怒りのデスロード
厳正なるくじ引きの結果、私達は最初にスタートすることができた。
おじいさんは全員同じくらいの強さと言ったが、ほぼ間違いなく私達が最弱なので1番でよかったと思う。
そう、それはいいんだけど…。

「ちょっと待ってよシャル!」

いきなりシャルに置いていかれました。
おかしい、あいつ足速すぎない?基礎しか出来ないはずだから、凝で強化しているわけじゃないだろう。となると純粋に念無しで足が速いってこと?
ちょ、私だって毎日マラソンして大分速くなってきたのに、それで追いつけないほど速いってどんな鍛え方してるんだ。

「はぁ、はぁ…やばい疲れた………速い…」

さっきまで米粒程度に見えていたシャルの背中が完全に見えなくなり、もう無理だと思って足を止めた。
転生前と比べれば随分体力はついたが、全力疾走を続けていれば流石に疲れる。とりあえず少しでも回復しようと絶をすることにした。
正確な時間はわからないが、多分スタートしてから5分以上は経っていると思う。
今のところ誰かが来る気配はない………って、みんな絶しながら移動するんだから当たり前か。でも今は私も絶してるし、すぐに見つかることは………

「セリ、遅いよ。後ろ向いたら居ないからびっくりしたじゃん!」

シャルが戻ってきた。
あれ?私、絶してるんだけどおかしいな。すごい普通に見つかったぞ!

「セリ、今、絶してるよね?ちょっと見つけづらかったよ」
「え、ちょっと?」
「うん。絶もそんなに上手くないんだね。これじゃ、見つかるのは時間の問題だなぁ…」

あ、すいません…。
でもさりげなく『も』とか使うな。仕方ない、と言うとシャルは絶をした。苦手とか言ってたわりに結構上手い。

「もうちょっと進む予定だったけどセリがキツそうだし、この辺でいっか。そこのゴミ山の裏で作戦を立てよう」
「…えっと、足手まといでごめん…」
「うん?別にいいよ。その分戦闘になったら頑張ってね。期待はしてないけど」

そんな笑いながら言わないでくれ。
2人とも絶をした状態で移動し、ゴミ山の陰に隠れる。積み重なったゴミは、上にいくほど不安定な状態で少しでも衝撃を与えたら落ちてきそうだ。

「シャル、他のみんなが何が得意かわかる?特にどのくらい絶が上手いか」

そう問い掛けるとシャルは空を仰ぎ、少し困ったような顔をした。

「んー、…一緒に修行してるとはいえ、お互い何が得意とかわざわざ言わないし、俺も詳しくは知らないんだよね」

えー、仲間なんだからもっとお互いの事よく知れよ。まぁ確かに仲良しグループって感じではないけど。
シャルはしばらく考え込んだ後、俺がわかる範囲では…と話し出した。

「今のところ、絶が苦手そうなのはウボォーと…マチかな?フィンクスなんかは絶も練もある程度上手いから強敵かも。あと、練が得意なのはマチとフランクリン。他はみんな同じくらいのレベルじゃない?」
「ふむふむ…」

シャルが教えてくれた情報を近くに転がっていた鉄パイプを使って地面にグラフのようなものを描き簡単にまとめる。鉄パイプって使いづらいな。
まず、絶が上手いのがクロパク組、フィンクス。普通なのがノブナガ、フェイタン、フランクリン。ちょっと苦手なのがウボォーさんとマッチー、あと私とシャル。
次に練が得意なのがフランクリン、フィンクス、マッチー。他は私以外みんな同じくらいか。
とりあえず、私が何やっても最下位なのはよくわかった。
地面に描かれた簡易グラフを見てシャルが「うわ…読みにくい」と言った後、さりげなく絶・練ともに上位に位置するフィンクスの名前を見て眉を寄せた。

「フェイタンとフィンクス組は強敵だなぁ。クロロとパクはまず見つからないだろうし…」
「でも他2チームもそれぞれ練が得意な人がいるよね」
「…………」

わかってたけど勝てそうなチームが一つもない。

普通に戦ったら多分誰にも勝てないことが改めてわかり「ど、どうしようかー」となった私達は、とりあえず近くにあった廃墟に隠れることにした。
小さい窓が多く、外から光が入るため廃墟にしては結構明るい。あ〜あ、この間に他チームが潰し合いしてくれないかなぁ。
とか思っていたら、窓の一つから外の様子を窺っていたシャルが「あれ?」と声を出した。

