お父さん、狩りって楽しいね
ゴンの主人公っぷりを再確認してから暫くはうふふ、あはは、と二人で楽しくお喋りしていた。
これが予想外に盛り上がり、なんと気付いた時にはゼビル島到着まで後五分となっていた。えっ、そんなまさか塩焼きにすると美味しい魚の話で全部終わるなんて。
猿使いを捜せていないことに内心焦るが、ゴンが笑顔だったのでなんかもういいかなそんな些細なことはと思います。

それに、よく考えればわざわざ船内を捜さなくとも118番の姿を確認する方法は他にあった。
到着五分前ということは、下船するために受験生達が乗船口に集まってくるのだ。つまり何もせずともただ待っていれば118番は勝手にやってくる。

実際その通りで、ゴンと乗船口に向かうとあっさりと猿を連れた受験生を見つけた。まぁ、猿は隠せないからね。
私のターゲットである118番は黒いタートルネックを着た細身で長身の男だった。猿を連れてるだけあって手足が長いな、と思った。
ちょっと意地悪そうな顔をしているが、念も使えないみたいだしあれなら勝てそうだ。絶で後ろから近づいて頭殴れば本体は余裕だろう。猿は分からん。これから考える。

猿の倒し方について考えている間に船はゼビル島に到着し、可愛いお姉さんがこれから行われる試験について話し始めた。
まず三次試験の通過時間の早い人、つまりクジを引いたときと同じ順番で下船していくらしい。一人が上陸してから二分後に次の人がスタートするという形式だそうだ。
ゼビル島での滞在期間は一週間で、六点分集めてまたここに戻ってくること。

『それでは一番の方スタート!』

というお姉さんの声とともに下船したヒソカさんが森の奥へと消えていった。
そっか、この形式だと早い人ほど有利になるんだ。自分のターゲットが来るまでスタート地点付近で待ち伏せしたり、先に進んで罠も仕掛けられる。

私も118番がスタートするまで近くで待機して跡を尾けるか。と適当に決めて自分の番を待っていると早くもこの適当プランに問題が発生した。118番の方が私よりも早くスタートしたのだ。
ま、まじで?あの猿使いそんなに早くゴールしたのかよ。私も一応半分より前だったのに。

いきなり崩れた作戦に動揺しつつも、前のポックルさんがスタートしてから二分後、お姉さんに促されて私は森へと足を踏み入れた。


とりあえず真っ先に始めたのは水場探しだった。
一応ペットボトルの水がウエストポーチに一本入っているが、残りは半分程しかない。とてもじゃないがこれだけで七日間は無理。
水って大事だ。ご飯は食べなくてもまだ耐えられるが水が飲めないのはキツい。
それに水場が見つかれば自動的に魚も見つかる。この七日間のご飯はもう全部魚でいいだろう。ゴンとの会話内容が役に立ちそうだ。あ、でも私塩持ってないじゃん!!
誰かmy塩を持ち歩いている受験生はいないのか。メンチちゃんなら確実に持っているだろうがここにはいないし。

いっそ作るか?浜辺に戻って海水から濾過……いや、やめよう。
私はTVチャ○ピオンに出てくる十秒以内に火をおこしたり、飲み水を確保したり、最終的には筏を作って無人島から脱出できるようなサバイバルの達人でもなんでもないのだ。基本、弱者に腹パンしかできない情けない奴だ。
どうしようかな、と胸の辺りまで高さがある草むらをかき分けて進む。

――尾けられてる。

私と同じ方向に移動している誰かの気配に気がついたが、振り返らずに進み続ける。
そりゃ私は絶も何もせずにちょっと音を出さないよう注意する程度で進んでいるのだから簡単に見つかるだろう。

これはこれで別にいい。私を尾けているのは、ひょっとしたら猿使いかもしれないし、違っても気配に鈍い私が気が付くくらいだから大したことないだろう。
焦る必要はないのだ。向こうが襲ってきたら適当に脅してプレートを貰えばいい。ターゲット以外は一点分にしかならないが、持っておいて損はない。
期日内に猿使いを見つけられない場合もあるし、と思いながら黙って進み続ける。

