少年よ、大志を抱け
次の日、私は起きてすぐにハンゾー先生に拉致された。
そして、普段は使われていない部屋でハンゾー先生が連れてきた色っぽいくのいちのお姉様方に女子高生への変身を手伝われた。この人達強い。
ちなみにヒユちゃんには才蔵さんから、私は腹を壊してトイレに籠っていると伝えているらしい。他にもっとなかったのか。

主にメイクに時間をかけた結果、ヒユちゃんが家を出て少ししてから、ようやく私は開放された。
お姉様方がハイタッチをしていたので中々の出来らしい。鏡を見せてもらったが、ただのコスプレとしか思わなかった。
お姉様方にお礼を言ってから部屋の外に出るとハンゾー先生と才蔵さんが待ち構えていた。

「お、なんだ意外と似合うな」
「ほら、鞄だ。あと、こいつを持ってけ」
「トランシーバーって……」

乱暴に投げられたので仕方なく受けとる。
さらに鞄を床に叩き付けられた。この人モノを扱うの下手過ぎない?

「定期的に報告しろ。何か異常があったらすぐに連絡するように!不審者がいたらとりあえず倒せ。ちなみに俺は責任は取らない。それから…」
「学校近くまで俺が送ってやるよ。いくぞ」
「うっす、よろしくハンゾー先生」
「おい!聞いてんのか!おい!!」

まだ俺が喋ってるでしょうが!と怒る男前を無視して家を出た。

***

若さとよくわからないエネルギーに溢れている生徒達に紛れて正門らしき場所から中に入る。
ああ、懐かしいこの感じ。皆おはよう、誰も知らないけど。素知らぬ顔をして歩く。
制服着て堂々としていれば、余程セキュリティのしっかりした学校でない限り潜入なんて楽勝だ。
周りの生徒達を見る限り、そんなに校則が厳しそうにも見えない普通の学校である。ちなみに共学。

校舎の中に行かずに、その辺の影に隠れて絶をした。
チャイムが鳴って近くに人の気配がなくなってから、ロッククライミングの要領で壁を登って初等部の屋上へ。私もたくましくなったもんだ。

「あー、めんどくせっ」

肩から降ろした鞄の中にはトランシーバーと双眼鏡と財布と夢と希望が詰まっている。何しに学校にきたんだ。
ひとまず双眼鏡とトランシーバーを取り出す。電源を入れれば、早速才蔵さんの声が聞こえた。

『おい、セリ!聞こえるか?今日の一限は体育のはずだ。校庭は見えるか?』
「こちらセリです。校庭はバッチリです。ここから眺めよすぎて美少年見つけました」
『んなもんどうでもいいわ!ヒユ様の様子はどうだ?何か変わったところはないか?近くに変な奴はいないか?忍者とか女子の制服着たおっさんとか』
「いるかそんな奴。正直私が一番怪しいよ」

トランシーバーで連絡取りながら屋上で双眼鏡使って観察とか、どこの雑魚スナイパー?
校庭にはこれから体育の授業を受けるらしい小学生達が集まっていた。体操服とか懐かしい。

『ヒユ様が怪我でもしたら直ぐに教えろ。最悪お前が担当教師をぶん殴ってもいい!』
「重度のモンペじゃねーか」
『もんぺ?急に何の話だ!もんぺ履きたいなら今度貸してやるから後にしろ!』

才蔵さんのうるさい声を聞き流し、空を仰ぐ。
見事なまでの晴天だ。ナズナさん、今日も世界は平和です。

ぐー、とお腹がなった。
そういえば今朝は着替えとメイクが忙しくて何も食べていなかった。空腹を感じ、無言でトランシーバーの電源を切った。
そして鞄の奥底に仕舞うと屋上を後にし、絶を使ってこっそりと裏門から学校を抜け出して近くのコンビニへ向かった。
あんぱんと牛乳を買おう。張り込みにはあんぱんだって山崎さんが言ってた気がする。家に帰ったらヒユちゃんとバドミントンでもやりたいな。

そんな願望を抱きながら学校から徒歩五分のコンビニに入ると「いらっしゃいませー」とジャポン語、というか日本語で言われた。多分。
母国語なのに久々過ぎて、あまりうまく聞き取れなかったのだ。完全にハンター世界に染まってるわ。
日本語を忘れてしまう、というのはなんだか日本で暮らしていた自分の存在を否定してしまう事のように感じた。

日本語の勉強やり直そうかな、と少し本気で考えながら菓子パンを探して店内を進むと、私はとんでもない光景を目にしてしまった。

「………あ!?」
「ん?」
「………………」
「………………お前セリ?」

スウェットを着たノブナガがコンビニスイーツを眺めていたのだ。

[pumps]