お父さん、狩りって楽しいね
針山擬人化さん=イルミ。

まるで似ても似つかなかった二人がまさかの同一人物。
顔と名前が浮かんでイコールで結ばれた瞬間、そのあまりの衝撃に反射的に叫びながら立ち上がる。
が、すぐに我に返り何事もなかったのように屈んで再び草むらに身を隠した。

「なんでもう一回隠れたの?今の無かったことにできると思った?ねぇ?」

そしたら当然の如くイルミに突っ込まれた。

「おや、セリ。まだ誰か隠れてると思ったらキミだったんだ」

しかもいるのバレてたんかい。
ヒソカさんの言葉にショックを受ける。分かってたなら先にそう言ってくれよ。今までの私の頑張りはなんだったんだ。必死に気配を消そうとする私は姿こそ見えなくてもさぞ滑稽だったろうに。
草の葉の隙間から弱々しく顔を出すとヒソカさんがにんまりと笑って此方を見ていた。にっこりではないので間違えないように。

「話すのは久しぶりだね。元気かい?」
「ひ、ヒソカさん。チーッス…」
「ああ、元気みたいで良かった。突然だけどボク、プレートが欲しいんだよね。だからキミのプレートくれる?」
「ええ〜、代わりにヒソカさんのプレートくれるならいいですけど…」
「交換かぁ。うーん、それだとお互いの持ち点が一点になっちゃうから、やめた方がいいと思うな」
「じゃあやめましょう」
「うん」
「なにその非生産的な会話」

混乱していたせいでツッコミどころ満載に仕上がった会話は、ボケツッコミなんでもござれのオールマイティーな演技派暗殺者イルミからひどく冷静に突っ込まれた。うん、本当に意味のない会話だった。なんだ今の。
私と一緒にツッコミを受けたヒソカさんは思い出したように話す。

「そうそう、さっきから見てたなら知ってるだろ?イルミはプレートくれたんだよ」

だからなんだ。くれってか。
とは返さずに当たり前のようにそこにいるイルミの方に視線を向けてから、ゆっくりと口を開く。

「…イルミは余裕あるからですよ。知らないんですかヒソカさん。イルミはプレートを盗ることにかけては右に出るものがいないんですよ。それこそ鮭を狙う熊のように…ハチミツを狙って蜂の巣に特攻する黄色いぬいぐるみのように…」
「なにその設定?俺初めて聞いたんだけど。そういうのは事前に打ち合わせしてって前にも言ったよね?なんでセリって学習しないの?」
「えっ、…ごめん…なさい…」
「これ打ち合わせして済む話なのかい?」

ヒソカさんが頬を掻きながら言う。私とイルミの会話に彼は珍しく戸惑った様子を見せた。
ヒソカさんはイルミが打ち合わせさえすればどんな小芝居にも乗ってくれることを知らないのだろうか(演技力に関しては触れちゃいけない)。

って、いや、ちょっと待て。ヒソカさんが私達のやり取りに戸惑っているけど、今この場で本当に戸惑っていいのは私だよね。私のはずだよね。
本来ここにいるはずがない暗殺者の方を見て、ずっと思っていた疑問を口にする。

「それよりその…なんでここにイルミがいるの?」

イルミがハンター目指してるなんて話聞いたことないんだが。あれー、おかしいなー。前に私が試験の話してもどうでもよさそうだったじゃん。
今までのイルミの反応を思い出し、どうにも意図が掴めず「ハンターに興味なかったよね?」と聞く。

性格的にどう考えてもハンターに向いてないし、そもそもこいつは暗殺者だ。お金だって腐るほどあるだろう。ここにきて兼業?
それともまさかキルアのストーカー………は、ないか。あの子家出中だし、キキョウさんに頼まれて連れ戻しにきたのかも。
あれ?でも、それなら別に変装する必要ないよね?実力行使で家まで連行すればいいだけだ。
なんで態々あんなファンキーな人になってたの?…自分の姿を隠したかったの?

そういえばキルアとじゃれてる時にどこかから殺気が飛んできたりしたけど、あれってもしかしなくてもイルミの仕業だったのか?
じゃあやっぱりこれって個人的感情による行動?つまりストーカー!?うわ、こいつないわ〜!

軽く鳥肌がたった腕を擦る私を不思議そうに見た後、イルミはストーカーでもなんでもない、しかし私からすれば腹の立つ志望動機を口にした。

「俺はちょっと仕事の関係上、資格が必要になってね。ハンターには興味ないけど、ライセンスはあるとこの先も便利だから」
「仕事?え、そんな理由でライセンスを取りにきたの…?」
「うん。ダメなの?」
「……あ、当たり前だろうが!そんな甘いもんじゃないんだよ、ハンター試験は!みんなこの試験に人生かけてるの!!なのに仕事のために資格取りたいってなんだよてめぇユー○ャンかよ!」
「ユーキ○ン?」

ナメてる!こいつ試験ナメてる!ボールペン字講座のノリでハンター試験受けに来るんじゃない!
なに四次試験まで残っちゃってんの!?雰囲気的になんか普通にこのまま合格しそうじゃん!初受験で合格とか本当に私の立場なくなるからやめてよ!

