お父さん、狩りって楽しいね
私のターゲットである118番はトンパさんと手を組んでいたらしく、レオリオはその二人に襲われて一旦プレートをとられたそうだ。
しかしトンパさんはクラピカのターゲットでもあったため、レオリオはクラピカと手を組んでトンパさんと118番を倒して自分のプレートを取り返した。
その時、もちろんトンパさんのプレートと118番のプレートも手に入れた。

しかし、その後二人は運悪くヒソカさんと遭遇し、交渉の末、二人にとっては一点にしかならない118番のプレートを番号を伏せて渡して何とかバトルを避けたそうだ。
それ私にとっては三点分なんだけど……。

「わ、悪かったって。そんなヘコむなよ」

はぁ、とわざとらしく溜め息をついた私にレオリオが焦り声で言う。
それに対し「別に……気にしてないんで…」と明らかに気にしてる態度を示すとレオリオはさらに参ったように頭を掻いた。

「なぁ、これから俺達と一緒に行動しねぇか?仮にもあんたにゃ恩があるわけだし、プレート探すの手伝うぜ」
「それは、…」

いいね、と言おうとして止めた。
仲間ができるのは素直に嬉しかった。だって夜暗くて怖かったんだもん。
しかし本当にこの二人と行動していいのか、と思った。だってクラピカはともかくレオリオはまだプレートを集め終わってないのだ。
このまま三人で行動して、最終日までお互いのターゲットが見つからないなら、それはそれで別にいい。
問題は中途半端にプレートを手に入れてしまった場合だ。

例えば、ギリギリまでターゲットは見つからなかったけど、代わりに私達二人にとって一点にしかならないプレートが二枚手に入った時とか。
レオリオと私のどちらかを合格させられるなら、間違いなくクラピカはレオリオを選ぶはず。
だから、私のプレートが盗られるんじゃないかなーって………。

まぁ、プレートを渡せなかったことを謝るような人達がそんなことをするとも思えないが……思えないけど、絶対にないとも言い切れない。追い詰められたらどうなるかわからないからだ。
そもそも私達そんなに仲良くないし、何度も言うけどそんなに仲良くないし、相性的な問題もある。
大して仲良くない人達と残り四日過ごすとかストレス半端ないぞ。

「嬉しいけど…、気持ちだけ受け取っておく」
「そうか?いや、でもよォ」
「こちらの都合を押し付けるのはよくないよレオリオ。どう動くかは彼女の自由だ」

クラピカにそう言われ、「それもそうだ」とレオリオが謝罪の言葉を口にする。
まぁ、正直クラピカも嫌だろうしね。男二人で気楽に行動してたところに大して仲良くもない女が来たら余計な気を遣って大変だと思う。


話は終わったが、特に別れるタイミングも掴めなかったので自然と同じ方向へ歩き始めた。
先頭はレオリオ、その後ろを私とクラピカが並んで進む。

「申し訳ないことをした」

突然横からそう言われ、目をパチパチさせた。どれの話?

「プレートのことなら別にいいよ。そっちが謝るようなことでもないし」
「いや、それだけじゃないさ。貴女のターゲットが誰か分かるまで私はかなり警戒していた」

目だけ動かしてクラピカの様子を窺うと、彼はこちらを見ていなかった。
周囲に気を配りながら話を続ける。

「レオリオを狙っていたのは118番だったが、私をターゲットとしているのは誰なのかわからないからな」

ああ、と納得する。
そりゃ警戒するよね。私も最初はその事を考えて二人に声かけるの躊躇ったわけだし。

「貴女なら気が付いていただろう。不快な思いをさせたな」
「別に…」

クラピカと話すときだけツンツンする癖直したい。
目を逸らしたり、返事が短かったり、すごく無愛想で失礼だ。ツンデレじゃないんだよ、ただのツンなんだよ。いつまで経ってもデレが発動しないんだよなんだこれ。
クラピカ本人はもう特に気にしてないみたいだし、いいのか?
一人頭を悩ませていると前を歩いていたレオリオが振り向き、私に向かって話しかけてきた。

「そういやお前さ、元々あのガキと知り合いなんだよな」
「どのガキ?」
「キルアだキルア」
「ああ…、うん。キルアの兄貴に嫉妬で刺されそうになるくらいには仲良いよ」
「こえぇよ。あー…いや、…ぶっちゃけ、接点が見つかんねーんだが。お前ら年も離れてるし、それにその………なっ!」

今度はクラピカの方を向くと足を止めて同意を求める。何が「なっ!」なんだ。
立ち止まったレオリオにやや呆れたような顔を向けたクラピカは代わりに先頭に立って歩き始めた。
レオリオと二人で慌てて後を追うとちらり、と私を見てから口を開く。

