お父さん、狩りって楽しいね
真実にほんの少しの嘘を混ぜて話した結果、私はブラックジャックと名乗る自称医者の詐欺師に騙され48億ジェニーもの借金を背負い、父(職業:ハンター)はそれを苦に家を出て行き、悲しみに暮れながらも色々とヤバイことに手を染めてなんとかかき集めた6億ジェニーを返済にあて、残りの借金返済+しつこい取り立て屋から逃亡+行方不明の父を捜すためにハンター試験を受けに来た、という完全に収拾がつかない設定になった。
八割は本当のことを話していたはずなのに、いつの間にか六割くらいデタラメになっている。なんでだ。

「よし、よくわかった。自伝とか書いてみたらいいと思う」
「何もわかってないじゃないですか。これ半分くらいフィクションですよ」
「えっ、なんだよじゃあどれが本当なんだ?ちょっともう一回最初から…」
「あ、やっぱりこれでいいです。とりあえずフィクションだろうがノンフィクションだろうが、この話は他言無用でお願いします。私が混乱するんで」

念を押して私はポックルさんと別れた。
本当はお言葉に甘えてターゲット捜しを手伝ってもらうかと思っていたのだが「話していて疲れたから」という実にシンプルな理由でやめた。
このまま一緒に居続けたらハンター試験用の設定がどんどんおかしくなるだろう。七日目にはブラックジャックがサイボーグ化とか実は父が死んでてその仇(※ブラックジャックの師匠)とか出てきそうだ。わけわからん。どこの少年漫画なの。

いつの間にか日が暮れていたのでポックルさんに教えてもらった食べられる木の実を採取しながら寝床を探す。
ギャーギャー騒いでいたせいか、一人になって急に心細くなったので絶をしておいた。
辺りが完全に暗くなってからは脳内で騒いでいるゴリラさん達を「初日から無理はよくない」と説得し、隠れるように寝床についた。

………やっぱり別れるんじゃなかった。
仲間がほしいと思った無人島生活初日、終了。


***
そして次の日、無人島生活二日目の昼。

「……ぅわっ………」

ヒソカさんを見つけてしまった。

あっぶない!今日は絶しててよかった。一人になった不安から起きてからもずっと続けていたのだ。うわ本当によかった。
心の中で自分の判断を褒め称えながら屈んで草むらに身を隠す。幸か不幸かこの草むらは立っていても腰が隠れるほどの高さがある。
このまま屈んだ状態でゆっくりと移動すれば、気付かれることはないだろう。

「さぁ」

――出てきなよ。いるんだろ?
静かな森に突然響いたヒソカさんの声に固まる。

え………え?それ、私?私なの?私に言ってるの?もうバレた?えっ!?私の絶ってそんなに下手だっけ!?あっ、下手だった!!
今すぐにでも叫んでこの場から逃げ去りたい衝動に駆られるが、必死に抑える。
バカなことは考えるな。存在に気付かれている時点で逃げられるわけがない。

「こないならこっちから行こうかな」

そんな恐ろしい台詞を吐いてヒソカさんはゆら、と立ち上がる。ちょ……本当やめてください…。

しかしヒソカさんは私とは正反対の方向に進んだ。あれ、私じゃなかったの?と呆気にとられる。
実は森の精霊さんに話し掛けていたのだろうか?だって他に誰も……そう思った時、ヒソカさんが進んだ方向の茂みから突然槍を持った男性が現れた。
左手に持った槍を勢いよく振ると、その一振りで腰が隠れるほど長い草の上の部分がざっくりと切れる。

だ、誰だお前いたのか。武闘家風の男の登場に驚きながらも安堵する。
よし、一先ず命は繋いだ。そして流石のヒソカさんも森の精霊さんに話し掛けちゃうような痛い人じゃなくて何よりだ。これ以上痛々しい要素が足されなくて本当によかった。

武闘家風の男は片手で槍を一回転させてからピタリと止め、ヒソカさんに向かって「手合わせ願おう」と渋い声で言った。
あんな重そうな槍を片手で、しかも正確に扱えるのだから普通に考えれば相当強い人なんだろう。しかし彼がヒソカさんに敵うとは到底思えない。
じりじりと距離をつめる二人を視界に収めて唾を飲み込んだ。全然関係ないのに私まで緊張してくる。

武闘家風の男の攻撃により、闘いが始まった。
男の槍による攻撃をヒソカさんは余裕で避ける。私からすれば目で追うのが精一杯な彼の攻撃はなかなか当たらない。
そして何故かヒソカさんは一切反撃をしなかった。

まだ闘い始めて数分しか経っていないというのに武闘家風の男はもう息が上がっている。
疲れるの早くないか?今残っているということは、一次試験のあのマラソンを突破できる体力はあるはずだ。
不思議に思ったが、よく見ると男の背中に血が染みていた。その周りを見たことのない蝶が飛んでいる。
戦う前から怪我をしていたのか。これじゃあ念が使える、使えない以前の問題だ。あんな状態で勝てるわけない。

