三回目のハンター試験
何故あなたはハンターになりたいんですか?
とボリュームを下げて志望動機を尋ねるとキルアは「難しいって聞いたから受けてみようと思っただけ。別にハンターになりたい訳じゃないし」とデザートのパフェを食べながら言った。
ふざけてるこいつ。金目当ての私が言えることじゃないが。

そんな雑談をしてから、暫くファミレスでゆっくりして夕方になってからようやく私達は移動を始めた。
ここはツバシ町のすぐ近くだし、流石にもう受験生への妨害はないだろう。
試験開始は明日の正午だから早く行っても仕方がないし、とハンター試験の先輩として色々と教えてあげたが、キルアは家から持ってきたらしいスケボーに乗るのに夢中で全く聞いていなかった。
確かに既に二回も落ちてる奴の言うことなんてどうでもいいよね、としょっぱい気持ちになりながらキルアの後を追う。

***

「あ、ここじゃねーの?」

キルアが止まり、スケボーを脇に抱えて指差した。看板を確認してから私も頷く。
二回目の来店になる『めしどころ ごはん』は相変わらず活気溢れている。
外にあるメニュー表に書かれた他の定食に「ステーキ定食もいいけどやっぱり…」と目移りしているとキルアに「いいから早く入れよ」と後ろから蹴られた。

「いらっしゃい!カウンター席にどうぞ!」

中に入るとハンバークか何かを運んでいた店員のお兄さんが言った。
見るとカウンター席の端二つしか空いていなかった。混んでるなぁ、とキルアが物珍しそうに辺りを見回して言う。
私もつられて店内を見回してみると、どのお客さんもハンター試験など一生縁の無さそうな人ばかりだった。あれ?ここが会場じゃなかったの?
首を傾げつつ、二人揃って席に着くとカウンターを挟んで向こうにいる店員さんが「御注文は?」と聞いてきた。

「えーっと、あ、私エビフライ定食ってやつ食べたい」
「違うだろバカ!二人ともステーキ定食!」
「…焼き方は?」
「弱火でじっくり!」

ちょうど後ろのテーブル席に運ばれた大きなエビフライに目を奪われた私の代わりにキルアが全て注文する。
すると店員さんは私達に「すみません、奥の個室へ移動して下さい」と小さく言うと近くにいた若い女性店員に何かを指示した。

「お客様、こちらへどうぞ!」

指示された女性店員に奥の個室へ案内され、キルアと顔を見合わせてから中へ入った。
何故かすぐに運ばれてくるステーキ定食。

「作り置き…?いや、でも温かいし…」
「食わねーの?」

届いてすぐにナイフとフォークを持ったキルアは口に切り分けたステーキを詰め込みながら言った。お前ちょっと前に私の金で大量に食っただろうが。
もごもご口を動かすキルアは「食べないならちょーだい」と言って私の前のステーキにフォークを刺した。

よく食べるな、とキルアを眺めながら「なんで個室に移動したのかな?」とポツリと疑問を口にすると「はぁ?本気で言ってんの?」とキルアに驚いた顔で返された。
意味がわからずに頷くとキルアは口に入れたステーキを一気に飲み込んだ。

「まだ気付かない?セリって強いくせに鈍いんだな。動いてるじゃん、これ」
「え?」

指を立ててキルアが言う。
同時にチーンという音が鳴った。

「………エレベーター的な?」
「だな。行こうぜ」

言って、キルアは隅に置いていたスケボーを取りに行く。
入る時に使った扉の前に立つと上にある小さな赤いランプが点いてから扉が開いた。

その瞬間、一気に感じる視線。ついでに部屋に充満していたステーキの臭いが外へ出た。ちょっと恥ずかしい。
なんか辛気くせぇーな、と後ろで言う空気の読めないキルアの頭を叩いてから先に外へ出る。

「番号札をどうぞ」
「どうも」

いつも通り可愛いスーツ姿のマスコットキャラクターから98、と書かれたプレートを渡される。
前日のせいか早いな、と思いながら胸元にプレートを付けていると「奥行こうぜ」と一人で勝手に進んでいった。どうしてあの子はあんなに平然としているんだろう。

若いからなのかな、とまるでおばあちゃんになった気分でゆっくりとキルアが行った方に足を進めていると突然後ろからトントン、と肩を叩かれた。
え、と反射的に振り向くと頬に指が当たる。うわ、古典的だな、と眉をひそめて相手を確認する。

「や、久しぶり。元気にしてたかい?」

以前同様奇抜なファッションのヒソカさんが立っていた。

[pumps]