生きねば
「セリさんも彼らとお知り合いでしたか」
「ええ、ハンター試験でちょっと」

と言うと「そうですか」とだけ返す守衛さんことゼブロさん。合否を聞かないでくれたのは助かった。
ゼブロさんが出してくれたお茶を啜ると目の前に座るレオリオが「片手で持ちやがった…」と呟いた。片手持ちは下品だったか、と慌てて左手を底に当てるとその横のクラピカに微妙な顔をされた。なんだお前ら。

そして一人お誕生日席に座るゴンはやっぱり二人と同じベストを着ていて、最後に別れた時と同じような何とも言えない表情で私を見ていた。

私達が今いるのは試しの門付近にあるゼブロさん達使用人用の家だ。
試しの門の前で予想外の再会をした後、レオリオのめんどくさい勘違いをゼブロさんが解いてくれ、そのままこの家に案内された。
本当は来る気はなかったのだが、レオリオが「ゴンとクラピカもいるぜ!」とか言って引っ張るので断るに断れなかった。

三人はキルアに会いに来たらしい。
キルアは最終試験でイルミと再会、そのまま家に帰ってしまったんだとか。
家出中だったもんね、と言うとキルアが家に戻ったのは本人の意思ではないとかなんとか。イルミがどうとか言ってとりあえず三人とも怒ってた。
で、まぁ、会いに来たわけだけど、三人の話によるとゾルディック家って普通に訪ねても「主人を外敵から守るため〜」とかで執事さん達に止められて入れてもらえないらしい。えっ、そんな防犯意識高かったんだ。

「私結構ひょいひょい入れるけど…」
「え、門を開けなくても?」
「いや?門は開けるよ」

そう言うと「すごいね、セリさん」とゴンが驚く。

「だからそのスリッパでも普通に歩けたんだね」
「このスリッパなんかあるの?」
「…本気でわからねェのか?片方20sあるんだぜ、それ」

頬杖をついたレオリオが言う。表情と声色が完全に引いている。
ちなみに、とクラピカが私の手元を指差した。

「貴女が片手で持ち上げたその湯呑みも20sだ」
「……………」

無言で湯呑みを置いた。
いつの間に20sでは重さを感じないほどのゴリラになったんだ私は…。
三人からの視線に耐えられなくなっている私の横で「それだけじゃありませんよ」とゼブロさんが20sの湯呑みを片手に口を開いた。

「セリさんが今座っているその椅子は60s、家のドアも片方200sあります。ここの家具はみんなそうです。我々使用人の訓練用でしてね」

試しの門が開けられなくなったらクビですからねぇ、とゼブロさんは続ける。
そうだったのか、家に入る時はレオリオがドアを開けてくれたし、この椅子もクラピカが物凄く自然に引いて座らせてくれたので分からなかった。
そういえば二人は私が結構力持ちだって知らないんだっけ。つまり気を遣ってくれたわけだ。多分もう二度とやってくれないだろうけど。

「あの試しの門を開けるために、二週間ほど前から彼らはここで過ごしているんです」
「へぇ」

ちなみに今三人が着ている変わったベストは150sあるらしい。これを常に着た状態でこんな家で過ごしていれば力もつくか。
別にそんなことしなくてもゼブロさんが開けられるみたいだから開けてもらえば?と思ったが、口にはしなかった。
なんか自分の力で入りたい、ってやつだろきっと。


「それで、セリは結局何をしにここへ?」

クラピカのその言葉に止まる。
えーっと…なんだっけ。一度天井を見上げ、また戻し、足元に視線をやると自分の荷物が目に入った。

「あ、スズシロさんからのお届け物が…」

言いながら荷物を手元に引き寄せ、中身を確認する。
なんと!潰れたお菓子の箱が出てきた!

「……………………」
「……………………」
「……………………」
「………セリさん、それ…」
「……………………」

皆の視線を無視して箱を仕舞う。
ふ、と口角を上げて立ち上がった。

「帰るわ」
「オイ、待て」

レオリオの声なんて聞こえなかった。私は見ちゃいけないものを見たんだ…。

「でもそれ渡さないとスズシロさん?って人が困るんじゃないの?」
「いや、そんなことないって多分。私に任せた時点で大したものじゃないって言ってるようなもんだもん」
「お前それ自分で言ってて虚しくなんねぇか?」

そうは言っても事実だし。本当に渡さなきゃいけない大切なものなら、寄り道しまくりでいつゾルディック家に辿り着くかわからない私ではなくナズナさんに任せるはずだ。
そもそもこれどうみてもなんかのお土産じゃん。絶対どうでも良いって。

「本当にもう…帰るわ…」
「本気でなかったことにする気かよ…」
「あ、…待って、セリさん」

心なしか入ってきた時よりも重く感じるスリッパを履いた足を動かし、玄関に向かおうとするとゴンに呼び止められた。
なに、と振り向くとゴンは思っていたよりも真剣な顔をしていた。

「俺、セリさんに聞きたいことがあるんだ」

はて、なんだろう。
レオリオとクラピカに視線をやるが二人も心当たりがないらしく、不思議そうな顔をしている。
首を傾げながら続きを促すとゴンは真っ直ぐこっちを見つめながら言った。

「セリさんってヒソカと仲良いの?」

どこをどう見てそう判断したんだこの子。

[pumps]