武闘家風の男は、槍を構え直しながら少し距離をとると「なぜ攻撃してこない!」と荒い息で叫んだ。

「何故って、このまま避けてればキミは勝手に死ぬから」

ヒソカさんはなんてことないように言った。
確かに、あの傷をこのまま放置していたら男は間違いなく死ぬだろう。

「おびただしい数の紅血蝶がキミの傷の深さを物語っている」

あれ「こうけつ蝶」っていうんだ。字分かんないけど多分けつは血だろうな。ガク、と武闘家風の男が膝をつく。
ヒソカさんが言うには、男が頑張ってるのは死ぬとしても最期まで戦士として戦いたいかららしい。
なるほど、私には全くもって理解できない感覚だ。ヒソカさんは「死人に興味ないんだよね」とつまらなそうに呟いた。

「キミ、もう死んでるよ。目が」

バイバイ、と続けてヒソカさんは男性の槍攻撃により偶然作られた切り株に腰掛けた。
断面は斜めだしあまり綺麗に切れていた訳ではないのでお尻痛そうだな、と思った。
暫く黙っていた武闘家風の男が雄叫びを上げながら襲いかかる。しかし彼の槍がヒソカさんに届く前に彼の顔に何かが刺さった。

「ゴメンゴメン、油断してて逃がしちゃったよ」

となんだか妙に明るく言ったのは多くの受験生達に第一印象でこいつやべぇ!と思わせたイカれた外見の針山擬人化さん。その手には針。
針……針?あれ、………あ、あれ?なんかよく見たらすごい見覚えある武器だぞ?ん?
ていうかなんでコイツこのタイミングで来た?気配しなかったよ?そもそもお前喋れるんだな。

外見といい行動といいツッコミ所満載だ。そのまま二人で話始める。
え、えっと…類は友を呼ぶというやつなのかな?何ここ超怖い。あいつら仲良しなのか。
今回の試験でも特にヤバイ奴ツートップが揃ってしまうという恐ろしい状況に一刻も早くこの場から立ち去りたいと思うが、最早バレずに逃げられるような空気ではないので全力で草むらに身を隠す。この二人が居なくなるのを待つしかない。
二人の会話に聞き耳を立てると針山擬人化さんは武闘家風の男を『油断して』ではなく『わざと』逃がしたらしい。

「どうでもいい敵に情けをかけるのやめなよ」
「だってさー、可哀想だったから。どうせ本当に死ぬ人だし」

針山擬人化さんは可哀想だからあの人の最期のお願いを聞いてあげたっぽい。
なんか一々台詞が怖すぎて何を言ってるのかよくわからないな。

「ヒソカもたまに相手にとどめささないで帰ったりするだろ?」

そう話を振られるとヒソカさんは「ボクはちゃんと相手を選ぶよ」と答えてから、にやっと笑って続けた。

「今殺すには勿体ない人だけ生かすわけ」

なるほど、ってことは容赦なく首切られた私はヒソカさん的に殺してOKなやつだったのか。
わかってたけど。わかってたけどそれはそれでなんだかちょっぴり悔しい。
いや、別に気になる人をストーカーしてるような変態に今殺すの勿体ないとか思われてもキモいだけだからいいんだけど、うん、いいんだけど……この気持ちは何……?
もやもやしているとヒソカさんが「あ」と思い出したように声をあげた。

「で、プレートは?」
「あるよ」

針山擬人化さんが371番のプレートを見せた。アレは会話から察するに武闘家風の男が持っていたプレートだろう。
それを見せながら針山擬人化さんは自分はこれで六点分貯まったから、と懐から別のプレートを取りだして「こっちはいらないからあげる」とヒソカさんに渡した。自分を銃で狙ってきた相手らしい。
こいつはムカついたからすぐ殺しちゃった、と世間話のようなノリで語る彼にゾッとした。

彼は、念能力者だろう。
正確には凝を使わなくてはわからないが、今ここで絶をやめるなんて命知らずな真似は出来ないので確かめられない。
でも絶対念能力者だよ。むしろこれで違ったら怖いわ。

流石ヒソカさんの友達だわ、とドン引きしていると針山擬人化さんがゆっくりと顔の針を抜いた。一本だけではなく、全部。
なんだ急にサービスいいな、なんてバカなことを考えているととんでもない展開になってきた。

ビキビキと音を立てて顔の皮膚、というより骨格が通常ではありえない動きを始めたのだ。
えっ、何あれ。生きてるの?皮膚の下になんか飼ってるの?一回離れた方がいいの?
固唾を呑んで見守っていると恐ろしい音と動きが止んだ後、針山擬人化さんは針山から一転、よく見知った顔になっていた。

「あー、すっきりした」
「あえええええ!?」

なぜイルミ!

[pumps]