お父さん、狩りって楽しいね
立ったフラグが回収されるかどうかはわからない。そもそも本当にフラグが立ったのかもわからないし、まず何のフラグが立てられたのか……まぁ、そんなことはどうでもいいので置いておこう。
話によると197番のプレートはハンゾー先生が向かった方向とは真逆の方向に飛んでいったそうだ。

「だからあれだな、多分あっちの方だな」
「えっ、嘘ハンゾー先生ってそんな適当な人だった?違うよね?」
「って言われても実際あっちの方だからなぁ…」

あっちの方、と自然いっぱいな方角を指差したままハンゾー先生が答える。
ダメだ、アバウト過ぎる。ハギ兄さんが描く地図と同じくらいアバウトだ。

「やっぱり見つけるの無理っぽいね」
「ばっ、諦めんなよ!さっきも言っただろ!?」
「誰のせいだよ…」

諦めたくもなるだろうが。場所が場所ならスタンディングオベーションが起きそうなくらい感動したあの台詞は、やはり大した根拠もなくその場のノリで言っていたことがよくわかった。
いや、ノリではないか。きっと頑張れば見つけられると本気で思ったんだろう。
ハンゾー先生って意外と根性論好きだよね。間違いなく才蔵さんよりクールで忍者らしいから、もっとシビアなところがある人かと思ってたけど別にそんなことはなかったぜ!


「おーい、セリー」

どうすんのこれから…と早速やる気を失った私の耳に聞き覚えのある声が届いた。この…声は…!
私よりも先にハンゾー先生が上を向く。

「!お前…」
「あ、ハゲ。じゃない、ハンゾー先生」
「おい今ハゲって言ったよな?お前思いっきりハゲって言ったよな?」
「キルア!?キルア!キルアァ……!!」
「えっ、なにお前怖い…」

木の上から音もなくクールに登場したキルアは、どこかデジャヴな台詞を吐きながらこちらに来ようと動かしていた足をピタリと止めたかと思うと静かに私と距離をとった。地味に傷ついた。
しかし流石ゾルディック。本人は分かっていないだろうが完璧な絶だったので、声をかけられるまで全く気がつかなかった。
これは私より気配関連には敏感だと思われるハンゾー先生も同じだったようで、キルアのハゲ発言にツッコミを入れつつも神妙な顔をしていた。

「さっきなんか喋ってたよな。こっちまで声届いてたぜ」
「ああ、ちょっと白熱してたからね」
「白熱?戦ったのか?」
「いや……、そういえばキルアもうプレート集め終わって暇でしょ?ちょっと手伝って!」
「は?」

なんで知ってんの?と怪訝な顔をしたキルアにこれまでの経緯を早口で話す。キルアは信用できるし、即戦力だし、好きだから一緒に来てほしい。
そんな私の考えを悟ったかどうかは知らないが、ハンゾー先生がキルアをビシッと指差して言った。

「というか元はと言えばお前が投げたせいだぞ!あの兄弟が見つけて拾う前に何としてでも見つけるんだ!手伝え!」
「そ、そうだ!キルアが投げたんだから手伝え!」
「はぁ?なにそれ。別に俺かんけーねーじゃん」

顔色ひとつ変えず、キルアはどうでもよさそうな声で言った。

「そんな…キルアちゃん…」

泣いてるフリをしてみてもキルアは「やめろよキモい」と冷たい反応を見せる。思っていた以上に冷たくてちょっとショックだった。
しかしこれで懲りる私ではないので「キルアちゃん…」と呟きながら腕に巻き付く。物凄く鬱陶しそうな顔をされたのでちょっと力を入れたら「ア゛ァァアァア!!」とヤバそうな声を出されたので慌てて腕を離した。
やり過ぎたもしれん、そういえば私って結構ゴリラだった。

