初恋
「それでクローゼットに!閉じ込められたの!」
「へー」
「へー、じゃないよ。私あの子に何かしたかな?あ、存在がアウトとかそういう悲しい回答は求めてないから!」
「いや、別にセリ姉は何もしてないと思うけど」
「だよね!」
「でも間接的にはしてるのかも」
「えっ」

俺もよく分かんないけど、と続けるミルキは最初から最後まで私ではなくパソコン画面を見つめていた。
慰めてもらおうとミルキの部屋に駆け込めばこれだ。
どうして私の知り合いにはこんなに冷たい人しかいないんだろう。皆もうちょっと私に優しくしてもバチは当たらないと思うよ。

後ろから怨めしげにミルキを見つめるが特に反応はない。
このごちゃごちゃのケーブル配線引き抜いてやろうか?なんて思っていたらミルキはパソコンの画面から目を離し、充電器に繋いだ携帯をギリギリまで引っ張って自分の手元に持ってきた。
片手で携帯を弄りながら、もう片方の手で私に向かって「食べる?」とスナック菓子の袋を投げてくる。上手くキャッチして袋を開き、一つ摘まむ。味が濃い。
こんなのばっか食べてるからよく肥えた家畜みたいな体型になるんだよ、と口には出さない私は優しいが酷い人間だ。

もういらね、とスナック菓子の袋をその辺に置く。
熱心に携帯を弄るミルキが何も言わないのを良いことに部屋を隅から隅までじっくりと眺めさせてもらう。

久々にやってきたミルキの部屋はすっかり重度のオタク部屋になっていた。おかしいな、昔は美少女ポスターが一枚貼ってあるだけだったのに。
今じゃそこら中に溢れかえるフィギュアにゲームソフトに漫画にDVDにうーん、なんか色々!あんま興味ないからよくわからないや。
これだけ物があったら掃除も大変だな、とフィギュアがぎっしり並べられた棚を見ると塵一つない。執事さん達にやらせてるのかな?
いや、でもこのオタク趣味全開な部屋に他人を入れるか?私は思いっきり入ってるけど。

「あー、あった。これこれ」

オタク部屋の掃除という未知の領域について考え込んでいるとミルキが椅子の向きをくるりと変えて私に充電器の線を抜いた携帯を差し出し言った。

「何?」
「この写真。多分カルトのセリ姉へのイタズラはこれが原因かと」

クローゼットの前に大量の家具置いて中に閉じ込めるのはイタズラなの?と疑問に感じたが、ミルキに聞いても私の求める答えは出してくれないと思うので黙って携帯を受け取った。
画面を見ると制服姿の女子高生が写っている。黒髪ボブにセーラー服、見覚えのある横顔。…………ジャポンでの私のコスプレ写真だった。

「は!?なんで!?なんでこれ持ってんの!?三秒以内に答えろ豚!!」
「最後悪口聞こえたんだけど」

ミルキが片耳を押さえながら言う。いやだって、ええ!!本当になんでミルキが持ってんの?ジャポンに居なかったじゃん!そもそもなんでコスプレ中の写真があるんだ!?
動揺しすぎてミルキの三段腹を摘まんで揺らすとコーラの入った2リットルのペットボトルで殴られた。相手が私じゃなかったら傷害事件だぞこれ。
殴られた箇所を擦っているとミルキはコフーッ!と病気じゃないかと疑いたくなるような荒い息で話し始める。

「それ、セリ姉なんだろ?前にイル兄からもらったんだけど…」
「イルミも持ってんの!?ゾルディック家にばら蒔かれてるの!?」
「ちょ、落ち着けよ。ウチじゃ俺とイル兄くらいしか持ってないって」

いや、二人も持ってる時点でおかしくないか?
悪いが全然落ち着けない。イルミからミルキに渡ったようだが、そもそも誰がイルミに送ったんだ?
私がジャポンでコスプレしていたのを知っているのは一部を除いた旅団とメンチちゃんと御堂家の人達。
その中で私の写真を撮った奴は………シャルだ。

公園で会った時に何枚も撮られたのを思い出し「あの野郎…!」とミルキの携帯という事も忘れて携帯を持つ手に力が入る。
でも待て、シャルとイルミって知り合いなの?そんなのどちらからも聞いたことないけど。
それとも私が知らないだけで漫画の公式設定なの?あいつら気が合わなそうだけどな。
親しげな姿が想像できず困惑しているとミルキが私の手から携帯を取り返して「それでさ」と続きを話す。

「カルトはこの写真の子をセリ姉と認識してたわけ。まぁ、中々可愛いだろ?ちょっとドキッとするだろ?そしたら今日本物が来るだろ?全然似てないだろ?」
「何その煽るような話し方は。…つまりこんなの詐欺じゃんってカルトは言いたいってこと?」
「じゃないの?多分だけど」

そう返すと携帯を弄り、また充電器に繋いだ。
ミルキはさっき私が放置したスナック菓子の袋を拾い上げ、口に含むと「セリ姉がカルトの夢を破ったんだろ」と咀嚼しながら言った。そんな知らないところで勝手に夢持たれても困る。
夢破ったのは私の責任じゃないでしょ?騙すつもりだったわけじゃないし。
なんだか納得がいかず、でもあんな小さい子にお前が悪いと言うのもどうかと思って頭を掻く。
そんな私を横目にミルキが先程凶器になったコーラを飲んでから感心したように言った。

「うまく化けたよな。確かに結構可愛いし。ま、どっちにしろ俺の好みではないけど」
「はぁ?何?何、上から言ってくれてんの?椅子から落とすぞ脂肪の塊め!」

ミルキの上から目線な言葉に眉を上げる。
イラっとして、そのデカイ身体をひっくり返して床に叩きつけてやろうと椅子に手を掛けたが、全く動かない。

「あ、あああ!駄目だ重すぎて動かない!地球のみんな、オラに力を…!!」
「セリ姉って人生楽しそうだよな」

ミルキがため息をついて言った。
何言ってんだ。私だって色々悩みとかあるんだぞ!

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