奇術師に不可能はないの
マチ曰く、ストーカーはジャポンで旅団の皆がまだ会ったことがないと言っていた新しい四番なんだとか。
本人はまだ言及していないが、マチから見てもバレバレなくらいクロロと戦いたくて仕方ないという空気を醸し出しているらしく、なんとかクロロと二人きりになろうと試みているそうだ。

「あの男、何考えてんだか」
「はぁ……ていうか男なんだ」

男が男をストーカーって。しかもバトル目当て。
なんだ、それならあまり深刻じゃないじゃん、と思ってしまったのをマチはすぐに分かったらしく私に睨みをきかせた。
怖かったので少しマチから離れてベンチに座り直す。それを見てマチは眉をひそめつつ、腕を組んで話を続けた。

クロロは旅団の活動の時はストーカー対策なのか知らないが常に誰かと行動しており、活動以外の時は殆ど所在が掴めないため、四番のストーカーも困っているんだとか。
それでも諦めずに四番のストーカーは入団してからずっとストーカー行為を続けているらしい。
すると押し続けた結果があったのか、流石に疲れてきたのかクロロは今月に入ってから四番のストーカーに「カルタレナ公立図書館にある秘密箱を一人で盗ってこれたら、一度お前の話をちゃんと聞いてやってもいいよ」みたいな事を言ったそうだ。
張り切るストーカー。ドン引きするマチ。

「いや、それでなんでマチもきたの?」

と聞くとマチは顔を思いっきり歪ませて言った。
まず一つめの理由として、今回はクロロもカルタレナに来ているので四番のストーカーに狙われないようにマチが目を光らせているらしい。
何故筋肉だるまのウボォーさんとかではなくマチなのかと言うとその四番のストーカーはマチのことを気に入っているらしく、他の団員に比べて態度が軟化するそうだ。というか、やけにちょっかいだしてくるらしい。

「ウザい。一々めんどくさい」
「それってマチのこと好きなんじゃないの?」
「はぁ?胸くそ悪いこと言わないでよ。大体何その適当な返事。こっちは本当にアイツに迷惑してるんだよ。団長が!」
「いや、そんなこと言われても」

マチはともかくクロロのことなんて私には関係ないもん。
どうせなら、ここで神経すり減らしてほしい。そしたら旅団としての活動も少し抑えるだろう。

「あんたよくストーカーに遭ってるだろ?そっち系詳しいんじゃないの?」
「どっち系?別にそんな頻繁にストーカーに遭った覚えはないけど…」

シャルは一人とカウントして良いのだろうか。
私が真剣に悩んでいる間、マチは四番のストーカーの溜まりに溜まった悪口を吐き出していた。
四番のストーカーは気持ち悪い奴だが腕は立つので、旅団にとっては有益な存在であるそうだ。なので旅団を辞めさせるとかは出来ないらしい。
話を聞いてる分には、旅団をやめさせてもストーカー行為が収まるとは思えないので、どうせなら団員としてこき使っておいた方がいいのだろう。
旅団って人増えてからギスギスしてるな。昔もそんなに仲良くなかったけど。

暫くマチの愚痴を聞いていると十二時を報せる鐘の音が響いた。空腹を感じ、お腹を押さえる。
そんな私の横で鐘の音を聞いたマチは「折角だし、一緒にご飯食べる?」と提案した。
まっさんから直々に飯のお誘い…!?と嬉しくなって「はい!是非!」と立ち上がって元気よく言ったら軽く引かれた。

***

マチのお昼のお誘いは巧妙な罠だった。
それに気が付いたのは携帯画面に表示された時刻が一時をとっくに過ぎていたのを見た時だ。
昼休憩終わってる!?と慌てて店を出た私の背後から舌打ちが聞こえた気がした。多分気のせい。
今日のマチはやけに喋るなと思ったら私を図書館に行かせないためだったのか。建物の外観が見えてきてからもう一度携帯で時間を確認すると、あと少しで二時になるところだった。

館内に駆け込むと受付カウンターから鋭い視線が飛んできたので、走るのはやめて早歩きで二階の階段を登る。
とりあえずマチから聞いたことをコンラードさんに伝えよう。なんとかなるとは到底思えないが、あの人に直接地下に行かせて箱を肌身離さず持っていてもらおう。
そしたら何かあってもあの人が死ぬだけで済むだろう。うん、それでいいや。私も一応仕事したってことになるし、忠告してもらったんだからそれを生かさないと。

そう思って階段近くにあるカウンター脇の席に目をやるとすぐにコンラードさんの顔が見えた。
しかしその向かいの席に誰かが座っている。こちらには背を向けているので顔は確認できないが、背丈的にも男性のようだった。

一瞬迷ったが、時間がないので大股で近づく。
本を片手に男性と話をしていたコンラードさんは足音で気付いたらしく驚いたようにこちらを見た。

「コンラードさん、お話中すみません」
「セニョリータ、この時間は地下では?」
「いえ、ちょっと問題が………!?」

途中でコンラードさんの向かいに座っている男性の顔を見て、話そうと思っていた言葉が全部吹っ飛んだ。
黒髪に額には白い布を巻いている男。

ストーカー被害について相談でもしてるんですか団長。

[pumps]