少年よ、大志を抱け
店員さんのありがとうございましたー(多分)を背にノブナガと並んでコンビニを出る。
ノブナガは結局ロールケーキとモンブランとプリンを買っていた。私のあんぱんと牛乳も一緒に買って貰ったので袋は一つだ。

「で、お前どうしたんだよ。その格好」
「聞かないで。どうしてもって言うなら、あんぱんあげるから」
「いらねぇよ」
「ノブナガこそ何その今日オフですみたいな格好。コンビニスイーツとかOLなの?キャラぶれすぎじゃない?」
「うるせぇな。コスプレしてる奴に言われたくねぇよ」
「やめて」

痛いところを突かれる。
私だってやりたくてやってるわけじゃないんだ。趣味みたいに思わないでくれ。
いつまでもコンビニ前で止まっているのもあれなので、とりあえず歩き出す。
ノブナガは持っている袋をブラブラと揺らしながら「旅行か?」と聞いてきた。

「うん、一応そういう感じだったんだけど………気が付いたら友人は寿司屋に下宿し、携帯は盗られ、姑が煩い……」
「はぁ?」

何言ってんだコイツという目で見られる。所々省略しているので変なことになったが、何一つとして嘘は言っていないという事実が恐ろしい。
暗い表情を見せる私にノブナガが何かを言おうと口を開く。ほぼ同時に後ろから少し高めの若い男の声が響いた。

「あーーーっ!!」
「!?」

吃驚して振り返ると大きなスーパーの袋を手に一つずつ持った若い男が目を見開いてこちらを見ていた。
見た目的に多分十代で丸眼鏡に茶髪の天パという特徴的な男だが見覚えはない。横のノブナガに視線をやると「あ」と呟いた。知り合いらしい反応だ。
いや、普通に生きてたら一つも接点ないだろお前らと言いたくなるくらい意外な組み合わせに首を傾げていると丸眼鏡の天パが両手のスーパーの袋をドサッと地面に落として言った。

「ノブナガが児童買春を…!」

待て待て待て待て。
私がノブナガより年下(確か十歳くらい離れてる)で制服を着ているからそういう発想になるのだろう。しかも黒髪ボブのウィッグとか完全に清純派だ。うん、私は清純だけど!
すごく面白い勘違いをする人だな、と思っていると横にいるノブナガが呆れたような顔で「こっち来い」と天パさんを手招いた。
天パさんは落とした二つの袋を慌てて拾って駆け寄ってくる。
そして私の顔を見て言った。

「あ、さっきは可愛いと思ったけど近くで見るとそうでもない!」

うわぁ、ぶっ殺したい。
自分の顔が引き攣るのを感じているとノブナガが天パに拳骨を食らわせた。いい仕事するじゃん。
ノブナガは「昔馴染みだ、勘違いすんな」と天パの頬をつねった。畜生そこかよ。
天パは「えー、なんだ…」とつまらなそうに言った後、つねられた頬を擦りながら私に声をかけてきた。

「ねぇねぇ、年はいくつ?」
「あー…17くらいです」
「へー、近いねぇ。僕は多分16」
「はぁ!?年下かよ!お前ふざけんな調子乗んなよ!!」
「ええええ!?急に!?」

天パの胸ぐらを掴んで揺さぶる。
だって!年上ならまだしも年下に「そんな可愛くないや!」とか明るく言われたんだぞ!ふざけんなよこのガキ!!前世も含めたら私の方がずっと年上なんだからな!!

「だいたい何この丸眼鏡!ハリー・ポ○ター気取りかテメェ!」
「ギャッ!!目潰しやめて!!」
「お、おいおい止めろって!」

慌てたノブナガに止められたので眼鏡を割るのはやめてあげた。天パは半泣き状態である。

「ノブナガ、何なのこの天パは。納得できる紹介をお願い」
「悪い悪い。いやー、実はコイツうちの8番なんだよ」
「ええええ!?」

このナリで旅団なのか!?私が言うのも失礼だが、こんなに弱そうなのに!?
嘘だぁと疑いの眼差しを向けるが、いくら待ってもノブナガはネタバラシをしてくれないし、天パは誇らしげに胸を張っていた。信じ難い事だが事実らしい。

