飛行船
「で、話の続きだけど。今年の受験生って中々の粒ぞろいだと思うのよね。一度全員落としといてこう言うのもなんだけどさ」

私の皿に料理を移し終わったメンチちゃんが言う。
肉にフォークを刺すと私の目の前にずいっ、と突き出し口を開くよう指示した。素直に従って食べさせてもらう。

「でもそれはこれからの試験内容次第じゃない?」
「そりゃま、そーだけどさー。試験してて気付かなかった?結構いいオーラ出してた奴いたじゃない」

ブハラさんの言葉にメンチちゃんが少し楽しそうに返す。
オーラってのはあのオーラのことでいいんだろうか。でも念を使える人は殆どいないし、うん?
肉を咀嚼しながら首を傾げる。オーラ○泉的なオーラのことを言ってるのかな?
ようやく飲み込めたので質問しようと口を開いたが、今度はアスパラガスを突っ込まれた。もごもごと口を動かす私を見てメンチちゃんが頷く。

「よく噛みなさいよ。ね、サトツさんはどう?どう思った?」
「ふむ、そうですね」

サトツさんは、一度ナイフとフォークを置くとナプキンで口元を拭ってから「新人がいいですね今年は」と答えた。

「あ、やっぱりー!?あたしは294番がいいと思うのよねー、ハゲだけど」
「私は断然99番ですな。彼はいい」
「ええ?あいつきっと我が儘で生意気よ。絶対B型!一緒に住めないわ!」
「そーゆー問題じゃ……というかちょっと好き勝手言い過ぎじゃない?この子、今番号上がった受験生と仲良いのに」

言いながらブハラさんは私を指差した。
つられたようにメンチちゃんとサトツさんも私に視線を向ける。確かに私はハゲの受験生とも生意気そうな受験生とも仲が良い。
アスパラガスを飲み込むと私が声を出す前にメンチちゃんが言った。

「そーいやそうだっけ?でもあのハゲより私の方がセリと仲良いもの。別に問題ないでしょ、ね?」
「うーん、まぁハゲなのは事実だしね」
「ほら!」
「キルア…99番もちょっと生意気なところはあるし。血液型は知らないけど」

血液型で一緒に住めないと判断するってことはメンチちゃんはA型なのだろうか。調べてないから分からないけど私もB型だったらどうしよう。
不安になる私の心中など知らないメンチちゃんは「あんたあのガキとも仲良いの?」と驚いた顔で聞いてきた。

「99番?うん、仲良いよ。友達友達」
「ふぅん?じゃあ今期のハンター試験はお友達だらけなわけ」

頬杖をついて言う。友達だらけというか知り合い遭遇率は異常に高いな。
首を縦に振って肯定するとメンチちゃんは頬杖をついたまま眉を寄せた。

「それじゃ後々キツいかもね。三回目だし、分かるでしょ?試験官によっては結構エグい試験が出るって」

はぁ、と息をつく。
初受験の時の三次試験を思い出しているのかもしれない。あれはペアになった受験生達それぞれの対立を目的としたものだった。
メンチちゃんは真剣な目になり、人差し指を立てる。

「いざって時は誰だって蹴落とす覚悟でやらないといつまでたっても合格できないわよ」

わかった?と顔を近付け聞いてきたので軽く頷いておいた。やっぱりハンター試験って厳しい。
でもメンチちゃんには悪いが、もしキルアと私のどちらかしか合格できないってなったら私は迷わず辞退する。
キルアのことが好きだからだ。ハンゾー先生とかゴンだったら分からないけど。

「じゃ、話を戻すけどブハラは気になる受験生とかいる?」

私が自分の言いたいことをしっかり理解したと判断したメンチちゃんは、立てていた人差し指をブハラさんの方に向けて言う。
なんだか聞き方が「ねぇねぇ、ブハラは好きな子いるー?」な修学旅行の女子みたいだと思ったが黙っておいた。

「そうだねー、新人じゃないけど気になったのがやっぱ44番かな」

ブハラさんが肉を噛みながらそう答えた瞬間、自分の顔が歪んだのがよくわかった。
そんな私の様子にブハラさんは気が付いたようだが、特に何も言わずに「メンチも気付いてたと思うけど」と手に持ったフォークを振る。

なんでもメンチちゃんが全員不合格だと言い渡して受験生の一人が切れだした時、ヒソカさんが一番殺気を放っていたそうだ。
それに「もちろん知ってたわよ」とメンチちゃんは眉をひそめて答えた。

「抑えられないって感じのすごい殺気だったわ。でも知ってる?あいつ最初からああだったわよ。あたしらが姿見せた時からずーっと」
「ホントー?」
「そ。あたしがピリピリしてたのもそのせい。あいつずーっとあたしに喧嘩売ってんだもん!ね、セリ?」
「え!う、うん…」

まじかよ全然知らなかった、とか言えない。絶対に言えない。
はは、顔を強張らせる私を片眉を上げて見るメンチちゃん。視線が「あんた……まさか…」と少し疑っているようだった。でも本当になんで気が付かなかったんだろう。
自分のことでいっぱいいっぱいだったから?それともハンゾー先生やキルア達と喋っているのが楽しくて気が付かなかったのだろうか?
でも殺気ってどんなに鈍くても分かるだろうしなぁ。
とすると私はヒソカさんに関わるつもりがなかったから、存在そのものを知らぬ間にスルーしていたのかもしれない。私結構スルースキル高いな。

「私にもそうでしたよ」

殺気云々で盛り上がった私達に対してサトツさんが言う。そのおかげで私への疑いの眼差しは逸れたのでほっと息をつく。
サトツさんは左手にカップを持ちながら「彼は要注意人物です」と静かに話し始めた。

「認めたくはありませんが彼も我々と同じ穴のムジナです。ただ彼は我々よりずっと暗い場所に好んで棲んでいる」

言葉を切るとカップに口をつけた。
そしてカップを置くとほんの少し目を伏せて続ける。

「我々ハンターは心のどこかで好敵手を求めています。認め合いながら競い合える相手を探す場所、ハンター試験は結局そんな所でしょう」

それはよくわかる。ハンター試験に来る人って基本的に血の気多いもん。
私みたいに金目当ての人もそれなりにいるとは思うが、こういっちゃ何だがそういう人は合格しにくい。

結局ハンターになれる、というか素質があるのはなんだかんだ言いつつ戦闘が苦にならない人だろう。
うんうん、と頷きながら聞く私にメンチちゃんが「あんた本当にわかってんの?」と突っ込む。親指を立てて「あたぼうよ」と返すとだめだこいつと判断され、私抜きで話は進んでいった。

[pumps]