お父さん、狩りって楽しいね
絶をしたまま動き回る。
いつの間にかすっかり夜になっていた。街灯などないので、行く道を照らしてくれるのは月明かりしかない。
いや、嘘を言った。全然照らしてくれてない。暗すぎて怖いわ。
先が見えない恐ろしさに自然と足が止まる。だめだ、これ以上進むのは諦めよう。

ちょうど小さな洞窟を見つけたので円をしてからゆっくりと足を踏み入れる。
奥まで行ってみたが誰も居らず、特に罠も見当たらなかったため、ゆっくりとその場に腰を下ろした。
ウエストポーチから水補充済みペットボトルを取り出し、蓋を開ける。
ヒソカさんから距離は取れたと思うが、ポックルさんに教えてもらった水場からも大分離れてしまった。
でももうあの付近には戻りたくない。また水場探しか。

水を飲みながらこれからの事について考える。
ずっと切っていた携帯の電源を入れて時間を確認するとちょうど数分前に日付が変わったところで、試験としては三日目となった。

とりあえず一旦眠って明け方頃に行動しよう。
携帯のアラームは…聴力ヤバイ人とかに聴かれる可能性があるからセットできないな。うん、起きられるか分からないぞ。

このまま寝ないで行動して誰かの寝首をかくのも良いかもしれないが、外は真っ暗で視界が悪い。
正直あの暗闇をこれ以上一人で歩くのは無理だ。もう耐えられない。主に気持ち的な問題で。
そして何より眠い!ので、私は寝る。おやすみ。
携帯の電源を切ってからごろん、と横になった。


***
目が覚めてすぐに携帯の電源を入れて見ると9時を過ぎていた。
普通に寝坊だ。ちょっと私リラックスし過ぎじゃないか?洞窟ってそんなに寝やすい環境じゃないと思うんだけど。

まあいい。こんなもん予想の範囲内だ。
もう一度携帯を切り、ウエストポーチにしまう。円を広げて周囲の様子を伺ってから、静かに洞窟の外に出た。

三日目の今日はどうしようか。第一目標は118番を捜してプレートを手に入れることだが、なんかもう誰でもいいから人に会いたい。
もちろんターゲットの猿使いに会えたら嬉しいが、それ以外の人でもいいから見つけて、保険用として少なくとも一枚はプレートを貰っておきたい。

でもこういうのって捜そうとして行動すると全然見つからないんだよね。会いたくない時は見つかるのにさ。
まぁ、今この島にいる受験生はあの無茶苦茶な試験を突破してここまで残ったのだから、念は使えなくとも十分実力のある人達だ。手負いでもない限り簡単に見つかるはずがない。

と言ってもこの環境下ではそろそろストレスが溜まってくる頃だろう。
身体のみでなく精神的な疲労によって隙が生じるはずだ。周囲を常に警戒したり、気配消すのって疲れるもんね。

それから、二人以上で行動している場合も見つけやすい。人が増えれば増えるほど気配は隠しにくくなるからだ。
その分戦闘では有利になるが、プレートの数には限りがあるため、最終的に揉め事に発展する可能性を考慮するとあまり大人数での行動はないだろう。

それでも手を組んでいる受験生は多いかもしれない。元からの知り合いはもちろん、ポックルさんが私を誘ってくれたように三次試験繋がりで協力関係が生まれた人達もいる(信頼ではない)。
うん、やっぱりポックルさんと別れなければ良かった。超寂しい。

そんな絶賛ぼっち中の私の耳に微かな足音と草の掠れる音が届いたのは、朝食兼昼食である木の実を採取しようと木登りをしていた時だった。
誰かいる。そう思い、採った木の実を服のポケットへ突っ込んでから、なるべく音を立てぬように枝を伝って移動し、辺りを見回す。
気のせいかと思ったが、少し先の方に見覚えのある二人組の後ろ姿を見つけた。クラピカとレオリオだった。

細い枝の上でピタリと動きを止める。
絶をしていたこともあり、向こうはまだ私に気が付いていない。さて、どうしようか。
これがハンゾー先生やキルアなら迷わず声をかけた。ポックルさんでもかけただろう。ゴンは少し悩むけどやっぱり声をかけると思う。

しかしあの二人が相手だと微妙に悩む。だって私達別に親しくないもん。
向こうが私をどう認識しているか分からないが、少なくとも私からすれば気軽に声をかけられる相手ではない。
男2対女1だ。最悪、声をかけた瞬間戦闘になるかもしれない。

もし私がどちらかターゲットだったらどうなる?一応二次試験の時に火種を貸したという恩があるが、それはそれこれはこれ。
友達の友達……いや、友達(ゴン)の友達(キルア)の友達(私)?という特に親しくもない間柄の人間が相手なら遠慮もしないだろう。

なんかもう別に細かいこと気にしないで後ろから蹴り飛ばしてプレートを奪ってもいいんだけど、メインキャラだしなんか気が引ける。
となると、このまま声を掛けずに無視が一番いいのか。

いや、でもイルミの言う通り探知系の能力を持っていない私がこの先他の受験生に会えることはそうそうないはずだ。
二人以上なら少しは見つけやすいって言ったけど、結局はこの広い島(オプション:洞窟等)に自分含めて25人しかいないんだぞ?
みんな隠れ家とか作っちゃうだろうから、プレートが手に入ったらあとはもう期日まで引きこもり。日が経てば経つほど見付けにくくなる。

そうなると今はこの試験最大のチャンスなんじゃないか?
別にプレートを奪わなくてもいい。ただ、何か情報交換くらいは出来ないだろうか。主に相手の位置情報。
ちなみに私が持ってる情報は…えっと「向こうの方にヒソカさんがいるよ!危ないよ!」ってのと「301番は土の下にいるよ!寝てるよ!」ってのか。うわ、アバウトすぎ絶対いらないわ。

