真実の道
第三次試験試験。生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間。

そう試験内容を簡潔に伝えると「頑張ってくださいね」という特に気持ちのこもっていない応援の言葉を残してマスコットキャラクターや二次試験の不合格者を乗せた飛行船は去って行った。
その姿がある程度小さくなるまで見送ってから、トリックタワーなんていかにも何かありそうな搭のてっぺんに置いていかれた私達受験生は各々散策を始める。

「セリ、どうだ?」
「うーん、別に何も見当たらないけど…そっちは?」
「ああ、とりあえず外壁は無理だな」

暫く別行動をしていたハンゾー先生は後ろからやって来ると私の肩に軽く手を置き、周囲に聞こえないように声を潜めて言った。

「お前の位置からは見えなかっただろうが、さっき外壁を伝って降りようとしたヤツが途中で怪鳥に襲われた。分かっているとは思うが、ここから飛び降りるのも不可能。二次試験の時とは条件が違い過ぎる」
「ああ、ならやっぱり他に方法があるんだね。飛び降りる以外で…」

途中で言葉を止める。
視線を下にやるとハンゾー先生も同じように下を向いて爪先でトントン、と床を蹴った。
もしこれが全員不合格にするつもりの意地悪な試験なら飛び降りる以外答えはないだろうが、そうじゃないなら普通に考えてこれしかない。

「下に通じる隠し扉があるってことだ。別におかしなことじゃない。というか絶対あるよな、搭の名前的に」

ハンゾー先生の言葉に私も頷く。トリックタワーとか罠仕掛ける気満々の名前だよね。
隠し扉を見つけて搭の内部に入れたとしても、一筋縄ではいかないような何かがあるはずだ。いくら高い搭だからってただ降りるだけなら72時間も必要ないし。
めんどくさい試験だ。これならまだ全員で大乱闘とかの方が分かりやすくて良かった。ルールが分かりやすいってだけでそれもあまりやりたくはないが。
頭を掻くとハンゾー先生が腕を組んで「問題は隠し扉がいくつあるかだな」と言った。

「一つの扉から全員通れるとしたら試験の意味がない。となると隠し扉はいくつかあって……基本的に一つの扉からは一人しか入れないと考えた方がいいな。数に限りがあるとしたら厄介だ」
「じゃあ、また別れて探しに行こうよ。見つけたらお互いに知らせるってことで」
「ああ、それでいいな。急ごうぜ」

俺はあっちを調べる、とハンゾー先生が目だけを向けて続けたので、私はその逆の床を調べることにした。お互い背を向けて歩き出す。
私が隠し扉になっていた床板の存在に気が付かずに下に落ちたのはそのすぐ後のことだった。


「痛っ!」

ガクッと体が下がったかと思ったら、床に勢い良くお尻を打ちつけた。おおぅ…。
いや、これはその、突然の出来事だったので対応できなかっただけだ。うん、いつもの私ならもっとかっこ良く着地できたし。
よく分からない弁解をしていると側に人の気配を感じたので驚いてそちらに目を向ける。
広いとも狭いとも言えない部屋の隅に角刈りの男性が座り込んでいた。バチ、と目が合う。

「あの……」
「後ろだ」

小さく声を出すとその角刈りの男性は一言そう口にすると、私の後ろを指を差した。
振り向くと壁にボードが掛けてあった。

『真実の道。君達七人はここからゴールまでの間に裏切り者を見つけなければならない』

ボードにはそう書いてあり、目の前には腕に巻くタイプのタイマーが七個置いてあった。七人?
一度振り返る。この部屋には私ともう一人角刈りの男性しかいない。さらに近くに出口らしきものはない。
角刈りの男性は私に対して何か言うこともなく、特に動く気配もなかった。

まさか生き埋めにされた……なんてことはないだろうから、男性の反応からしても恐らく七人揃わなければこの『真実の道』とか言う所の試験は始まらないのだろう。
なら、待つ以外にすることない。角刈りの男性に倣って私も姿勢を正してからその場に座り込んだ。

***

「どういうことだ?」

訝しげな顔でそう言ったのは私が落ちてきてから三十分ほど経って此処に降りてきた三人目の受験生だった。
矢筒を背負い、帽子を被っている彼は綺麗に着地を決めてからすぐに壁のボードを見て、既に部屋にいる私を含めた四人全員に問い掛けるように言う。

「誰が何を裏切るって言うんだ?俺達は今まで話したこともないのに」
「知らねぇよ、そんなの」

私の次に降りてきた黒髪の男性が言う。胸元につけたプレートを覗き見ると123番と書いてあった。
その123番のどうでも良さげな物言いに帽子を被った受験生――プレートには53番とある――は少し顔を歪ませて返した。

「知らなくないだろ?これは試験なんだ。裏切り者が何を指すのか、七人揃う前でも考えるべきじゃないか?」
「確かに。ここで黙っていても時間の無駄だな」

私の向かいに膝を立てて座っていた色黒の男性が53番の言葉に同意を示し、ゆっくりと立ち上がる。胸元のプレートは384番。
五人中二人がそう言った上に他の二人(私と角刈りの男性)が何も言わないため、123番は「勝手にしろよ」と吐き捨てた。
なんだか少しめんどくさい展開になりそうだ。

[pumps]