「天パ。名前は何ていうの?」
「あ、えーっと…実は僕、名前なくて」
「何それ猫なの?」
「ううん?ちょっと言ってることよくわかんないや」

吾輩はなんちゃらである名前はまだない的なやつ?って当たり前だが通じてない。
なんでも天パは生まれてすぐに捨てられ、名無しのまま育ったそうだ。女子のように髪を指で弄りながら言った。

「本名はちゃんとあるのかもしれないけど知らないなぁ……今まではチビとか天パとか呼ばれてたけど…」

それいじめられてんじゃないのか?
とは言わずに「書類にサインしてくれって言われたらどうすんの?」と代わりに聞いた。
曰く、どうしても必要になったらトムとかジェリーとか適当に名乗っているらしい。

「蜘蛛では8番とかお前とかあんたとか適当に呼ばれてるんだ。だから僕のことは好きに呼んじゃって」
「よろしくゴミムシ」
「ごめんなさい」

好きに呼んでくれって言ったじゃん。
と目で語りかければ、それに気づいたノブナガが笑いだした。15歳以上で素で僕とか言う奴は信用できないよね。
天パがゴミムシはやめて、と涙目で訴えてきたので代わりの名前を考える。

「あ、じゃあハリーって呼ぶね」
「あ、あれ?急にまともな人名になった」
「なんか某魔法使いの少年に似てるじゃん。丸眼鏡とか。だからハリー。あっ、8番のハリーでもいいけど」
「うーん、意味わかんないや」

のんびりしてるなぁ。
なんか今の答え方、蜂蜜大好きな熊のぬいぐるみみたいだった。こんなのであんなクセの強い旅団でやってけるのかな?と他人事なのに私が不安になる。
するとノブナガが思い出したように話を始めた。

「そういやセリ、お前今暇か?」
「暇……ではないけど、忙しいわけでもないかも」

忍者に無理やり与えられた任務を思い出す。一々才蔵さんと連絡とるのめんどくさいもんなぁ。

「よくわかんねぇけど、時間はあるんだな?じゃ、ちょっと着いてこいよ。美味いもん食わしてやる」
「えっ、本当に?」

顔を明るくした私にノブナガは大きく頷いた。
ここで子供達に伝えておきたい。お菓子あげる、って言われてホイホイ着いてっちゃダメだよ。絶対に後で後悔する。

***

「よーし、着いたぞ」
「ねぇねぇ、ハリー。エクスペクトパトローナムって空に向かって叫ぶと守護霊くるんだよ、知ってた?」
「えー!本当に!?」
「オイ、聞いてんのかお前ら。セリ、嘘教えんな」

二人揃って仲良くノブナガに頭を叩かれる。ノブナガは呆れたように「馴染みすぎだろ…」と呟いた。
確かに、性格が合うのかもしれない。どうでもいいけど。
と思ってから、ようやくしっかりと辿り着いた場所を目に入れる。そこであることに気が付いた。

「んん?此処って…」

微妙に見覚えがあると思ったら、なんと私とヒユちゃんが誘拐犯達に連れてこられたあの廃れた工場だったのだ。
え?あれ?美味しいもの…………あれ?
混乱している私に、ノブナガはここをジャポンに来てから仮のアジトとして使っていると言った。
あ、あれぇ〜?なんかすごいナチュラルに来たくなかった旅団のところに連れてこられたぞ〜?いや、自分のせいだけど!

でも、ここをアジトとして使ってる?じゃあ、あの時シャルが居たのはこういうこと?ていうか旅団が使ってるってことは犯人達どうなった?
と記憶を遡ろうとしている私を置いて二人はさっさと中に入ってしまった。

帰るとも言えてないし、あんぱんと牛乳もノブナガが持ったままなので慌てて後を追う。
すぐにあんぱんと牛乳を貰って帰らないと…!

「おーい、帰ったぞー」
「お、お邪魔しまーす…」
「おっせーよ、って誰だそいつ。……………あ?」

真っ先に私に反応したのは懐かしのウボォーさんだった。
目を細めながらこちらへ寄ってきたので「ッス!あんぱん!」と挨拶した。

「あ!?お前セリか!」

あんぱんで気づかれた。
ウボォーさんは「どうした!?どうした!!」と私の肩をバシバシと叩く。あはは、相変わらず元気一杯だいってぇや。

一人一人に説明するのが面倒なので「どうもセリでーす。どうもー」と皆に聞こえるように言えば、どこからか「コスプレ…」とボソッと聞こえた。誰だコラ。
そんな私をよそにノブナガがパクに向かって言う。