そんな私達のやり取りを見て、ハンゾー先生は一つため息をつく。そして、つるつるの頭を掻きながら「もういい」と静かに言った。

「おい、行くぞセリ。そいつは協力しない、って言ってんだ。時間が勿体ねぇ、俺達だけで探す!!」

拳を握って力強くそう言うと、こちらに背を向けて歩き出す。
全く振り返らずに進んでいき、段々小さくなっていくハンゾー先生の背中をキルアがぽかん、とした様子で見ていた。

「なに?なんであのハゲはお前のために頑張ってんの?なんの得にもならないのに」

ハンゾー先生の背中を指差しながら、私の方を向く。

「…あ、有り得ないだろうけど…まさかハンゾー先生ってセリのこと好きとか…?いや、有り得ないだろうけど」
「うん、それは有り得ないね。私も分かってるから別に二回も言わなくていいよ。あの、あれだよ、友達だから。ハンゾー先生は親切だし……あと兄貴肌っぽいし、私のこと妹みたいに思って面倒見てくれてるんじゃない?」
「妹ぉ?ハンゾー先生って年幾つ?」
「そういえば知らないなぁ」
「おーい、ハンゾーせんせー。ちょっと戻ってこいよー」

すっかり姿が見えなくなってしまったハンゾー先生に聞こえるよう声を大きくし、後を追って進む。
私が言うのもあれだけど、今試験中だからもっと静かにしない?足音立ててないからセーフとかそういうのじゃないよ?見つかっても勝てる自信があるからだろうけどさ。


「俺?俺は18歳だ」

ようやく追い付いたハンゾー先生は衝撃的な発言をしてくれた。

「なんだ、セリより年下じゃん」
「おい、嘘だろハゲ調子のんなよハゲ…」
「えっ、なんで急にお前までハゲって言い出した?しかも二回」
「大事なことだからじゃねぇの?な、セリ」

と同意を求めて私の服の裾をくいっ、と引っ張るキルアはとても可愛いが、私は無視してハゲを見つめていた。
このハゲ……初対面の時に年下のくせにため口きいてたのかよ。単に馴れ馴れしいだけでなく、礼儀もなってないとか終わってんなこのハゲ……偉そうに色々フラグ立てやがって、死亡フラグだけ私が回収してやろうかこのハゲ……。

「まさか才蔵さんまで同い年とか言わないよね…?」
「才蔵?いや、アイツは確か今年で21か22だ」
「なら許す」

ふ、と握り締めていた手の力を抜く。
これで才蔵さんまで年下とかだったらもうやってられなかったよ。

「?な、なんかよくわからねぇが……聞きたいことはこれで終わりか?なら、行くぞ」

ハンゾー先生が再び歩き始めたので、私とキルアは頷き後を追う。
……って、あれ?なんかごく自然にキルアが一緒に来てるけど、あれ?
手伝わないんじゃなかったのか…?と横を歩くキルアを見つめる。もしかして得意のツンデレ?相変わらずデレの頻度高いな。
我慢できず嬉しさからにやにやしてキルアを見る。私の視線にすぐに気がついたキルアは冷めた目を向けてきた。その目に何かを感じる。

「そういえば、私なんかキルアに言いたいことがあった気がする」
「なんだよ」
「なんだろう、…なんだろう?ちょっとなんか言ってみて。思い出すかも」
「バカアホドジマヌケ怪力グズノロマ」
「うん、悪口じゃなくてね」

なんでそんなスラスラ出てくんの?もう少し詰まれよ。

「あっ、そうだもぐらストーカーだ」
「は?もぐら…ストーカー?」
「いや実はさイ………」

ルミ、と続く前にイルミがさっきのキルアとよく似た冷めた目で「言ったら刺すから」と話していたのを思い出す。
あ、あっぶねぇ!よく言わなかった自分!!
イルミは有言実行タイプなのであの発言は決して冗談ではない。具体的にどこをどう刺されるのか教えもらってないところが余計に怖いよね。