「セリは、キルアの家業については知っているのかと」
「そうそう!それ聞きたかったんだよ」
「家業?ってアレ、暗殺者の家系ってこと?知ってるよ」

なんだその話か。しらばっくれても仕方ないので素直に認めた。
これで実はキルアが隠してて全然違うこと言ってたら恥ずかしいな。

とりあえず、聞いておいてそういう微妙な顔をするのはやめてほしい。

「…じゃあよぉ、オメーも実はそういうなんか…やつなのか?」
「まさかぁ。私は人なんて殺したことないよ。多分」
「そうか………ん?そうか?多分ってなんだ?おい!?」
「いや、実は死んでるかもって人がいる場合もあるなー、って思って」

ほら、今まで色んな人に会ってきたし、特に昔は上手く念使えなくて適当に色々やってたから。
冗談抜きで一人ぐらい死んでてもおかしくない。ハハハと適当に笑って誤魔化す私を見るレオリオとクラピカの目がツラかった。特にレオリオが引いてる。

「相手が死んでいるかも、というのはそうなっても仕方がない状況下にいたということか?」
「うん。でもハンター試験受けにくる人なんてみんなそうじゃないの?多かれ少なかれ経験はあると思うんだけど」

難関と言われるハンター試験をわざわざ受けにくるのは自分の腕に自信のある者かバカだけだ。
喧嘩だろうが抗争だろうが特に理由のない命懸けのデスマッチだろうが種類問わず、人と争ったことのある血の気が多くてハングリー精神溢れる奴ばっかだと思ってたんだが違うのか。

「そうだな、セリの言う通りだ」

クラピカが私から顔を背ける。
あれか、なんか嫌なこととか思い出してるのか?今そういうのやめてよ。まだ回想の時間じゃないだろ。

「わかんねーな。俺は生憎調子乗ったクズとの喧嘩ぐらいしか経験がないもんでね」
「わからなくていいさ。セリの個人的な見解に私が同意しただけで、もちろん受験生の中には争い事には無縁の人間もいるだろう」
「ゴンとかゴンとかゴンとか?」
「いや、11歳を引き合いに出されてもなァ…」

***

他愛のない話をして二人と別れた後、イルミに宣言した通り、上から受験生を捜そうと木のてっぺんまで登って辺りを見渡したが何も見つからなかった。
まずあれだ、マサイ族並の視力がなきゃ無理だこれ。

困り果てた私は円をして歩くという考えに至り、地道に受験生の姿を探した。
その作業に丸々二日を費やして出た結論がこれだ。

“諦めよう”

「……………………」

無人島生活五日目、そろそろ日が沈む。
森林破壊なんて言葉には無縁らしく、のびのび育った木の下で体育座り。“諦めよう”じゃない、私はもう完全に諦めていた。
無理だ、無理だ絶対。ヒソカさんにターゲットのプレートを取られた時点で分かっていたじゃないか。
なのになんかまだ三日目だし、この島広い広い言いつつ結構な頻度で人に会ってたから、なんか一日一人ぐらいの割合でもしかしたら受験生狩れるかな、ってちょっと思っちゃったんだ。それがいけなかった。
プレートを手に入れるとか入れないとかの前に、まず人に会えないんじゃどうしようもない。
やっぱり、変なこと気にせずクラピカとレオリオを殺っておけばよかった。間違えた、殴っておけばよかった。

はぁ、と何度目かわからない溜め息をつくと、ハラハラと何枚か葉が落ちてきたのを視界の端で捉える。
何気無く上を向いたら人が振ってきた。

「よぉ」
「はぁっ!!は、ははははハンゾー先生…か……」
「えっ、大丈夫かお前ちょっと怖いぞ」

しまった油断してた。
ドキドキしながら久しぶりのハンゾー先生の姿を目にして思う。
いや、ハンゾー先生だったから良かったけどこれがヒソカさんとかだったから死んでたぞ。

「ひ、久しぶり」
「ああ。しっかし、まさか試験中に会えるとはなぁ」
「そうだね、偶然…」
「でよ!ちょっと聞いてくれよ!」

しまった油断してた(part2)
この人あれだ、お喋り大好きさんだった。ハゲはハゲでもよく喋るタイプのハゲだった。
話の内容は当然、この試験中の出来事だ。流石にここで全然関係ない話を持ち出すほどハンゾー先生はお気楽じゃない。