「ほら、パク。頼まれてたもんだ」
「あら、御苦労様」

コンビニの袋をパクに渡す。あ、ノブナガが食べる訳じゃないんだ。良かった。
なんとなく安心し、そうだあんぱんと牛乳貰わないと……と口を開く前に珍しくフェイタンに声をかけられた。

「セリ、お前も食うか?」
「?なにそれ?」
「濡れ煎餅。ワタシがコンビニで買てきたね」

え、珍しい……と少し感動しているとフェイタンは濡れ煎餅を私の目の前、地面に叩きつけた。
そして鼻を鳴らした後、食いたきゃ這いつくばって食えよ…と言いたげな目で見られたので丁重にお断りした。なんだコイツ相変わらず過ぎる。

残念そうにするフェイタンに苛ついていると後ろから名前を呼ばれたのでそちらを向く。呼んだのはパクだった。

「こっちにねる○るねるねあるけど、食べる?」
「ねるね○ねるね!?なんで!?」
「マチがスーパーで買ってきたのよ」

パクノダが言うと近くに居たマチがほら、と私に袋を渡してきた。
中を確認すると大量のね○ねる○るね。なんとも懐かしい…と一つ取り出して眺めているとまた声をかけられた。今度はフランクリンだ。

「おい、セリ。こっちに笛ラムネあるぞ」
「えっ、それはどこで……」
「俺が駄菓子屋で買ってきた」
「………………」

なんか、こいつらジャポン楽しんでんな。

「音が出るんだってよ」とフランクリンが笛ラムネを私の手に握らせた。知ってる。
まさか、ノブナガが言ってた美味しいものってこれのこと?美味しいけど、確かに美味しいけど。
いや、そうじゃなくて、こいつら大丈夫か?盗賊集団って嘘だったの?
そう思っていたのは私だけじゃないらしく、こちらにやって来たウボォーさんが私の肩に手を回して文句を言った。

「どいつもこいつも素直に金払いやがって。盗賊なら盗めよなぁ。セリ、お前から言ってやってくれ!」
「いや、コンビニとかで盗みを働いてもみんなのプライドが傷つくだけじゃないかな?」
「あー、それはまぁ、そうかもしんねぇけどよ」

普段から意識することが大切だと教えられた。なんだこのトークどうでもいい。
ちなみにウボォーさんは普段からお金を持っていないらしい。持てよ。
暫く盗賊トークをした後、思い出したようにウボォーさんが言った。

「そういや4番の野郎は?来てねぇのか?」
「あー、なんかあいつ死んだらしいぜ」
「は?マジかよ」

ノブナガがハリーの買ってきた飲み物を紙コップに注ぎながら答えた。
4番ってあの顔色悪い人のこと?え、あの人死んだの?と私も一緒になって少し驚いているとパクがプリンの蓋を開けながら言った。

「代わりが入ったそうよ。私はまだ会ってないからどんな奴か知らないけど」
「ワタシも会てないね」
「俺もだ。誰か知らねぇのか?」
「さぁ、団長くらいしか知らないんじゃない?」

パクがプリンを食べながら言った時、マチが顔を歪ませたのを見た。プリン嫌いなのかな?
不思議に思いながらフランクリンに貰った笛ラムネの袋を開けるとハリーがスルメイカをかじりながら言った。

「そういえば、団長さんはー?」
「来てないわよ。あとコルトピも」
「コルなら、さっき屋台でたい焼き買ってるの見たよ」
「ボノレノフとフィンクスはどうした?」
「明日の下見……って言ってたけど、さっき豚骨ラーメン食ってんの見たぞ」
「誰がラーメン屋襲撃するなんて言たよ」

フェイタンが濡れ煎餅の袋を乱暴に開けながら言った。
ちょっと怒っているようで、フランクリンが「今回の仕事が終わったらお前も食えるだろ」と宥める。
そこであることに気が付いた私はキョロキョロと辺りを見回し、ぽつりと言った。

「……シャルは?」

今頃だけど、アイツいない。あれ、どうしたんだろう?
一人言のつもりだったが、ハリーにはしっかりと聞こえていたらしく「あっ、はいはーい!」と元気よく手を上げて教えてくれた。

「シャルなら公園のベンチで缶コーヒー片手に絶望してるの見たよー!」

どうしたアイツ。

[pumps]