生きねば
どういうことだ、とクラピカとレオリオから視線を向けられるが、そんなもんゴンに聞け。
仲良いっていうか、因縁は確かにあるけど。

「いや、そもそもお前ヒソカと知り合いだったのか?」

そう、まずそこからだと思うの。仲良いとかの前にそこ。レオリオの尤もな疑問にクラピカも頷く。
私が試験中にヒソカさんと喋ったのってほんのちょっとだよね?その姿を三人に見られた覚えはない。だから私とヒソカさんの関係など知らないはずだ。

多分、レオリオとクラピカはヒソカさんを“よくわかんないけど危険な奴”と認識しているだろう。ほら、一次試験の偽試験官事件とか皆の前で目立ってたし。
きっと私のヒソカさんへの認識も自分達と同じだと思っている。なのにゴンはどうなってるのかな。
レオリオの問いには答えず、ゴンに向かって言う。

「そう思った根拠を述べよ」
「だってセリさん、四次試験のときにヒソカと焚き火囲んで踊ろうって…」
「さも私が提案したかのような言い方はやめよう」

あの人に対してそんなフレンドリーじゃないから。しかし四次試験、四次試験?あの時この子近くにいたの?
気配に鈍い私はともかく、ヒソカさんもイルミも特に何も言わなかった。あの二人にも気付かれなかったってことか?なにそれ気配絶ち上手すぎない?
流石主人公…と感心しているとゴンは一瞬目を伏せてから話し出した。

「俺、四次試験ではヒソカがターゲットだったでしょ?だから隠れて様子を窺ってたんだ。そしたらギタラクルが来て」
「はい質問!ギタラクルって誰ですか?」
「は?キルアの兄貴だろ」

レオリオが何言ってんだコイツといった顔で私を見た。
ああ、なるほど針山擬人化さんの時のイルミの偽名か。本気で誰かわからなかった。

「ごめん、解決した。続けて」
「そう?えっと、ギタラクルが来てからセリさんが出てきて三人で話し始めて…」
「焚き火に繋がると…」
「いや、だから私じゃないよ?それ言ったの私じゃないから」

皆の、特にクラピカの目が怖い。アレは私から何か聞き出そうとしている目だ。
先に言われてしまう前にこの胸くそ悪い誤解をなんとかしようと早口で捲し立てる。

「別に知り合いとか友達とかそんな深い関係じゃないから誤解しないで本当に。ヒソカさんには道端で通帳拾ってもらって喫茶店でアイスティーとパフェおごって貰ってバイト先で首切られて入院中に椿の花束プレゼントされただけだから。…あれなんか思っていたよりも沢山エピソードがある」
「とりあえず仲良くはないにしろ知り合いであることに違いはねぇってことだよな」
「いや、違う…くないけど私は認めないんで」

よく考えたらあの人全ての元凶だからね?今の私の不幸(借金)はあの人のせいだからね?

「つまり、お互い顔見知りではあるがセリはヒソカのことを嫌っていて、親交を深めるつもりもないということか」
「そう、そういうこと。なんか色々思い出したら腹立ってきた…」

残っていたお茶を一気飲みし、勢いに任せて湯呑みをテーブルに置くと大きな音が響いた。
それを見ていたゴンはどうやらまだ質問があるらしく「じゃあさ」と口を開いた。

「ギタラクルとは仲良いの?」
「今度はそっち?うーん…仲良いって言い方は違和感あるけど付き合い長いからそれなりに、かな」
「…セリさん、ギタラクルについてどう思う?」

まさかの修学旅行の女子会話リターンズ。
針山擬人化時の顔?それとも素顔?え、えーっとどっちも私の好みではないかなぁ?と言う前にゴンが言葉を紡ぐ。

「というよりキルアの家についてセリさんはどう思ってるのかな、って」

そう言ったゴンの表情は先程よりも真剣そうに見えた。
…イルミがなんか言ったんだろうな。すごい憎々しげに呼び捨てにされてるもん。さん付けの私より下だよ。しかも偽名。
イルミについて色々思うところがあるらしいゴンが、一体私に何を期待しているのか分からない。
口を開く前に然り気無くゼブロさんの方に視線をやる。チクられたりしないよな…と心配しながら私は私の意見を述べた。

「教育方法とか正直色々頭おかしいと思うよ?でも借りがあるし、いくら親交があっても結局私は部外者だから別にこの家の方針に楯突く気はないけど」

楯突いたら多分死ぬし、ハギ兄さんにも余所の家のルールに口出すなって言われちゃったからなぁ。
キルアは見てて可哀想だけど私には何もできないし、特にする気もない。いのちだいじに。

「そっか、ありがとう」

ゴンは短くそう言った。
罵倒されることはなくともそんなの変だよ!みたいに何か言われるかと思ったので少しだけ驚いた。
周りの様子を窺うとレオリオは片眉を上げていて、クラピカは口許に手をやっていたため表情が読み取れず、ゼブロさんはどこか寂しそうな顔をしていた。意外と冷たい奴だと思われただろうか。

自分のせいだけどなんか一気に居心地が悪くなった。もうこの辺でお暇しよう。

「あの、私そろそろ…」
「オイ、知らねぇ靴あるけど誰か来てんのか?」

失礼します、と言う前に聞いたことのない男性の声が後ろからした。立ち上がった私ではなく、その声の主に視線が集まる。

「ん?」

目があった。

***

「セリさん、手伝うよ!」
「そう?ありがとう」

お礼を言えばゴンは笑顔でうん!と言って隣に並んだ。
流しに放置されていた皿をがちゃがちゃ音を鳴らしながら雑に片付ける私とは対称的に、ゴンは慣れた手つきで丁寧に片付けていく。

あのぶっちゃけトークから三時間。私は未だにこの家から出ることなく絶賛お片付け中である。

何故ならシークアントさんというゼブロさんと同じくこの家で暮らす使用人の方が帰ってきたことにより、完全に帰るタイミングを逃してしまったからだ。
ゼブロさんとは違い、彼は私のことを知らなかったので説明に色々手間取った。
だって私とゾルディック家の関係についてから始まるんだもん。超めんどくさい。復習用のビデオとか作っといた方がいい。
それで色々話している内に私もゴン達と一緒に屋敷まで行く、みたいな話になってしまったのだ。
え、ええ?いや、まぁ、いいけど。多分ゴン達だけ行くよりも私が一緒の方がキルアに会いやすい気もするし。お届けもの潰しちゃったんだけど渡さなきゃダメかな。

ちなみにレオリオはもう一の門が開けられるらしい。念なしでそれは本当にすごいと思う。
ゴンとクラピカももう少しで開けられるようになるらしいので近い内にここを出ることになるだろう。
それまでは私も皆のお手伝いをして過ごすことになった。気まずいかと思ったが意外にもみんな普通に話してくれる。

「セリさんはキルアと仲良しなんだね」
「え?急にどうしたの」
「試験の時にキルア、セリさんの話たくさんしてたよ。だからセリさんのこと大好きなんだなー、って」
「へぇ…」

可愛いじゃないの。
キルアを思い浮かべると自然と顔がにやけた。

「キルア言ってたよ。セリさんは頭は悪いし、綺麗でもないし、優しくもないし、鬱陶しいけどそれなりに面白いって!」
「よし!あとでシバく」

ただのデレじゃなかった。

[pumps]