ハンゾー先生は試験開始からずっとターゲットである197番を尾けて隙を狙っていた。
ハンゾー先生は残っている受験生の中でもかなり腕の立つ方だし、様子見なんてせずとも真っ向勝負で勝てそうだが、実は197番は三兄弟らしく、常に他の兄弟二人と一緒に行動していたそうだ。
流石に三対一はキツいため暫くの間チャンスを待っていると三兄弟のうちの一人のターゲットがキルアだったらしい。
三兄弟がキルアを襲うが、まぁ、色々危ないあの家族に鍛えられているキルアが負けるわけがないので、逆に三人分のプレートを奪ってやったらしい。いいなぁ。
で、実はキルアのターゲットも三兄弟のうちの一人だったらしく、自分のターゲットのプレートを一枚手元に残して、他二枚は必要ないという理由でバラバラの方向へ投げ飛ばした。
そこでようやく動くハンゾー先生。自分のターゲットである197番のプレートを追いかけ、見事キャッチ!よっしゃ、楽にプレートが手にはいっ………と思ったらそれは198番でした………。

なんてことはない、ただハンゾー先生がドジッ子だったというだけの話だ。

「はい、お疲れさま」
「ああ。いやぁ、まぁ、その後なんとか二人倒してプレート奪ったから、六点分は溜まったんだがな」
「え!?」
「へへー!まっ、あと二日守りきれれば合格よ!で、そっちはどうだ?プレートは?」
「…………」

言いたくなかった。こんな話の後に言いたくなかったけど、隠し通せるわけないし、見栄を張っても仕方がない。
そう思い、覚悟を決めて正直にこれまであったことを洗いざらい話す。
気を遣わせないためにもすぐに明るい調子で続けた。

「ま、もうしょうがないかなーって。どうやっても絶対無理だし!」

体育座りをしている私の真ん前にずっと立っていたハンゾー先生が無言で腰を下ろす。

「私は、諦めたよ」

静かにそう言うとさっきまで笑っていたはずのハンゾー先生は、いつの間にか真剣な目で私を見つめていた。


「それでいいのかよ」
「うん?まぁね。もう二日しかないし」
「あと二日もあるんだぜ?なのにもう諦めんのかよ」
「……っていってもね…」
「別に、格上と無理して戦えなんて言わねぇ。他にも受験生はいる。そいつらから奪えばいいんだよ」
「いや、だからそれが無理なんだって…全然見つかんないし、もう」
「お前、頑張ってただろ!」

えっ、どうしたの急に。
座っていたはずのハンゾー先生は勢いよく立ち上がり、さらには私まで腕を引っ張られて無理矢理立たされる。
な、何が始まるんです?

「思えば二次試験!泣きながら豚を倒し、泣きながら寿司を作り、泣きながら崖を上った!」

いや、そんなに泣いてねーよ。何勝手に泣かせてんだ。

「お前、あんだけ合格したいって言ってたじゃねーか!」

ハンゾー先生の前ではそんなに言ってないと思うんだけど……心の中でそう突っ込む私の視界は徐々に滲んできた。

「まだ二日もあんのに諦めてんじゃねーよ!オメーのそれはなぁ、今まで落ちた他の奴らにだって失礼だ!」
「いや、でも…もう無理だって…」

そんなつもりじゃないのに声はどんどん小さくなり、弱々しく言葉を紡ぐ。
そりゃ私だって合格したいよ。けど、正直“頑張って”なんとかなる状況じゃないのだ。

プレートの数には限りがある。ターゲットのプレートが手に入らないことが確定した私は他のプレートを三枚集めなくはならない。無理だそんなの絶対無理。
今まで深く考えないようにして何とか耐えてきた事実を突きつけられ、本当に泣きそうになってきた私を見下ろすハンゾー先生は、顎に手を当てて何やら思案顔でいた。

「ひとつ、提案がある」

ぐす、と鼻を啜ってから震える声で「なに?」と返す。

「あのガキがぶん投げた俺のターゲットのプレートを捜すんだ」

顔を上げれば真剣な表情をしたハンゾー先生と目が合った。

「197番のプレートが見つかればその一枚で俺は六点になる。そしたらこれは要らねぇ。三枚ともお前にくれてやる」

ターゲット以外の三枚のプレートを見せてそう続けるハンゾー先生に軽く呆れた。
残り二日でそんなにうまく行くわけないだろ。

「…それ多分もっと無理だよ…」
「一人で無理なら俺も手伝う」

言いながらプレートを懐にしまう。

「一緒に探せばいい」

そして空いた両手でがし、と私の両肩を掴んだ。


「俺がお前のために見つけてやる!」
「ハンゾー先生…」

なんか今色んなフラグが立った気がする。


[pumps]