生きねば
合格者9人中8人が知り合いだったからもうね、本当に惨めだよ。
「え、お前落ちたの…?」って視線やめて。もっと無関心でいいんだよ不合格者なんて。
吃驚するくらい気を遣いまくる彼等は「落ちた」という言葉を直接口にしないのだ。
醸し出す空気がもう本当に、ね。触れちゃダメだみたいなのやめよう。今そういうルールないから。

そうやって腫れ物扱いされ、唯でさえ傷心だったのに、にやにやしたヒソカさんに廊下ですれ違い様に肩ポンされた時は本気で泣いた。完全にイジメだ。
「おい、女泣かせて楽しいかテメェ!」と一緒にいたハンゾー先生がキレてくれたが、ヒソカさんはキョトンとしていた。
確かに親切でやったならとばっちり感半端ないよね泣いてごめんね止まらないんだよ。
この号泣事件が切っ掛けとなり、アイツこのままだと自殺するんじゃないか?とか勝手な噂を立てられた。やめて……。

そしてその噂を聞きつけたらしい、唯一知り合いじゃなかった191番が私のところにやってきて「バカなことを考えるんじゃない。君はまだ若いのだから、来年また受験すればきっと合格できる」と励ましにきた。
彼の言葉に涙だけでなく鼻水も出た。そう思うならお願いだからこれ以上追い詰めないで。


皆の気遣いで逆にダメージを与えられ、心身共に弱りきった私はフラフラになって飛行船を降りた。
ハンゾー先生を始め、メンチちゃんにポックルさん、クラピカ、レオリオといった面々が心配そうに私を見送りにきた。
ポックルさんとクラピカ、レオリオの三人からは「何かあったらすぐに相談しろよ…」と連絡先までもらってしまった。何かってアレ?自殺?自殺の件?
この見送りではあのキルアでさえ空気を読んで生意気発言は控えていた。ちなみにゴンは最初から最後まで何故か私とやや距離を取っていた。あれ、なんかしたっけ?


とまぁ、そんな感じで最寄りの空港まで送ってもらった私は、四次試験の時にキルアが「試験が終わったら連絡する」と言っていたのでわざわざホテルを取って待っていた。一人になったことで心が落ち着いたため、自殺はしなかった。
しかし、一週間経っても二週間経っても何の連絡もない。

次が最終試験って言ってたし、あそこまで人数が絞られたなら、三次試験や四次試験のように時間が掛かるものじゃないと思うんだけど、変だな。
もしかして忘れてしまったんだろうか?あの子自分勝手だからあり得る。
だとしたらこれ以上は時間とお金の無駄だ。諦めて一旦流星街に帰ることにした。

***

「どうだった?」
「何が?」

実家に帰って一息ついているとナズナさんに話し掛けられた。

「ハンター試験だよ。受かったの?」
「えっ!あ、あのアレだよ!アレ…!」
「…………………」
「…………あの…」
「…………………」
「……落ちた……」
「そう」

少しでも音を立てたら聞こえないくらいか細い声で結果を伝えるとナズナさんは普段と変わらない声色で短く返した。すごく嫌だった。

この空気、なんかこう…正社員として働く!って宣言して家を出たものの結局就職が決まらなかったフリーターと母みたいな…この気まずい感じ…。
いや、ハンターになるつもりは元々なかったんだけどさ。でも、ハンターになってライセンス売って借金全部返すつもりだったから、もうなんか予定丸つぶれだよね。

「あの、ちょっとメガネのとこ行ってくる」

耐えきれずに家を出た。
ドアを閉める寸前に聞こえたナズナさんのハァー、というため息に肩が揺れた。そろそろ見限られるかもしれない。

一気に死にたくなってきた。
とぼとぼとゴミだらけの道らしきところを歩いて家から離れる。
メガネのところに行く気はなかった。今のこの気持ちでアイツの相手なんて出来ない。アイツうざいもん。

けれど他に行くところもなく、ナズナさんがいる家には帰りづらくてその辺をウロウロしていると、ゴミ山の側でボロボロの麦わら帽子を被ったちびっ子がおじさん達に向かって「さぁ働け親父ども!」と叫びながらツルハシを振り回していた。
衝撃的な光景に思わず二度見したが、よく見ると知り合いだった。
あれは確か年末らへんに捨てられて大泣きしていた子だったはずだが、様子を見る限りもう泣くのはやめたっぽい。順応力高いな。

「あ、セリちゃん!」

見つかって名前を呼ばれた。
泣いてるあの子に落としても割れない泥団子の作り方を教えて少しの間泣き止ませて以来、まあまあ親しい仲だった。
軽く手を挙げて応えるとツルハシ片手にこちらに走ってきた。え、呼んでない呼んでない。

「セリちゃん!就職決まった!?」

おい、やめろ。
子供特有の純粋かつ容赦ない発言に私の心が抉れる。予想外のタイミングで攻撃された。
そうだ、そういえばハンター試験を受けに行くことを「就活しに行く」って伝えていたんだ。
あの時は就活の意味わかって無さそうだったのに、しっかり理解しちゃってド直球で聞いてきたじゃん。誰だよこの子に就活の意味教えたの。
「なんの仕事するの?」と聞いてくるちびっ子のキラキラした目が直視できない。

「いや、それが…あのね、うん……あの……ちょっと御社の定める基本理念が私の考えていたものとは違いましたって言うか…」
「?」
「あの、今回はちょっと縁がなかったというか……試験官と他の受験生が悪かったというか…」
「就職決まらなかったの?」
「うん、まぁ、そうともいうね…」
「ふーん、じゃあセリちゃんもう働かないの?」
「違う!」

思っていたよりも大きな声が出た。
働くよ。別に今回の試験がダメだったからって働かないわけじゃない。
働く気力はあるし、その気になれば仕事はあるんだよ。借金返さなきゃいけないし。

……そうだ、そうだよ、今回の試験に落ちたからなんだ?三回目だからなんだ?191番の言う通り、次の試験に受かればいいだけだ。
落ち込んでる暇なんてないだろ。早くお金返さなきゃ。

「就活、しなきゃ」

ほぼ無意識にそう呟いてその場を離れる。背後から「ばいばーい!」と元気な声が聞こえた。
なんか色々わざとやってないよなあの麦わらのル○ィ。

[pumps]