真実の道
「普通に考えるなら七人揃った時点で何か課題を与えられて、その途中、他の受験生を裏切りたくなるようなことが起きる。例えば、ありきたりだけど他の六人を嵌めたら合格、とか」

裏切り者について考えよう、と言い出した53番の帽子を被った受験生が、この場にいる全員に聞かせるように言った。
彼の言葉に384番の色黒の男性が反応する。

「それならそいつが“裏切り者”か?合格は嘘で?」
「ああ。でも、このボードには“裏切り者”を見つけなくてはならない、と書いてある。そんなものを最初に読んでから他の奴を裏切ろうなんて考えるか?自分が“裏切り者”として不合格になるかもしれないのに」

384番の言葉に頷いてからそう言うと53番は「どう考えたって、そんな怪しい話に乗るわけがない」と続けた。

二人の会話を聞きながら、むすっとした態度の123番の黒髪の男性と特に反応を見せない角刈りの男性。そして適当に頷きながら混乱している私。
なに、これひょっとして体より頭使うっぽい流れなの?すごい困るんだけど。今回そういうの求めてないし。
いや、そりゃ私は別にバトル大好きっ子ってわけじゃないけどさ。でも出来れば乱闘系の方が残る確率は上がるじゃん、ねぇ?

目だけを動かして自分以外の受験生達の様子を然り気無く観察する。念能力者は一人もいない。
この面子なら今のところ念を使える、という点で私が頭ひとつ抜けてるだろう。

「それなら、裏切り者は最初から決まっているのかもな」

最終的には殴り合いがいいなぁ、という私の物騒な考えなど露知らず384番が言った。その言葉に全員が彼を見る。
真っ先に口を開いたのは当然ながら53番だった。

「七人の内の誰かに裏切り者の“役”が与えられるってことか?」
「それもあるが、実はここに降りてくる七人の中には試験官が紛れている、とかいうのはどうだ?」

384番が指を立てて言う。
驚き、思わず「試験官が?」と反応すると384番は私の方を見て頷き、話を続けた。

「本来、この部屋に集まるのはここへの隠し扉を『偶然』見つけた受験生だ。しかし初めからここへ通じる隠し扉の場所を知っている試験官が受験生の中に紛れて塔の上に残り、降りてきた可能性もある。“裏切り者”になるためにな」
「はぁ、……つまりボードに書いてある裏切り者は試験官のことを意味していて、この道の目的は試験官を見つけ出すことってわけですか?」
「という可能性もあるってことだ」

あくまで候補の一つに過ぎないということを384番は強調する。

「そしてこの場合、確実にこの道に来るためには試験官は早く隠し扉を通らなくてはいけない。自分の通る扉がなくなったら困るからな。確実なのは一番最初。つまり一番怪しいのは最初にここに来た奴だ」
「どうして最初なんだ?むしろ一番目は避けて三、四番あたりにくるんじゃないか?」
「ここへの隠し扉は一ヶ所に密集してるだろ?その場合、四人だとか、五人で協力し、合格を目指している奴らに見つかれば、すぐにこの道への定員は埋まってしまう。だから確実にここへ来るには一番しかないんだ。利害が一致して手を組む受験生はそう少なくないからな」

その言葉に全員がそれぞれの顔を見やる。
この中では最後にきた53番とたまたま目があった。彼は私に向かって言う。

「あんた、最初か?」
「いえ、私が来たときには…」

言いながら、角刈りの男性に視線を向ける。釣られたように53番を含め、他の三人が彼を見る。
視線を集めた彼は「おい、ちょっと待てよ」と少し慌てた様子で立ち上がった。
その時初めて胸についている144のプレートが見えた。

「最初にここに来たからって俺が試験官だって疑うのか?いくらなんでもそりゃあんまりだろ?」
「いや、それは…」
「言っただろ?そういう可能性もあるって話だ」
「わかった、仮にあんたの言う通り試験官が紛れているとする。だとしても、それが一人とは限らないだろ?七人もいるんだぞ」

勘弁してくれ、と言いたげな声色で144番の角刈りの男性は続ける。

「そもそも、そんなこと言い出すあんたのが怪しくないか?可能性の話だとか言ってるが、俺からすりゃ他を誘導してるようにしか見えん」
「そう聞こえたなら悪い。謝るよ」

144番に睨まれた384番は肩を竦めて素直に謝った。
直後、隠し扉から人が落ちてきた。六人目の受験生だ。全員が思わず口を閉じる。
うん、なんか全然わかんないや。

[pumps]