三回目のハンター試験
今頃ながら、シャルがメールでドーレ港からザバン市直行便のバスに乗れば?と書いていたのはわざとかもしれない、と思った。
だってアイツ私が試験に落ちる方に賭けてるみたいだし。

畜生なんて卑怯な手を…と怒りを感じつつ、森の中を駆け抜ける。
朝なのに薄暗い森なんて本当は通りたくないが、今の私に他にザバン市へ行く術はない。
時々聞こえる変な鳴き声にビクつきながらも足は止めずに進んでいるとウエストポーチに仕舞っていた携帯が鳴った。
そういえばマナーモードにしてなかった、と取り出すと非通知からの着信だった。
数秒迷ったあと、通話ボタンを押す。

「はい」
『あ、もしもし、セリ?俺俺!』
「朝斗くん?久しぶり早く三千円返して」
『誰だよ!違う、俺だって!キルア!』
「キルア?」

足を止める。
言いたいことはたくさんあったが、最初に出たのは「なんで私の番号知ってるの?」だった。

『それはブタくんの携帯から…いや、そんなのどうでもいいよ。あのさ、セリ、今どこにいる?ザバン市に来れたりしない?』
「ええ?」
『無理?無理だよな…ごめん…』
「奇遇だね。今、森にいるんだけど多分もう少しでザバン市に着くよ」
『なんで森経由?』
「本当はバスで行くつもりだったんだけどね」

さっき事故ったからなぁ、と血の乾いた掌を見る。
私の言葉を聞いてからキルアはザバン市内のとあるファミレスを待ち合わせ場所に指定して一方的に通話を切った。
勝手だな、と思いつつ一人で待たせるのは可哀想なので先程よりも急いで森を進んだ。

***

「やっと来た。おせーよセリ!あ、これ伝票。てか頭に葉っぱついてるけど」
「…………何これ」

スーパースピードでザバン市までやって来て、指定されたファミレスに来たらテーブルいっぱいに注文された料理の皿が並んでいた。
そして私に伝票を渡すというこの仕打ち。良心的な価格設定のファミレスに一人で来て会計が3万を超えるっておかしいよね?
葉っぱを取って向かいの席に座り話を聞くとキルアはミートボールを食べながら「遊んでたら金無くなっちゃったんだよね」と衝撃的な発言をした。

家出をしてからも普段の感覚で買い物をし、ゲームセンターで遊んで高いホテルに宿泊して好きな食事をとっていたキルア少年。
そんな贅沢がいつまでも続けられるはずもなく、今朝になってとうとう持ち出してきた貯金を全て使い果たしてしまったらしい。
困ったキルアは家族以外で誰かお金を持っていて連絡先の分かる人間という括りで私を思い出し、駄目元で公衆電話から連絡。
すると幸運なことに私がザバン市に行く、と言ったので安心してファミレスで空腹を満たしていたそうだ。

聞き終わってすぐにキルアの頭に拳骨を食らわせた。
待たせるのは可哀想、なんて言ってた少し前の私のこともぶん殴ってやりたい。だいたい私に持ち合わせがなかったらどうする気だ。
「いってぇ!!バカ!」と睨んでくるキルアを見てため息をつく。

「まだ家出してたんだね。年越し前からでしょ?キキョウさんが心配してたよ」
「げっ」
「ていうかお金ないならもう帰れ」
「やだ。てか無理。俺このあとハンター試験受ける予定だし」
「は?」

べー、と舌を出して言ったキルアに目を丸くする。
うっそ!もうそんな年なの!?てことは今年のハンター試験ってゴン来るの!?あれ?2000年じゃなかったっけ!?とここまで全て頭の中。

混乱する私のことなど知らないキルアは「もう応募カード出しちゃったもんねー」と続けてコップに入ったジュースを飲んだ。
中身が氷だけになったコップを置くとテーブルに手をついて私の方に顔を近付け、内緒話をするように小さな声で言った。

「場所もわかってんだ。ツバシ町2-5-10にある定食屋でステーキ定食を弱火でじっくりって注文すんの」

どう、すごい?俺すごい?と誉めてほしそうな顔をするキルアは可愛かった。
しかし謎の対抗心が芽生えた私は鼻で笑って「そんなの私も知ってるもん」と返してしまった。幾つだ私は。
キルアはきょとん、とした後「なんで?」と聞いてきた。

「ひょっとして………セリもハンター試験受けんの!?え!?そうなの!?」
「ちょ、ば、声でかいよ。ここで子供は風の子的な元気を発揮しなくていいから」
「で、受けんの!?どう!?」
「受けます、受けますからもう少し静かにしてくれません?」
「マジかよやった!一緒に行こうぜ!!」
「話聞け!!」

私の声とキルアの頭を叩く音が店内に響いた。

[pumps]