「………………うん!」
「はぁ?いや、なんだよ?途中でやめんなって!気になんだろ?」
「いや、私は気にならないし…」
「そりゃあな!」

手でツッコミを入れられる。
これがかなり強くて結構なダメージを負ったが、ここで負けて名前を吐いたら死ぬので仕方なく口を閉ざした。


そんな他愛もないやり取りをしながらも私達は注意深くプレートを探した。
隅々と、しかし時間はないので出来るだけ早く進んでいく。
そんな地道な捜索を続ける私とハンゾー先生に、特に手伝うわけでもなくただ着いてきているだけのキルアが退屈そうに欠伸をして言った。

「やっぱさぁー、普通に考えて無理じゃねーの?」

ぴく、とハンゾー先生が耳を動かし反応する。額に青筋が浮かんでいたが、見えていないキルアはそのまま続けた。

「あっちの方、ってくらいしかわかんねーのにこのクソ広い島内をひたすら探すなんてさ。そもそも俺がプレート投げてからもう四日くらい経ってんだぜ。ひょっとしたら運の良い誰かが拾ってるかもよ」
「んなことこっちだってわかってんだよてめぇ!でも見つかんなきゃセリが落ちるんだぞ!何とも思わねーのか!?仲良いだろお前ら!」
「セリ、落ちたらさー、試験終わった後に連絡するから迎えに来て」
「………………」

どアップになったハンゾー先生の顔を手で退けながら、私に向かって明るく言う。怒る気は起きなかった。
だって仕方ない、キルアってこういう子だ。

***

『只今を持ちまして第四次試験は終了となります。受験生の皆さん、速やかにスタート地点へお戻りください』

四次試験終了のアナウンスが届いて、動きを止める。
今から一時間で戻らなければ六点分のプレートを持っていても不合格という扱いになるらしい。

「スタート地点に着いてからのプレート交換は禁止だってさ。ハゲゾー先生からプレート奪うなら今のうちだぜセリ」
「ハゲゾー先生ってなんだオイ?あ?……その、セリ、あのよ…」
「もういいよ、別に」

珍しく言葉につまるハンゾー先生は、きっと今の私になんて声を掛けたらいいのかわからないんだろう。

結局、プレートは見つからなかった。

この二日で私達が見つけたのは一人の受験生の死体だけで、気は進まないながらも一応持ち物を探ってみたけれど、何も出てこなかった。
分かりきっていた結果だ。奇跡の大逆転は起こらず、私は落ちるべくして落ちたのだ。

ショックだった。どのくらいショックかと言うと今すぐ泣き出したいくらい。
でも、それを実行したらキルアはともかくハンゾー先生が感じなくていい責任を感じそうなのでぐっと堪えた。
自分の目に薄く涙の膜が張られていることに気がついたので、然り気無く二人から顔を背けて口を開く。

「それよりハンゾー先うわあああああ!!?」
「!?なんだどうしうぎゃあああああ!!?」
「うっせぇよお前らうおおおおおおお!!?」

顔を背けた先の、もこっと盛り上がった地面からもぐらではなく人間が顔を見せたことにさっきまでのセンチメンタルな気持ちも忘れて叫ぶ。
冬眠中だったイルミ(針山擬人化バージョン)が土の下から這い出てきたのだ。物凄いホラーだった。

土の中から全身を現すと「あー、よく寝た」とでも言いたげに首を動かす。
そしてチラリと私達、というよりキルアに視線をやった後、イルミはスタート地点に向かって歩いて行った。冷や汗を流しながら見送る私達。
多分キルアが一緒にいなかったら叫んだ時点で殺されてたと思う。

「きっも!!なんだアイツ!きんっっも!!!」
「イカれた奴だとは思っていたが……まさか土から出てくるとは…」

大好きな可愛い弟にボロクソ言われるイルミを少し気の毒に思ったけど、まあ、自分のせいだ。
そんな未知との遭遇に怯えながらも三人でスタート地点まで戻る。一人プレートを集められなかった私は惨めだった。

三回目のハンター試験、不合格。

[pumps]