三回目のハンター試験
受付け終了=試験開始。
それはつまり、この会場のどこかにゴン達がいるということだ。

「ではこれよりハンター試験を開始いたします」

その言葉で地下に静寂が訪れる。
元々静かだったこの空間はたった今、小さな話し声や服の掠れる音すら止んで、それぞれの息遣いしか聞こえなくなった。
張り詰めた空気の中、私は首を動かしてゴン達の姿とついでにキルアを探した。試験が始まるのはいいけどあの子達はどこに居るんだろう。
久々に胸がドキドキしてきた。今、私は漫画の主人公と全く同じ場所に存在しているのだ。

そんな私のドキドキなど知る由もない男性は、パイプの上から降りると私達のすぐ近くまでやって来て「こちらにどうぞ」と私が進もうとして止めた奥への道を手で示した。

「さて、一応確認いたしますが」

男性が先頭に立って歩き始めたので私達もゆっくりと後を着いていく。
男性は歩きながらハンター試験の注意事項、というか「死んでも自己責任ですから」的なことを言い始めた。
彼の言う“先程の受験生同士の争い”という言葉に、遠くの方から聞こえてきた男の悲鳴を思い出す。あれってやっぱり誰かが揉めてたんだ。血の気多いなぁ。
男性は一度足を止めると私達を振り返り「それでも構わない、という方のみ着いて来て下さい」と言った。

またすぐに前を向いて歩き出した男性の後を皆でぞろぞろと着いていく。誰かが帰る気配はない。
そりゃここまで大変な思いをして来たんだから当然だろう。そもそも「じゃあ帰る!」って言い出せる空気でもないし。
と横にいるハンゾー先生に冗談混じりに話したかったが、非常に緊張した面持ちで歩いていたので口を開いてすぐに閉じた。とてもじゃないが言えない。

男性は横目で後ろの様子を確認すると「承知しました」と一度頷き、平淡な声色で言った。

「第一次試験404名、全員参加ですね」

わりと少ないな、と思ってしまった。
実際の数よりも多いと感じたのは、この狭い地下道でみんな入口から特に広がって移動もせずに密集していたからだろうか。
ゴン達は最後の方だろうから400番台なのかな?と前を行く男性の背中を見つめながら進む。

するとすぐ近くにいたはずの男性の背中が遠ざかった。
え、と不思議に思う前にさらに離れていく。どこからか舌打ちが聞こえた。

「おい、走るぞセリ!」

私に向かってそう言うとハンゾー先生は顎をしゃくって男性の方を示した。
首を軽く動かして応え、私も足を早めると周りの受験生もつられたように走り始める。
あれ、なんかこれ微妙に覚えてるぞ。確かすごく辛い試験だったはず、と根性無しなので顔が歪む。
前を行く男性は普通に歩いているように見えて異常に速い。私達が必死に走ってやっと追い付くといったペースだ。
タン、タン、とリズムよく大股で進みながら「申し遅れましたが」と男性が声を出した。

「私、一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へ案内いたします」

その台詞に周囲がざわめく。
受験生を代表するように私の隣を走るハンゾー先生が口を開いた。

「二次……?ってことは一次は?」
「もう始まっているのでございます」

即答される。男性、サトツさんは歩みは止めずに上手く状況が呑み込めないでいる私達の方に顔を向けると言った。

「二次試験会場まで私について来ること。これが一次試験でございます」

マジかよ。声には出さなかったが、そう思って顔を顰めた。
場所や到着時刻は教えてもらえない。ただ、サトツさんについていくだけの試験らしい。

やだそんなの、と思っても今更どうしようもない。さっき帰らなかった自分が悪いのだ。
こうして、いつゴール出来るか分からない不親切なスーパーマラソン大会が勝手に幕を上げたのである。
私の人生においてマラソンは切っても切れぬものらしい。

[pumps]