お父さん、狩りって楽しいね
お礼を言ってからハンゾー先生と別れ、聞いた情報を頼りに船内に必ずいるはずの猿使い118番を一目見ようと捜しに行く。猿を連れているなら目立つはずだ。
問題は広い船内に対して受験生の数が少なすぎること。どう考えても数に見合ってない大きさのこの船から一人の人間と猿を見つけ出すにはそれなりの時間と労力が必要となる。

人に聞いて捜すのが一番いいのだが、誰彼構わず自分のターゲットを教えるのは危険だし、そもそも他の受験生は皆親しい者以外には口を開かず目を合わせようともしない。
ハンゾー先生とも別れてしまった今、私は一人で猿使いを捜すしかないのだ。

「と思ったらあれ、キルアとゴン見つけちゃった」
「セリさん!」
「なんだよその言い方」

座り込んで仲良くお喋りしていたキルアとゴンを見つけた。私も仲間に入れてほしいので側に寄る。
二人の間に割り込もうかと思ったが、キルアに嫌な顔をされそうなので諦めてキルアの左隣に座った。
そこで私は大切なことを思い出した。ごそごそとウエストポーチから二枚のメモを取り出し、それをキョトンとする二人に一枚ずつ差し出す。

「ずっと忘れてた。はい、これ!」
「なんだこれ」
「ほら、サイン」

二次試験の前に言ったじゃん、と続ける。
皆でサイン交換しようね!と約束したのに、なんだかんだでずっと渡すのを忘れていたのだ。
私の台詞で同じく忘れていたらしいゴンが「ああ!」と手を打ち、キルアは数秒固まった後プルプル震えてから見たこともないような顔をして叫んだ。

「いっらねーよ!!お前のサインなんざ!!」
「え、えええ!?急になにそれ?欲しいって言ってたじゃん!」
「うっせぇ!この!!てっめぇ急に現れたと思ったら俺達のこれから試験に望む難しい空気をぶっ壊しやがってこの!!」
「ありがとうセリさん!これ俺の!」
「ってお前も用意してたんかい!!」
「わあ、ありがとう!凝ってるね、カッコいい!」
「えへへ、照れちゃうな。喜んでもらえてよかった!」
「あああ!!もうなんだこの空気うっぜぇぇええ!!!」
「キルアのサインは?」
「ねーよ!!」

キルアのも頂戴、と手を出せば、さっき渡した私のサインが書かれたメモ用紙をベチンッ!と顔面に突き返された。しかしゴンのサインはしっかりと受け取っていた。ええ、なにそれひどいよ。
我が儘なキルアは「セリのせいで一気に空気が……」とぶつぶつ言い始めた。あの子はいつからあんな空気清浄機並みに空気を気にする子になったのだろう。
クエスチョンマークを浮かべているとキルアはスケボー片手に勢いよく立ち上がった。

「もういい!じゃあなゴン、生き残れよ!」
「え?うん」
「何の話?ゴンはこれから何かと戦うの?」

急にワイルドな会話になったので首を傾げると背を向けて立ち去ろうとしていたキルアは漫画のように(漫画だけど)ずっこけた後、鬼のような形相で振り向き「試験の話に決まってんだろうがバカかお前は!!」と叫んでそのままスケボーでどこかへ行ってしまった。

「そこまで言わなくてもいいのにね」
「ね」

残ったゴンと顔を見合わせて言う。暫くしてサインありがとね、と言ってからどちらともなく笑った。

「そういえば、セリさんはさっきのクジで何番引いたの?あ、俺のターゲットはもちろんセリさんじゃないよ」
「私?私は118だよ。なんか猿使いなんだって。ちなみにゴンのターゲットは?」
「へぇ、サーカスの人かな?俺は、これ」

ゴンが見せてきたカードには44と書いてあった。ごく自然な流れで私の眉間にシワが寄る。

「私なら諦めるね。絶対諦める」
「あはは、ま、そうだよね」

カードを返しながら言えば、ゴンは困ったように笑った。
ヒソカさんのプレートを奪うなんて私には無理だ。次は本気で死ぬ。どうやっても敵う相手じゃないのだ。

それはゴンも同じはずである。少なくとも今の時点では。
そんな私の心を読んだかのように「でも」とゴンが口を開いたので彼の顔を見る。

「これは真正面から向かうような戦いじゃないから。だから、やり方次第では……俺にも勝算はあると思うんだ」

そう言うゴンの顔は僅かな高揚感に包まれていた。
なんかすごく少年漫画の主人公っぽい、とじっくりと観察してから私も言う。

「そっか。まぁ、ゴンは(主人公だから)滅多なことじゃ死なないだろうし、頑張ってね」
「…うん!俺、打たれ強いってよく言われるからさ!任せてよ」
「あー、そんな感じする」

意気込むゴンに、くすりと笑った。

[pumps]