竹馬の友
7歳になった……いや、正確にはもう少しで7歳になるという頃になり、もうほとんど心は7歳みたいなもんだから念の修行しようよ!と毎日しつこくナズナさんに言い続けていたら、ある日座禅が始まった。
なんで?と思ったらナズナさん曰く精孔とやらを開かなきゃ念は使えないそうだ。精孔は瞑想など精神統一をすることで開くんだとか。

そんなわけで毎日座禅をして、時には雑念だらけなのがナズナさんにバレて頭叩かれたりしながら半年ぐらいが過ぎてようやく精孔が開いた。そこから纏をひたすら練習し、凡そ一か月。
一応それらしきものは出来てきたねとナズナさんに言われた私は上機嫌で出掛け、自主練として淀みまくった纏をした状態で第三地区のゴミ山を漁るという今に至る。

精孔が開いてから此処に来るのは初めてだった。最後に来たのは2ヶ月前、シャルが自分で直したというラジオを友情の証(私はそう思ってる)として貰って以来だ。
せっかくだし、私も何かあげよう。そう思って買ってくるのではなくゴミを漁るあたり私も立派に流星街の住民となったものだ。

「セリ、キミさ………」
「あっ!シャル久しぶり」

ゴミを漁っていたらシャルがやってきた。
視線をゴミからシャルに移すと彼は私を見て目を見開いた。顔に驚いてます!と書かれているくらいわかりやすく動揺している。
なんだどうした?と私が口を開くより先にシャルが言葉を発した。堪え切れないとばかりに吹き出しながら。

「纏ヘタすぎ!」
「お前念使えるんかい」

転生前のお父さん、お母さんついでに転生後のお父さん(仮)。
7歳になった私はシャルナークという男の子とそれなりに良い友好関係を築けています。
ただ友人というにはお互いを知らなさすぎると思いました。


「セリってば最近来ないと思ったら念の修行してたんだ。それで纏が出来るようになって………ぶふっ!」
「なんで最後吹き出したの?何その顔腹立つんだけど」

シャルは私の纏を見て半笑いで話してくる。
ムッとしたがシャルの姿をよく見てみると淀みのない綺麗な纏の状態を保っていた。こいつ本当に念使えるんだ…。

「俺だって念知ったのは三か月前だけど、纏が出来るのに一か月もかからなかったよ」
「私はアレだよ本気出してないっていうか………え、三か月前?」
「うん。三か月ちょっと前に知って精孔が開いて修行始めたのが二か月前かな?セリは結構前から念のこと知ってたんだね」

教えてくれればよかったのにー、なんて言ってるシャルの声は耳から耳へ入ってすぐに通り抜けていく。
あれ?三か月前に初めて念について知って一か月くらいで精孔が開いて修行始めて纏が今この状態?それは才能ってやつじゃないか?

「神様って不公平だ…」
「は?何が?」
「いや、こっちの話」

だって、念について知ったのが私より遅いのに精孔開くのが私より早いってどういうこと?半年かかった私はどんだけ才能ないんだ。
それで纏があの状態になるのに一か月かかってないって……あ、ということはひょっとして。

「シャルはもう四大行一通り出来たりするの?」
「四大行?何それ」
「えっ、念の基礎だよ。今やってる纏とそれから練と絶と発の四つ」

きょとん、としていたシャルは練、絶、発という言葉を聞くと「ああ〜それね!」と言って大袈裟に手をポンッと叩いた。

「それってまとめて四大行って言うんだ。俺はただ念の修行って言われて実演見せられてこの四つやってみろ、って言われたからさ」

何だそのアバウトな修行方法。基礎ってことくらい教えてやれよ。

「誰から教わったの?」
「第四地区に住んでるおじいさんだよ。変な恰好した」
「変な恰好?えー、そんな人うちの地区にいるんだ」
「面白い人だったよ?聖書って本くれてさ、クロロが興味津々で…」
「…………クロロ?」
「あ、仲間の一人だよ。本とか好きなんだ。一緒に念の修行してるんだけど…………セリ?どうしたの?」

顔色悪いよ大丈夫?とちっとも心配してなさそうな声色でシャルは尋ねてくる。
大丈夫かって?正直に言ってやる大丈夫じゃない。

「そのクロロって生きてる人間の名前なんだよね?」
「あれっ俺仲間って言ったよね?」
「男・女・不明どれ?」
「男」

友達の仲間が旅団の団長とか泣きたい。

***

「私、強くならなきゃいけない……そう感じたんです」
「はぁ」
「だから必殺技とか作ろうと思う」
「それはまだ無理だから」

ナズナさんは無表情で私の言葉を切り捨てた。
わかってる、まだ能力を作るのは無理だってわかってる。でも早く強くなりたいんだ私は。
シャルのクロロは仲間で男発言の後、私はなんだか修行がしたくなってきたと適当なことを言ってその場から逃げた。
シャルは「顔色悪くなるくらい修行したいの?」と不思議がっていたが、テンション上がると顔色悪くなるタイプだから…と意味不明な事を言っておいた。納得していたので上手く誤魔化せたようだった。納得するな。

家に向かって歩きながら同名の別人、という可能性も考えたが多分それはない。
そりゃハンター世界でクロロが名付けランキング一位になるくらいありふれた名前だっていうなら別だけど、普通にそんなことないだろうし。
クロロが団長なら、シャルも私が覚えていないだけで未来の旅団員なのかな、と考えると微妙な気分だった。
シャルの言う仲間にはマチとかノブナガも入ってるんだろうか。この広い流星街で初めての友達が旅団員かもしれないとか私の引きすごい。

ていうか旅団(仮)に念を教えた変な恰好のおじいさんって誰だよ迷惑だな、と思って歩いている途中、久しぶりに牧師コスプレのおじいさんを見かけた。
例の教会もどきから離れた場所だったので移動するんだ……と見ていたらおじいさんが纏をしていたので念が使えるのかと驚いた。
しかも、近くにナズナさん(外見年齢)と同い年くらいの黒髪の男の子がいて、その子も念能力者だったのでさらにびっくり。結構カッコイイな、と思っていたら目が合って恥ずかしかった。
二人とも綺麗な纏をしていたのですごいなぁ、おじいさん禁煙すればいいのに、と思った。
まあ、そんなこんなで冒頭の会話へ至る。

「ナズナさん、練をやりたいです」
「いや、気持ちはわかるけどまず纏をもう少し練習しよう。焦らずゆっくり、一つ一つマスターしてけばいいだろ?」

落ち着け、とばかりに手のひらを見せて言う。ナズナさんの言うことはわかる。
すぐに完璧になれるわけじゃない、人によって習得するのにかかる時間は違うのだ。
シャルのように才能があればすぐに応用技までいけるんだろう、でも私は精孔開くのに半年かかったし、纏もまだまだだ。一人前の念能力者になるまで10年以上かかるかもしれない……。

「でもそれじゃスシ職人じゃないですか!」
「何の話?」

ああ、なんだかお寿司が食べたくなってきた。米だ、米が食いたい。懐かしの白米に思いを馳せる。

[pumps]