でも「誰が何番のプレートを所持してるか」ってのは結構有益な情報かもしれない。確かヒソカさんがイルミから貰ったプレートは、あの人のターゲットではないはずだ。
そのプレートがクラピカかレオリオのターゲットの可能性もあるし、知っておいて損はないだろう。まぁ、本当にどっちかのターゲットだった場合は諦めろとしか言えないけど。

よし、なら後は上手く声をかけて、敵意がないことを示すだけだ。もし私がターゲットだったら…うん、その時はその時ってことで。
絶を止めて堅に切り換え、二人の前に回り込むように素早く木を移動する。
駄々漏れになった私の気配にクラピカが気が付いたようで、それと同時に私は木から降りていた。

「ぎゃあああ足がぁぁあ!」
「「!?」」

そう叫びながら両手で右足を抱える。のたうち回るが実際には堅のおかげで全くダメージなど負っていない。
つまり演技。通称、着地失敗ドジッ子大作戦。
この作戦の狙いは相手に間抜けな印象を与えて「自分達の敵ではない」と格下認定させ、警戒心を解くことである。

「セリ?お、おい!大丈夫か!」
「レオリオ!」

止めるクラピカを無視してこちらに駆け寄ってくるレオリオを横目に見て、優しいな、と思った。
私なら見て見ぬフリをするか遠くから小さく声をかける。ドジッ子大作戦とか何とか言ったけど、ぶっちゃけこの状況下で叫ばれても友達の友達の友達程度の仲の人に態々駆け寄ったりしない。
何されるか分かったもんじゃないし、ハンター試験を受けにくるような人なら特に警戒心が強いはず。

だから、これは相手が余程のお人好しじゃないと成功しない作戦だ。
それを分かっていて実行したのは、なんだかんだできっとレオリオは単純でお調子者で情に厚いキャラだろうな、と思ったからだ。あと他に思い付かなかった。

「足打ったのか!?見せてみろ!」
「あ、大丈夫。今治った」
「嘘だろ!?」

す、と立ち上がってその場で数回ジャンプ。レオリオはそんな私の顔と足を交互に見やる。
未だに傍にやって来ないクラピカの探るような目は無視して口を開いた。

「木に登ったはいいけど降りれなくなっちゃって」
「飛び下りたってか?アホ!」

ベシッ、と頭を叩かれる。
意外と和やかだ。作戦成功というか、なんか思っていたより私達の距離って縮んでたのかな?
しかもこれだけ近くに居てプレートをとろうとする素振りを全く見せないので、私がどちらかのターゲットという線は薄い。
なんだ、意外といけそうだな。よし、情報交換始めよう!とする前にクラピカが私を呼んだ。

「私は、ギリギリまで貴女がいることに気がつかなかった」
「ああ、そういや俺もだ。すげぇな」
「…木から落ちてくる直前に気配を消すのをやめただろう。私達を見つけたからだと思うが…。貴女は後方からわざわざ私達を追い抜いて来たように感じた。それは」
「それはナルトごっこをしてたからかな…」

遮るようにそう言うとしん、と静まり返った。
もしここにいるのが旅団とかゾルディック家の連中だったら「うわ、また変なこと言い出したよコイツ」という目で見られただろう。
でも素直にドジッ子大作戦とか言えないし。

「なる……?」
「ナルト。忍者だよ忍者」
「ニンジャ?なんだそりゃ」
「…忍のことか?諜報や暗殺を生業とすると文献にあったが」
「そんな感じ。あっ、ここだけの話、実はハンゾー先生って忍者なんだよ」
「ほぉー」
「?待ってくれ、貴女の話では彼は確か『竹とんぼ』というものの先生では…」
「ちょ、やめて、その話蒸し返さないで…」
「おいクラピカ、お前ちょっと無神経だぞ」
「えっ」

咎めるように言われ、クラピカは目に見えて困惑していた。
申し訳なく思ったが上手いこと話がすり替わっていたので、このまま別方向に持っていこうとクラピカより先に口を開いた。

「ところでさ、118番って今どこにいるか分かる?あ、タートルネック着た猿連れてる人なんだけど」
「「えっ」」

私の発言に二人が声を揃えた。何とも言えない空気が漂い始める。

「なんで118番なんだ?も、もしかしてターゲットとか…?」
「うん」
「悪ぃ……」
「え、何どうしたの?」
「それはなんというか………ああ、悪いことをしたな…」
「いや、だからどうしたの?」

何を言ってるんだこの二人は。ちゃんと私にも分かるように話をしてくれ。
二人で顔を見合わせた後、言いづらそうにレオリオが口を開いた。

「その…118番のプレートは持ってたんだが……昨日の夜にヒソカにやっちまったんだよな」
「…………………は?」
「我々にも事情があるんだ。まさかセリのターゲットだったとは…」
「うーん、なんつーかタイミング悪ぃよな。ヒソカより早く来てりゃ、渡してたんだが…」
「あ、え………は…?」

昨日の夜にヒソカさんに渡した?
な、何それつまり私がアラーム無しで朝起きられるかどうかとか考えてた時には、もう既に118番のプレートはヒソカさんの手にあったわけ?
でも私とヒソカさんって同じ方向から来てるよね?私の方が明らかにスタート早かったよね?この差はなに?後半追い上げ型なの?
ヒソカさんが、私の、ターゲットのプレートを持ってる?それを取り返す……うん!無理!絶対無理!

ガクッ、とやや大袈裟な動きで地面に手と膝をついた。
私の試験………終わっちゃった………。

[pumps]