言いたいことを全てぶちまけてみたが、残念ながらイルミには何も伝わっていないようだった。
悔しさと怒りで拳を震わせているとヒソカさんから質問が飛んできた。

「そういうセリはどうしてハンターになりたいんだい?」
「えっ!わ、私は、金……えっと、行方不明の父を捜すためで……」
「え?豪遊するお金が欲しいからって昔言ってたよね?」
「豪遊とまで言ってないでしょ!?」
「なるほどお金が目的か」
「いや!違…くないけど、その………ダメなんですか!?幸せになりたいんですよ私は!はっきり言いますけどお金が欲しいんですよ!!」

開き直って堂々と宣言する。文句あるのか?勝負するか!?
興奮状態の私に、ヒソカさんは目をぱちぱちさせてから意外な言葉をかける。

「ううん、ダメじゃないよ。それはそれで良い理由じゃないか」
「え……本当ですか?」
「うん」
「俺は最低のゴミくずだと思うよ」
「イルミに言われたくないんですけど!人殺しのゴミくず野郎!……あ、ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい調子乗りましたごめんなさい。ち、ちなみにヒソカさんはどうしてハンターに?」
「うん?人を殺しても罪に問われない場合が多いからかな」
「このゴミくず野郎!!」

なんだここ。ゴミくずしかいないぞ。
ほんのちょっと上がったヒソカさんの好感度がまたすぐに底辺まで落ちたぞ。なんだったんださっきの謎の優しさは。

「ゴミ棄て場育ちの天然ゴミくずに言われたくないよね」
「でも私がこの中で一番マシなゴミくずだと思うよ、この養殖ゴミくずめ」
「キミ達、天然とか養殖とか魚みたいなこと言うのやめようよ」
「ヒソカさんのそのイカれたゴミくず感は天然ですか?養殖ですか?」
「さぁ?どうだろうね。というか、キミは自分がゴミくずなのは認めるのかい?」
「別に認めてませんよ、認めたくないですし。けど、ゴミ棄て場に置いてかれた時点で、父からすれば私はゴミなんだろうなって」
「ああ、キミ意外と重い過去持ちなんだね」
「ええ、私結構色んな設定持ってますよ。そんなゴミでもゴミなりに人生楽しみたいんです」
「細かいようだけどゴミじゃなくてゴミくずね」
「うるせぇ養殖!」

綺麗に纏めようとしてたのにどうでもいいことを言って邪魔してくるイルミはなんなんだろう。実は私が好きなのか。好きな子いじめか。
もちろん冗談だが口にしたら多分私はゴミくずどころじゃなくなるだろうから黙っておいた。
一度咳払いをしてから「とにかく!」と口を開く。

「ゴミ棄て場の片隅育ちの私が一番簡単に幸せになれる方法はハンター証をとって売ることです」

だから私はハンターになる!!
両手を広げて高らかにそう叫べば、イルミとヒソカさんは圧倒されたように「「おお」」と呟き、ぱちぱちと手を叩いた。ありがとう、みんなありがとう。ライセンス売り払った時点でハンターじゃなくね?とかその他諸々は気にしないでくれ。

「セリのおかげでなんだか盛り上がってきたね。みんなで焚き火でも囲んで踊るかい?」
「このメンバーでそんなことやったらただのホラーなんでやめましょう」

そもそもまだ試験中だろうが。私もちょっと忘れてたけど。
ヒソカさんはにやにやしながら「冗談だよ」と言った。ぶっちゃけ見た目と普段の言動がアレだから冗談に聞こえなかった。
そんなヒソカさんに冷たい視線を送っていたイルミがこちらを向いて言う。

「そうだ、セリ。俺がハンター試験に来てるってことキルには伝えないでね」
「なんで?スト…あ、ああ…あの、サプライズなの?」
「?まぁ、そういうこと。言ったら刺すから」
「殺すって言われるより生々しくて怖い」

青ざめた私を見て大丈夫だと思ったらしいイルミは軽く頷いた後、「じゃあ俺はこれで」と言って地面に膝をつくとその場でザクザクと穴を堀始めた。素手で。
え…………えっ?なに急に!?すごい怖いんだけど!!

今まで見たことのない突然の奇行に、どう対応すれば良いのかわからず戸惑っている間にも穴はどんどん深くなり、すぐにイルミの頭から足の先までが隠れるくらいになった。完成したの?
その穴からひょこっと顔を出したイルミは「セリさぁ」と私に向かって言う。

「どうせまだプレート集まってないんでしょ?絶は下手だし、探知系の能力もないし、大して強くもないのにどうするの?」
「えっと…木の上から探す…」
「ふーん、そう。まぁ、バカとセリは高いところが好きって言うしね」
「言わねぇよ。なんで名指しなんだよ」
「ま、どうでもいいや。俺、期日まで寝るから。がんばってねー」

おやすみ、と言って穴の中に引っ込んで言った。
…期日まで、寝る?……………!?

「ひ、ヒソカさん…」
「なんだい?」

同じく決定的瞬間を見たと思われる人の名前を呼ぶ。
ヒソカさんは特に驚いた様子もなく、切り株に腰掛けていた。

「イルミって…もぐらさんだったんですか…」
「違うと思うよ」
「私…十年以上付き合いがあるのに知りませんでした…。イルミが地中で眠れるなんて…」
「そうかい」
「こんなことも知らないなんて…私達の兄妹設定とはなんだったのでしょうか…」
「これは別に知らなくてもいい情報だと思うけど」
「はあ?なにいってんですか?土の中ですよ?窒息死しますよ!?ていうか、残り全部寝るってどういうこと!?冬眠!?」
「…………」
「ヒソカさんがこんな薄情な人だとは思っていたけど、思いませんでした!もう知らない!さよなら!!」
「え?うん…?」

一通り捲し立ててから何がなんだか、上手く状況を飲み込めないでいるヒソカさんを置いて、私は自身の限界を越えたスピードでその場を離れた。
どのくらいかっていうと40ヤード走でセナが出した4秒2を余裕で切れるくらいには速かったと思う。

とにかく距離を開こうと必死に進み、暫して一旦止まる。
振り向いても誰もいないし、誰かが来る気配もない。

よし、イカれたゴミくずから逃げるの成功!
背中向けるのめっちゃ怖かったけどなんとかなった!タッチダウンだ!

[pumps]