵まれた環境にいる私はちょっと甘ったれてる。
走るの面倒とか集会所行きたくないとかメガネとか文句言い過ぎだ。

「ねぇ、さっきから俺ばっかり答えてるけどさ、セリは此処で何してるの?」
「え、……………あっ!そうだキーボードだ!」
「は?」

そういえば私キーボード探しに来たんじゃん!地区とか色々言うから忘れてた。
となれば…、シャルが持っているキーボードに視線を向けて控えめに問う。

「あのさシャル、それってどうしても必要?」
「ああ、これ?そこまで必要ってわけじゃないけど……セリはこれが欲しいの?」
「そう!私はそれを探しに第三地区まで来たんだから」

ついさっき知ったばかりの地区名も出してみたらシャルは特に悩む様子も見せず「じゃあ…」と言って私を指差した。
正確には私が持っている小型ゲーム機らしきものだが。

「代わりにそれ頂戴。そしたらこれはあげるよ」
「これ使えないよ?私がさっき踏んじゃったし多分壊れてる」
「別にいいんだ。分解したいだけだし」
「分解……」

直すんじゃなくて分解なのか…いや、分解することで仕組みを理解し直せるってことか。
この子は機械に興味があるようだ。車とか好きなタイプなのかな。

「まぁ、私は別にいらないしキーボードくれるならいいよ」
「そう?じゃあ交換ね」

シャルがキーボードを渡してきたので私もゲーム機を渡す。
…意外にあっさりとキーボードを手に入れちゃったな。でもこれで目的は達成した。

「それじゃ私帰るね」
「えっ、そんなあっさり?」
「だってもうやることないし」
「いや、そうかもしれないけど……あのさ、またこの場所に来る?ていうか来なよ」

最後おかしくない?
しかし、シャルの言いたいことは何となくわかった。同じ年頃の友好的な子供に出会えたのだ。流星街での情報収集の輪が広がるじゃないか、しかも別の地区。
ていうのは半分冗談で友達っぽいものになれるかもしれない、ってことでしょ多分。
いいじゃん友達。そういえあ私、転生してから一人も友達いなかった。流星街って友達作っていいんだよねゾルディックじゃないんだし。

というわけで「時々なら来るよ」と言って私はシャルと別れ、戦利品のキーボードを持って家に帰った。
ナズナさんを見た瞬間に吹き出しかけたけど同時に友達っぽいもの出来るかもぉ、と言うことで上手くごまかした。
ナズナさんは軽く引いていたので多分ごまかせていなかったのだろう。
キーボードと友達候補を手に入れた私は気分が良いので気にしないでおいた。よし、文字の練習頑張るぞ!

と決めた次の日、キーボードは集会所に持っていかれたらしいです。
年上だからってあまり調子に乗るなよ27歳。

[pumps]