真実の道
ポックルさんの言いたいことがよく分からない。
しかし詳しく説明してもらう前に別の部屋で下へ続く階段が見つかったらしく、私達は話を中断せざるを得なかった。

見つかった階段は異常に長く、途中休憩しながらかなりの階数を降りた。これで半分より下まで行けたんじゃないかな?ってくらい。
同時に時間もなくなり、ずっと続いていた階段がなくなって再び行き止まりのようなところに辿り着いた時には、残り時間はすでに50時間を切っていた。
約一日分の時間を私達は罠付きとは言え階段を降りることだけに使っていたというわけだ。

さらにその行き止まりのような場所で道を探していると突然壁が開き、大勢の男が現れ襲撃を受けた。
彼らは審査委員会に雇われた試練官であり、全員を倒さなければ先には進めない、というアナウンスが入ったため突如として受験生七人VS試練官約百人という図が完成したのである。
こんなことに時間を割くわけにいかないので仕方なく積極的に倒しにいった。ちょっと殴ったぐらいではすぐに復活するため壁にぶつけて頭かち割る勢いで闘った。多分死んでないと思う。自信はない。

そんな闘い方で一人で半分以上倒し、皆にドン引きされつつも部屋を通過した時、残り時間は47時間だった。
これが早いのか遅いのかは他に比べる対象がないので分からない。ハンゾー先生とキルア達どうなったのかな。

試練官を倒した後、大きな扉が一つだけある部屋についた。
扉の横にはボードがあり、そこにはこの扉は裏切り者が持っているあるものを使えば開くということが書いてあった。
……どう考えてもタイマーのことだ。ボードの下には空っぽの箱が置いてある。あそこに入れろということだろう。

「ここで答えを出せってよ」

ボードを一瞥した144番が下の箱を弄りながら言う。

「結局裏切り者って最初から決まってたのか?」
「とも考えられるな」

375番が口にした疑問に384番が答える。
扉を開くのに必要な『あるもの』がタイマーであるのは間違いない。気になるのは裏切り者が何人いるかだ。
まず私とエーミールさんで二人は確定している。他にいるのか、いないのか。

タイマーを入れることになるだろう、144番が弄っている箱は結構大きいものだ。二つ以上は確実に入るだろう。
とはいえ高さもあるし、人数分ぴったりの大きさにするとは限らないので、箱の大きさはあまりアテにならない。

然り気無くエーミールさんを見ると私の視線に気が付いた彼は片眉を動かした。口は開く気配を見せない。とりあえずは成り行きを見守るべきか。
思考を巡らせていると壁に背を預けていた384番が「裏切り者が持つモノが必要らしいが」と話し出したため、全員がそちらを向いた。

「ここに来るまでに俺達七人が離れたのはあの部屋が三つあったところだけだ」
「何かあるとしたらその時だけってか?」
「ああ。それぞれ手分けして道を探したよな?その時、どこかの部屋にこの扉を開けるのに必要な何かがあったのかもしれない」
「だが、誰も荷物なんか持っていないだろう?」

言いながら、144番が全員を見回す。確かにパッとみた限りでは皆手ぶらに近かった。
何か隠せそうなのは私と226番がつけているウエストポーチくらいで、他には384番が棒状の武器のようなものを持っているが、これには何も入らないだろう。

「何も持ってねぇよ。ほら、調べるか?」
「私も持ってないですよ。どうぞ」

226番がウエストポーチを外して床に放ったので、私も同様に外して近くにいた384番に渡す。
当然怪しいものは何も見付からなかった。それを見て375番が頭を掻きながら言う。

「鞄に入ってないからって裏切り者じゃない、とはまだ言い切れないだろ。鍵とかカードとかだったらポーチを使わなくても身体に隠せるはずだ」
「なんだ、じゃあ身体検査でもするか?」
「待てよ、女がいるのにか?」
「エーミールさん紳士ですね」
「ポックルな」
「ごめんなさい…」

あは、と誤魔化すように笑う。
身体検査の流れになったらまずい。意図せずとも右腕のタイマーを見られる可能性があるからだ。
この時は女であることとエーミールさん、じゃないポックルさんが優しかったことに感謝した。
しかし、今のちょっとしたやり取りが引っ掛かった人もいた。

「ちょっと待て、お前らいつ名乗った?」

384番が言う。
さ、と顔が青ざめた。やっちまったかもしれない。
私が声を出す前に素早くポックルさんが答えた。

「部屋を調べた時だ。別に話くらいするだろ?」
「そりゃ、俺達だってずっと無言ってわけじゃなかったさ。でも、名乗るほど話が弾むこともないだろう?」

確かにそうだ。
制限時間のある中で、同じ道を選んだとはいえライバルである受験生と一緒のあの部屋で、単に仕掛けがないか調べるだけなら名乗ることなんてない。
これが試験じゃなきゃ意気投合するような相手かもしれないが、それを見極められるほどの精神的な余裕はなかったはずだ。
この試験の真意が分からない状態のため、普通はお互いを警戒している。

「それともお前ら実は元から知り合いだったとでも言うのか?」
「いや…」
「なるほど。言われてみりゃ俺も怪しいと思うぜ。特にこいつ、二次試験の試験官の女と知り合いだろ?ってことは、こいつも試験官の可能性はあるんじゃねぇの?」
「は、はぁ?」

私を指して言った123番の顔を見て眉を寄せる。多分、私がゆで卵事件の時にメンチちゃんと大騒ぎしていたからそう思ったんだろう。
いや、それは違う。全くの検討外れだ。しかし否定をする前に375番が頷いた。

「確かに。さっきの試練官の時に思ったが、女にしちゃ強すぎないか?」

いや、あれは相手が弱いだけだから。

「そりゃ、ある程度腕が立たなきゃここまで残れるわけないだろ?だが、それが『試験官だから』という理由にはならないんじゃないか?」

協力関係にあるポックルさんが助け船を出してくれた。
が、123番が「いや」と首を振る。

「わかんねーぞ。女は平気で嘘つくからな。俺の元カノのジュリアちゃんもそうだったよ………」
「えっ、いや、知らねぇよ…」
「今日は残業だから会えないって言ってたのにさ、SNSにディナーの写真載ってんの…向かいに男らしき影が映ってんの…」
「知らねえよ…」
「待て待て待て、それは後で聞くから、な?」

放っておくと123番のジュリアちゃんトークが続きそうだったのでポックルさんが優しく止める。悲しい事件だったね…。

[pumps]