真実の道
「話を元に戻すぞ。98番、お前が試験官、裏切り者ではないという証拠は?」

144番が一度咳払いをしてから私に向かって言った。123番のせいでポックルさんより私の方が疑わしい、という結論になったらしい。

「ありませんよ。でもそれってここいる全員そうですよね?」
「いーや、俺は違うぞ。俺は自分が試験官じゃないと断言できる」
「証拠は?」
「ないけど…」
「……………」

123番が裏切り者はないな。こいつただのバカだ。
恐らく本人を除く全員がそう思っただろう。証拠出せって話をしてるのに「ないけど…」じゃねーよアホか。
と、思わせて候補から外れておく演技なのかもしれないが。

「じゃあ、二次試験の試験官と親しいのは認めるか?」
「はい、友達なんで」
「怪しい、やっぱりこいつ怪しい」
「ええ、なんでですか」

226番が私を指差して言う。

「お前が受けた年のハンター試験の試験官が、偶然友達だったって?それ本当に偶然かよ?」
「偶然ですよ。そりゃ、初めて受けたならアレですけど、私これでも受験するの三回目ですし」
「バカ、中には三十回以上受験している努力する部分を完全に間違えている強者がいてだな…」
「トンパさんですか」
「ああ。そういう奴なら一度くらい知り合いが試験官になっても別におかしくないさ。でも三回目?」

それじゃあ偶然とは言い切れない、と彼は続けるが私としては本当に偶然なのでそんなことを言われても困る。
しかしそれを証明する術はない。仮に証明できたとしても完全に裏切り者である疑いが晴れることはないだろう。前にも言ったがこういうのは疑いを持たれた時点で終わりだ。
切り抜ける方法と言えば他の全員を自分と同じ状態にすることぐらいか。まぁ、123番はありえないだろうな、っていうのが総意になっちゃってるので難しいが。

「確かに私が試験官じゃないっていう証明は出来ません。でも、怪しいからって、それだけで決めつけるのはどうかと思いますよ。私が裏切り者だって言うなら、なんかこう…物的証拠を出してくださいよ」

98番は試験官だ!理由は二次試験の試験官と友達だから!
っていうのはちょっといただけない。正直ただの言いがかりだ。状況証拠にすらならないんじゃないか?

そう、証拠よ!証拠証拠証拠!!証拠を見せてよ!!とじっちゃんの孫の事件簿に出てきた某犯人のように心の中で叫んでみる。
最近の犯人は根性なしだからちょっと抵抗しただけですぐに罪を認めるが、もっとみんな頑張って言い訳するべきだと思うよ。それこそ「幽霊よ!幽霊の仕業よ!」ぐらい意味不明なこと言った方がいい。もっと全力で自分を守るべきだ。いいか、自分が犯人だって認めたら負けなんだぞ!?
私の証拠出せ発言にそれもそうだと144番が頷いた後、全員に向かって言う。

「もう一度聞くが、本当に誰も何も持ってないんだな?」

その言葉に全員が首を縦に振るが、まぁ、正直信用できないよね。結局身体検査もしてないし。

「一応、武器持ってるやつも確認させろ」

144番が続けて言う。特に逆らう人は居らず、分かりやすく武器を持ち歩いている384番やポックルさん以外にも何人かが隠していたナイフなどを取り出した。

「あと、服にポケットあるやつは裏返してみろ」
「なんで急にあんたが仕切るんだ?」
「…あれしろ、これしろって色々言い出す人って怪しくないですか?」
「……………」

しばらく空気役に徹していたポックルさんが言ったので私もそれに乗る。多分、疑いの矛先を変えよう大作戦だと思う。
144番は私達の言葉に眉をひそめただけで、特に否定もしなかった。


「なんか、やっぱりお前らが断トツで怪しいな」
「ええっ、そんな」

武器チェックを終えた375番が私とポックルさんを見て言った。
訝しげな目でこちらを見ながら「やけに連係プレー仕掛けてくるし」と続ける375番に対してポックルさんが答える。

「そうは言っても俺達は何も持ってないって、あんたも分かってるだろ」
「…まぁ、確かに変なもんは何も持ってねぇけど…」

そのまま黙ってしまった。
突っ込まれない限りはこちらから話す必要はないので私とポックルさんも黙る。ついでに他の皆も黙る。
静寂が訪れた。

「なぁ、視点を変えてみないか?」

しばらくして、その静寂を破ったのは384番だった。視点?と声が上がる。

「この扉を開くのに必要なモノを途中で手に入れたんじゃなくて、初めから持っていたっていう考えはどうだ?」

ドキッ、とした。
え、その方向はヤバくないか?じんわりと額に脂汗が浮かぶ。何を言い出すんだ、こいつ。

「怪しいものは何もない。だとしたら、最初から全員が身に付けていたものでは?それなら調べても何も見つからないのも頷ける。そもそも注目していないからだ」

やめろ、と心の中で訴える。
「なるほどね」と375番が小さく言った。話を聞いていた226番が口を開く。

「俺達が最初から付けてたもんといやぁ、プレートか?」

やめろ。

「でも、それはハンター試験開始時点から付けてるもんだろ?ランダムで配られるんだから細工は不可能だ。とすると…あとは、」

やめろ、やめろ、やめろ。

「タイマー?」


終わったな、と思った。

[pumps]