飛行船
私が文字通り命懸けでとってきたクモワシの卵はメンチちゃんの手によって大きな鍋に入れられた。
そこから三分少々。完成したゆで卵は頬っぺたが落ちるほど美味しかったです。でも塩があったらもっと美味しかったと思います!
そんな感じで試食後、二次試験の合否に関係なく受験生は全員また飛行船に乗るようネテロ会長より指示された。
飛行船が飛び始めて少しした頃、合格した受験生のみ操縦室に集合するようにアナウンスが入る。


それで、一体何が目的で針山擬人化さんは私を突き落としたんだろう。
アナウンス通り操縦室にやってきた私は、一緒に来たハンゾー先生の影に隠れながら(目があったら怖いので)同じく合格者としてここに来た針山擬人化さんに視線を向ける。
しかし相変わらず一人でカタカタカタカタ言って他の受験生達に遠巻きにされていたので、何も聞けずにすぐに逸らした。

やばい、ひょっとしたら呪われたかもしれない。なんか寒気がする、と腕を摩る。
いや、でもまぁ、なんだかんだであれが切っ掛けとなり無事に二次試験を通過できたので、感謝はしないがぐだぐだ考えるのはやめよう。終わりよければ全て良しだ!うん、もういい。

「どうやら、全員集まったようじゃの」

頭の中で無理矢理話を完結させると横にマスコットキャラクターを連れてやってきたネテロ会長が長い髭を撫でながら言った。
ネテロ会長はこの場にいる受験生全員から視線を集めると咳払いをしてから「では」と口を開く。

「残った43名の諸君に改めて挨拶しとこうかの。わしが今回のハンター試験審査委員会代表責任者のネテロである」

一瞬拍手しそうになった私を横のハンゾー先生が止める。
あぶね、学生の頃の癖が出るところだった。

「本来ならば最終試験で登場する予定であったが、一旦こうして現場に来てみると」

一度言葉を切る。
真剣な目になり、集まった受験生達の顔を見てそれぞれの様子を観察するとすぐに満足気に笑った。

「なんとも言えぬ緊張感が伝わってきていいもんじゃ。折角だからこのまま同行させてもらうことにする」

どこか楽しそうにほっほっほと笑い声をあげる。そして一言「がんばりなさい」というと出口へ向かった。
会長が操縦室を出たのを確認してから、側に控えていたマスコットキャラクターが「今後の予定ですが」と話し始める。

「次の目的地へは明日の朝8時到着予定です。こちらから連絡するまで各自自由に時間をお使いください」

言いながらチラ、と壁にかけられた時計に視線を向けたので、私を含めた何人かの受験生がつられて時計に目をやった。ちょうど8時を回ったところだ。
これ以上連絡事項はないらしく、マスコットキャラクターは私達に一礼をしてから操縦室を出た。

「ゴン!飛行船の中探検しようぜ!」
「うん!」

ドアが閉まった途端、キルアがゴンに向かって明るく言う。
ゴンもすぐに返事をしたのでそのまま二人で操縦室を出て、中に居ても聞こえるくらい大きな足音を立てて通路を走る。
私は誘ってくれないんだ…とちょっと寂しくなった。いや、いいけどね、うん、いいけどね。

ほんのちょっとの疎外感を抱きつつ、腕を伸ばしたり、首を回して疲れたアピールをしながら操縦室を後にする受験生達に混ざって私とハンゾー先生も外に出る。

「で、セリ。これから暇になるけどお前はどうする?」
「私?私は…うーん…」
「あ、いたいた!セリー!」

操縦室近くの通路で立ち止まって話をしていると、名前を呼ばれた。
すぐ側にある丸い窓にはこちらに向かって手を振るメンチちゃんが映り込んでいた。

「メンチちゃん、どうしたの?」
「まぁまぁ、ちょーっとおいで、美味しいもの食べさせてあげるから!」
「え?ちょっと、え?」

そう言うとメンチちゃんはあの命懸けバンジージャンプ試験同様、ぐっ、と強く私の右腕を掴んだ。そしてそのまま自分が来た方向に引っ張る。というか引き摺る。

「ちょ、あのメンチちゃん?私あそこのハンゾー先生と話」
「いいから、遠慮しないでいいから」

ダメだこの子も話聞かないタイプだ。
しかもメンチちゃんは女子にしてはかなり力が強い。いや、私の方が強いけど、でも流石に仲良くしてる女の子をぶん殴って止めるわけにはいかない。つまりどうにもならないのだ。
そう察した私は曲がり角に差し掛かったところで、ぽかーんとするハンゾー先生に向かって「ごめーん!!」と叫んだ。

***

「ねぇ、今年は何人くらい残るかな?」
「合格者ってこと?…それ、その子の前で話すの?」
「何よ、別にいいでしょ?この話聞いたって残りの試験で有利になることなんて一つもないんだから」
「いや、それはそうだけど…」

メンチちゃんの言葉に困ったように返事するのは同じく二次試験の試験官を務めたブハラさんだった。
「友達って言ってもなぁ」とメンチちゃんの横に座っている私を見る。

「まぁ、受験生に対する我々の評価を聞いたところで彼女には何も起こりませんし、良いのでは?名前のあがった本人達に言い触らすような方でもないでしょうし」

次に口を開いたのは一次試験の試験官サトツさんだ。
私に目をやってから「ね?」と頷かれたので曖昧に首を動かす。それを聞いてメンチちゃんが嬉しそうに声をあげた。

「でしょ?流石サトツさんは話がわかるわねー。だから、セリ。あんたも遠慮せずに食べなさい。お腹空いてるでしょ?」
「う、うん…」
「って言ってさっきから全然食べてないじゃない!」

そりゃこの空間でのんびり飯なんて食えねーよ。
そう思った私の目の前にドン!と肉がのった皿を置かれる。それ俺の…とブハラさんが言いかけてやめた。メンチちゃんが睨んだからだ。
さらにテーブル中央に置かれたボールからサラダが取り分けられる。その間ブハラさんは残念そうな目をして、別の皿から肉を取るとそれにがっついた。サトツさんは自分のペースで食事を続けている。
えーっとどう考えても私邪魔だろこれ。

[pumps]