僅かに殺気を感じた。
反射的に堅をし、振り向いたと同時に風を切る音がする。

「え!?うわぁああ!!!」

真っ直ぐとこちらに向かってくる何かを確認し、慌てて身を捩り避ける。
飛んできた何かはそのまま先にある木の幹に勢いよく突き刺さった。それが矢であると理解したと同時にドサッという誰かの倒れる音がした。

軽く地面を蹴って、矢が飛んできた方向に向き直る。臨戦態勢をとった私が最初に見たのは三次試験での仲間が立ち上がるところだった。

「エーミールさん!じゃなくてポックルさん!」
「あんた絶対わざとやってるよな」

冷めた目をこちらに向け、ため息をつくポックルさん。
目だけ動かして周囲を確認すると彼の側には人が倒れていた。何が起きたかは手に持っている弓矢が説明してくれている。

「警戒するなよ、あんたに用はないんだ」

いや、無理だよ。
犯人も凶器もわかってるんだもん。私、犯行現場の目撃者だもん。普通に考えて消されるじゃん。
そんな警戒心バリバリな私に対して、ポックルさんは「これが目に入らぬか!」と言わんばかりに一枚のカードを見せてきた。

「俺のターゲットは105番だ。たった今、そのプレートを手に入れた。だから俺にはあんたをわざわざ襲う理由はない」

チラ、と自分の横で倒れている受験生に目をやった。私も釣られて様子を伺う。
指先がピクピクと動いていたので、どうやら死んではないようだ。
ポックルさんに視線を戻す。彼がこちらに見せているカードは試験開始前に引いたもので、確かに105と書いてある。彼の言い分に嘘偽りはない。

「わかりました」と軽く手を挙げて答えると彼はほっ、と息をついた。
うん、確かにポックルさんが私を襲う理由はないけど、私がポックルさんを襲わない理由はどこにもないよね?大丈夫かあの人。
そう思ったが、口には出さずにゆっくりと近寄った。

「この人、矢は刺さってないみたいですけど」

倒れている受験生を見て言う。
凶器と思われた矢が刺さっていないだけではなく、目立った外傷は一切なかった。では何故彼は動けないのだろう。

「そりゃ、避けられたからな。あんたも避けただろ」

ポックルさんは木の幹に刺さった矢を指差して言う。

「避けられたけど、かすった。矢には薬が塗ってあるから、それで動けないんだ」

何てことのないように答えるポックルさんに素直に感心する。
すごい、なんかすごい狩りっぽい。超スマートじゃん。これが正しい狩るものと狩られるものか。私もやりたいけど弓矢も薬も持ってねーや!

「セリはどうなんだ?プレートは手に入ったか?」
「いや、まだ始まって半日ですし。プレートどころかターゲットだって見つかってませんよ」

そもそもあの麻痺状態の彼がこの島で最初に見つけた受験生だ。先程と変わらぬ様子の105番の受験生の方を向いて心の中で呟いた。
ポックルさんは「そうか」と短く返事をしたあと、少し間をあけてから次の言葉を紡いだ。

「一緒に捜すか?俺はもう六点分集まってるし」

意外な申し出だった。さっきも思ったけど、この人、私にプレートを奪われる可能性は視野に入れてないのかな。
わりと天然なの?純粋なの?それとも私を雑魚だと思ってバカにしてるの?ってそれはないか。私、三次試験では結構派手に動いてたし。
……まぁ、ポックルさんは三次試験での仲間だし、わざわざ彼からプレートを奪わなくても…ね。いいよ、うん。

「……そんなことより、ポックルさんは塩を持っていたりしますか?」
「?なんで塩?」
「いや……実は魚を食べようと思ったんですが調味料を一切持っていないことに気がつきまして。いや、食べれないことはないんですけどやっぱり塩味って大事じゃないですか?塩一振りするだけで全然違うじゃないですか?もちろん素材の味がどうとかあると思うんですけど、そんなもん私からすればどうでもいいというかぶっちゃけよくわかんないんで調味料が欲しいというか」
「あ、えっと……塩は持ってないです…」
「あ…そうですか……」

残念。

[pumps]