田中
「でもこの呪い、実は解けるかもしれねぇんだ」
「え?」

田中さんに恐怖していた私の耳に意外な台詞が聞こえてきた。
今の時点で私は呪い=念と解釈している。呪いを解く、つまりは念を除去するということだ。それが出来るのは除念師だけである。
念は知らないのに、除念師の存在は知っている?
首を傾げる私にハンゾー先生は「これも話すと長くなるんだが」と前置きをして話し始めた。

「まず奥様、ヒユ様の母さんには妹がいる。名前は撫子、もう随分前に亡くなられた」
「妹ってことは最初の子供じゃないから念……じゃないや、呪いは掛かってないよね?その人に何の関係あるの?」
「ああ、撫子様自身は呪いに関係ない。撫子様ではなく、その夫が関係してるんだ」

思いっきり他人じゃん、と無意識に口から溢れる。
普通に考えて御堂家の血筋ではない人だよね?なら、その人が念能力者で除念師の存在を教えたということなのか。
口には出さずに頭の中で考えを纏め、ハンゾー先生の次の言葉を待つ。

「撫子様の伴侶は随分変わっていてな。俺も実際に見たことがないから正確にはわからないが、猿飛先生が言うにはまずデカイ、マッチョ、外人だそうだ」
「は、はぁ」
「身長は二メートル越え、片手で車を破壊するほどの力、『飛べない豚はただの豚』とでも言い出しそうなワイルドな雰囲気、そしてクールな緑の瞳。俺達の間じゃ敬意を表してブタゴリラさんと呼ばれている」

嘘つくなよ、悪意の塊じゃねぇか。

「そのブタゴリラさんは言った。御堂家にかけられた呪いは優秀な“除念師”を捜せばそいつが解いてくれる……ってな」

除念師、という言葉に体がわかりやすく反応してしまう。やっぱり解く方法って除念のことか。
ということはブタゴリラさんは念能力者で間違いない。呪い=念という解釈も合っていた。
私ってばなんて頭が良いの…!と自分で自分を誉め称えてやった。むなしくなった。

ハンゾー先生は誇らしげにしたり、落ち込んだりと忙しい私を不思議そうに見ながら口を開く。

「で、ヒユ様は自らその“除念師”ってのを捜すために強くなろうとしてる。だからお前に弟子入りしたがったんだよ」
「え、そういうことだったの」

ハンゾー先生にビシッと指を差されて狼狽える。
しまった、あの子にはそんな重大な使命があったのか。
確かに除念師の数は非常に少ないらしいし、本気で捜すならまずは念について知らなきゃいけない。そしてハンターにでもなるのが手っ取り早い方法だ。
どちらも強くなるのが絶対条件。ヒユちゃんが強くなりたがってるのってそういうことか。
なら悪いことをしてしまったかも、と少し反省する。別に弟子にはしないが。

正座をして反省モードになった私を見て、ハンゾー先生は深々と頷いた。
しかしすぐに「といっても…」と参ったような素振りを見せる。

「除念師ってのが何なのかは未だによくわからねぇ。まぁ、祈祷師みたいなもんだとは思うが……」
「え?わからないって、ブタゴリラさんは教えてくれなかったの?」
「ああ。あの人は除念師って言葉しか言わなかったらしい。撫子様が出産と同時に亡くなった後、生まれた子供を連れてどっかに行っちまったんだと」

こういう大事な事は最後までちゃんと言ってほしい、と少し怒ったように続ける。
ブタゴリラさんが除念師という言葉しか教えなかったのは嫌がらせか、それとも御堂家に念の存在を知っている人が一人もいなかったからだろうか?
念を全く知らない人達に一から念について説明するのは難しい。ていうかめんどくさい。
だから、とりあえず除念師というキーワードだけ伝えたのかもしれない。ブタゴリラさん、私と性格似てるな。

でも優秀な除念師って殆どいないんだよね?特に今回の場合は念能力者の田中さんはもう死んでる。
死者の念を除去するのはかなり大変なことだって昔聞いた。だからナズナさんも元に戻るの諦めてるんだし。
御堂家の皆さんには悪いが、ぶっちゃけ除念するの無理じゃないか?

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