生きねば
四人は本当にすぐに出発してしまった。
あわよくば一緒に連れて行ってもらおうと思っていたのに「お届けものあるんでしょ?じゃあねー!」と軽く別れを告げられ、どうすることもできず、一時間後に迎えに来たイルミによって私は屋敷へ行くことになった。
なんというか、主人公組との友情の薄さを実感した。



「セリ、キルには会った?」

夜になって執事さんのお話通りに毒なしの食事をご馳走になっていると隣のイルミが不意にそう尋ねてきた。
嘘をつく意味はないので素直に「うん」と頷く。

「なにか言ってた?」
「後藤さんはゴトーさんだから間違えるな、って言ってた」
「他には?」
「他…」

キキョウさんとシルバさんの様子を窺う。
家を出ることに関しては当然知っているのだろうけど、二人の前では言いにくい。
口ごもっているとイルミが「あのさ」とナイフとフォークを器用に扱いながら言った。

「キル、俺について何か言ってた?」
「いや、何も。なんで?」
「別に」
「?キルアはいつもイルミのことなんて話さないよ。名前も出さないもん」
「………………」
「あっ、あ、ちょ…それ私の肉……」
「ごめん、残してるから嫌いなのかと」
「お皿きて二分しか経ってないのによく残してるなんて判断できたね」

私もうイルミの隣の席やだ。
正面に座るミルキに心の中でそう訴えかけるが、当然ながら伝わらず無視される。無表情で私から奪った肉を咀嚼するイルミはどうも機嫌が悪いらしい。
発言力のあるゼノさんとマハさんのじいちゃん組がいないので、今度はシルバさんとキキョウさんの方を向いて念じる。
すると二人とも私の視線に気が付き、こちらを見た。だが、そこは一筋縄ではいかないゾルディック。
キュイーン!と私に焦点を合わせたキキョウさんがハッ!とした後、首を傾げるシルバさんに向かって全く別の方向で話を進め出した。

「あなた、あなた!大変よ。すっかり忘れていたけれど、今日はセリちゃんが主役なのよ」
「何?」
「あー、そうそう。親父に伝え忘れてたけど、これ不合格を祝う会なんだ」
「不合格?」
「もう本当、私ったら嫌だわ。何も言わずにお食事始めちゃって!あなた、どうしましょ」
「どうって、そうだな。とりあえず遅くなってしまったが挨拶を…」
「挨拶……?す、するんですか?誰が?」
「セリが」
「私が!」

全員の目が私に向けられる。
自分の不合格を祝う会で挨拶させられるとか何の罰ゲーム?こいつら悪魔か。
シルバさんとかどう見ても状況把握できてないじゃん。絶対何となくで私に挨拶させてるよね。
イルミに結局何の話なのか聞いているシルバさんを恨めしく思う。それちゃんと聞いてから話進めて。
しかし嫌ですとか言える空気ではないので一度咳払いをする。

「本日は…お日柄もよく…」
「あっ」
「まぁ、カルトちゃん大丈夫?」
「これで拭きなよ」
「新しいものを持ってこさせた方がいいだろう」
「あっ、パパ俺もお代わり」
「その……………私のために皆様…」
「ミルは自分で行きなよ」
「俺動きたくな…、行ってくる」
「あら嫌だカルトちゃん、着物の裾にソースがついてるわ!着替えましょう!」
「…………………」

いや、聞けよお前ら。

***

「挨拶しろ、って挨拶しろって言ったのに…」
「すればよかったじゃん」
「出来ないよあんな状況で。元々したくなかったし」
「え、なんで?」
「え、本気で言ってる?」

真顔で聞いてきたイルミに引いた。
ここまで他人の気持ちが分からなくて日常生活に支障はでないのか。……でないか。
このくらい疎い方がいいのかもしれない。じゃなきゃ暗殺なんてやっていられないだろう。

「したくないなら、したくないってハッキリ言えば良かったじゃん。ママは言わなきゃわかんないぜ」

ミルキが言う。いや、そこは察して欲しかった。
着替え終わったらしいカルトが何故か私の隣の椅子を引いて座る。
シルバさんとキキョウさんはいなくなり、子供達だけになったので私もつい口を滑らせる。

「それもそうなんだけどさ、私はこの家の子じゃないし?」

先程運ばれてきたデザートのアイスクリームを一口。

「そんな簡たガハァッ!!!」
「え?なっ、何どうしたの!?」
「ど、どくこれどく」

アイスクリームを指差しながら吐血する私にカルトは分かりやすく困惑していた。
なんかめっちゃ喉痛いんだけどなにこれ吐血とかこの感覚久々。忘れてた、夕食が無事だったからゾルディックの真の恐怖忘れてた。
ガチで人殺そうとする毒入ってるぞこのアイスクリーム!気を抜いた後のデザートで殺しにかかるとかゾルディック家怖すぎるだろ。

「あれ?セリこのタイプの毒もダメなの?おかしいなー」
「イル兄軽すぎ!ちょ、解毒剤どこだよ!?」
「イル兄様、このままだとセリが死んじゃうよ」

私を見て焦るミルキや眉を寄せるカルトとは裏腹に一人涼しい顔をしているイルミに殺意が湧く。
待て、アイスクリームに毒入れたのお前か?なんだおかしいなー、って。

ミルキは執事さんに解毒剤を持ってくるように言うと吐血し続ける私を見て、居てもたってもいられなくなったのかコフー、と鼻息荒く席を立ち食堂の外へ向かった。
いい子に育ってくれて姉さんは嬉しいよ。体型は育ち過ぎだけど。

もう一人、心配しているのかわからないがとりあえず困惑しているカルトは私の顔を覗き込む。
そして徐に私の背中を思いっきりバシンッ!と叩いた。しかも一回だけじゃなく何度も。オイなに勝手に除霊始めてんだお前。

カルトに背を叩かれる度にごふっ!と血を撒き散らす私を特に表情も変えずに見つめるイルミ。
とりあえず水飲みたい。

「み、みずを…」
「水?カルトこの水飲んでないよね、ちょうだい。ハイ、セリ」

イルミはカルトの近くに置いてあった水を手に取り私に差し出してきた。
その水を一気飲みすると同時にカルトがあっ、と言う声が聞こえた。

「イル兄様その水毒入り…」
「ガッファァアッ!!!」
「セリ姉!解毒ざ…なんか血の量増えてる!!」

お前ら私を助ける気ないだろ。

[pumps]