お父さん、狩りって楽しいね
ポックルさんは塩は持っていなかったが、代わりにこのゼビル島で採れる木の実の中で食べられるものを一通り教えてくれた。
ついでに薬草なんかの見分け方や効能も簡単に説明してくれ、その知識量に舌を巻く。
博識ですねと言えば「こういうのは慣れてるからな」と返ってきた。

「つまり普段は無人島で生活してると」
「なんでそうなる」

極論過ぎるだろ、と苦笑するポックルさんの横で、私は目の前の透き通った水に手を突っ込んだ。冷たい。
水場を探している、とポックルさんに伝えたら実は近くにあったらしく、案内してくれたのだ。
これでもう私は完全に彼に頭が上がらなくなった。散々エーミールとか言って茶化して本当にすみませんでした。

「そうじゃなくて、森とか山を探索する機会が多いんだよ。もちろん食糧は持ってくけど、何が起きるかわからないだろ?飢え死んだりしないように、何が食いものかぐらいは判断できないとな」
「へぇ、ポックルさんって自然観察とか好きなんですか?」
「まぁ、そうだな。ライセンスが獲れたら幻獣ハンターとして活動したいと思ってるんだ」
「幻獣ハンター?幻獣って…あいつらですか?ユニコーンさんとかグリフォンさんとか」
「なんだその友達みたいな言い方は」

友達というか私の保護者は妖精さんと契約してますよ、と教えようか迷ったがやめておいた。
幻獣って伝説上の生き物、というか怪物のことだよね?そのハンターってなんだ?捕まえるのか?それとも調べるのか?
まあ、逸話を聞いて惹かれるものはあるけど、私は別に調べたいとは思わないなぁ。

正直興味なかったので「好きなことがちゃんとあるのって、良いですね」とか適当に返しておいた。
するとポックルさんが何が言いたげにうずうずしていたので、言いたいことがあるならどうぞ、と促せば幻獣ハンターの活動内容と自分が何故それを志しているのか説明し始めた。

なんでもポックルさんは元々民俗学に興味があったらしく、なんか色々あって最終的に幻獣関係にのめり込んだそうだ。
いや、本当はこんな適当な言い方はしていないが、ポックルさんがヒートアップしちゃって意味わかんなくなってきたので纏めてみた。聞いてなかったわけじゃない。

「って感じかな。どうだ?分かったか?」
「えっと、幻獣と本気で結婚を考えているってところまでは一応…」
「言ってないぞそんなこと」

あんた聞いてなかったな、と突っ込まれるが下手な口笛を吹いて誤魔化す。全然誤魔化せてないとか言うな。
そんな私にポックルさんは特に怒ることもなく「まぁ、興味ない奴にはつまんない話だよな」と尤もなことを言って頭を掻いた。一人で盛り上りすぎたという自覚があるのだろう。
なんだか申し訳なかったので「いや、色々面白かったですよ」と一応フォローしておいた。聞いてなかったくせにふざけたこと言ってんなよ、という感じだが。

「そういうセリは?どうしてハンターになりたいんだ?」

来ると思った。ポックルさんの何気ない質問に心の中で呟く。
気になったから聞いたのだろうが、私的には地味に答えに困る質問なのだ。

えーっと本当の理由は「お金が欲しいから」なんだけど、それを素直に言うとドン引きされるだろうから行方不明のハンターのお父さんを捜している、っていう設定でメンチちゃんには通してるんだよね。
ポックルさんとメンチちゃんにこの先会話する機会があるかは分からないけど、万が一のことを考えて設定は統一した方がいいか。私も混乱するし。

でも今となっては借金があるから「お金がほしい」っていうのは別にゲスな理由じゃない。だって借金返済のためだもん。
別に嘘じゃないし、試験に合格してライセンス取った後に「HEY!楽しいハンターライフ送っているかい!」「実はライセンス売ってハンターじゃなくなったんだ!」「えーー!?」という展開になっても一応説明はつくはずだ。
よし、それならとりあえず混ぜてみよう。

「実は私、この年で自己破産するレベルの借金がありまして。その返済と、あと行方不明の父を捜すためにライセンスが欲しいなって思ってるんです」
「え…………えっ?」

やばい予想外に重い話になった。
固まったポックルさんを見て私も固まる。というかこれだとお父さん(仮)が借金残して蒸発したみたいな話になっちゃうな。
うわ、ごめんねお父さん(仮)。これ混ぜちゃいけない話だった。

「借金…それに父親も……い、いや、そうか、大変だな。悪いなこんな話…気が利かなくて…」
「いや、そんな大したことじゃないんでやめてください混乱しないでください罪悪感半端ないんで」
「何言ってるんだよ、自己破産して態々ハンター試験を受けるってことは、普通の仕事じゃ返せないくらいの額なんだろ?」
「待ってください!自己破産はあれです、言葉の綾です!別に自己破産してない(ていうかできない)ですし、多分ポックルさんが今想像してるような感じではないですよ」

出来る限り明るく言うとポックルさんは視線をさ迷わせた後、恐る恐る尋ねてきた。

「……不躾な質問になるけど、借金って幾らくらいなんだ?」
「え、48億とか…」
「想像以上だぞ!!?」
「あっ!でも!一応6億くらいは返し終わってるんで実質あと42億です!!」
「6億返済できてるのかよ!?すごいなオイ!!なにやったらそんなに稼げ………あ、ごめん!聞いちゃいけない話だこれ!!」
「確かに言いづらいけどやめて!!!」

その気遣いがつらい!!
いいんだよ、そんな分かりやすく気を遣わないでいいんだよ!一回聞きかけたんだからもうそのまま聞いてくれよ適当に嘘つくから!

一旦会話を打ち切った、というより続けられなかった。
私とポックルさんはまるでマラソン後のように息切れしていたからだ。試験中ということも忘れてほぼ叫ぶ勢いで話していたのだから当然か。
こういう時こそ水だ、と目の前の水を掬って飲む。少し息を整えた後、疲れた顔のポックルさんが弱々しく口を開く。

「そもそも何をやったらそんなに借金背負うんだよ…普通に生きててありえないだろその額は…」
「いやぁ、なんか色々あって…一言でいうと……ブラックジャックですかね」
「カジノかよ!?カジノで借金かよ!?同情の余地ないな!」
「違うそっちのブラックジャックじゃない!!」
「どのブラックジャック!?」
「医者です!無免許だから治療費が高いんです!」
「!?ちょっと待て!」
「あ、やべ間違えた。いや間違えてないけどごめんなさい今のなしでお願いします」
「いやいやいやいや!?」

ポックルさんは目にも止まらぬ速さで手を横に振ったあと、私の肩を掴んで「絶対騙されてるぞ…!」と凄い顔で言った。こんな顔する人初めて見たぞなんだその顔。
無免許はまぁ、百歩譲ってよしとして、確かに治療費は数字だけ見たら完全にぼったくりだ。いや最早ぼったくりとかいう額でもないけど。
けど、あれは彼の念能力の特性上仕方のないことなのだ。あれがなきゃ能力として成立しない。

という説明を出来る相手ではないのでごめんなさいブラックジャック先生。無免許詐欺野郎ってことでお願いします。

[pumps]