「クロロ達が…」
「えっ、何々?」

私も近くに寄って窓の外を見る。
すると、遠くの方にクロロとパクノダが見えた。絶をしていない。なんでだろう…と思ったと同時に驚いた。
2人の近くにフィンクスとフェイタンが居たのだ。

「ええ?何、どういう状況?」
「わからないけど…考えられる可能性としては」

@今から戦う。
A戦い終わりどちらかが負けを認めた。
B暴力はよくないよ、とクロロ組が交渉中。

「パクは戦うの苦手だし、クロロ達よりフィンクス達のが少し有利。かといってクロロもパクも簡単に負けを認めないだろうから、Bが一番可能性高そうだなぁ」
「えー、でも交渉なんて聞くの?」
「聞かせるのがクロロだよ」

まぁ、まだわからないけど、とシャルは続ける。クロロは周囲から一目置かれているようだ。
しばらくして、2チームは移動を始めた。お互い攻撃を仕掛ける様子はない。

「交渉成立してAってこと?」
「それか同盟を組んだのかも」

それだけはやめてほしい。
クロロ達の姿が見えなくなった後、私達はしばらく此処に隠れていることにした。
シャルはこれ以上此処にいるのはつまらない、と不服そうだったが「隠れ続ければ絶の向上に繋がる」とかそれっぽい事を言ったら納得してくれた。
大体これは『かくれんぼ』なんだから隠れているべきだろ。なんでそんな外に出たがるんだ、隠れろよ。

と思っていたのだが…ナズナさんがおじいさんに私を任せたのって、ひょっとして格闘とか出来るようにするためだったんだろうか。
年の近い子供らと共に実戦をすることで経験を積んで覚えろみたいな。だとしたら、隠れていないで捜しに行って戦った方がいいのか?
一応修行だから殺されることはないだろうし、負けたとしても戦闘の経験値が貯まるわけだし。
でもなぁ、ちょっと実力にまだ差がありすぎるっていうか、手加減してくれなさそうな奴が多いっていうか……、ね。

外に行くべきか否か。
一人で迷っていたら私の心を読んだかのようにシャルが、やっぱり(つまらないから)外に行こう!と言い出した。やる気満々で困る。
そんな感じで散々迷った後、よし!これも修行だ全員ぶっ飛ばしてやる!と意気込んで外に出たのが間違いだった。

「っ!」
「セリ!?」

外に出てすぐのことだ。突然、背中に強い衝撃を受けた。そのまま私の身体は面白いくらいに軽々と吹っ飛ぶ。
そして顔面からゴミ山に突っ込んだ。

なんだ今のは?背中に何かが当たった?いや、当たったなんてものじゃなかった。ゴミに打ち付けた全身が痛い。
ゴミに突っ込む直前、慌てて絶から纏に切り替えたが間に合わなかったようだ。私は狙撃されたのだろうか?今まで実際に撃たれたことがないから断言はできないが…。
ゴミに埋もれた状態のまま恐る恐る背中を触ってみると血がついた。もう一度触れてみると随分広い範囲に怪我を負っていることに気がつく。
銃で一発だけ撃たれたのなら、ここまで広い範囲に傷を負うことはないのでは?私の体に弾が貫通したような痕もない。

となると一体何が……、と痛みを我慢しゴミを掻き分けて顔を出す。

「セリ!大丈夫!?」

遠くからシャルが駆け寄ってくるのが見えた。と同時に別方向から二つの人影が視界に入り、声が聞こえる。

「オイオイ、今のやり過ぎじゃねぇか?あいつ吹っ飛んだぞ」
「一応手加減したんだがな。…あそこまで吹っ飛ぶとは思わなかった」
「あいつまだ小さいんだぜ?セリー!大丈夫かぁー?」
「ウボォー達……って、今のフランクリンがやったの!?」

マジかよ。

[pumps]