ネオン
やっぱりこの仕事向いてないかも。

人の皮膚で出来た恐ろしい、所謂人革製品である首輪を装着されたクロロ(犬)に市販品のリードをつけて散歩をしながら思った。
予想通りクロロ(犬)の世話は私達侍女がすることになっていた。別にお嬢様が世話を丸投げしてきたとかではない。

むしろクロロ(犬)と散歩に行きたがっていたのだが、一人で外に出すわけにはいかないので当然護衛もついて行くことになる。
本人は犬の散歩にまでついてきてほしくないと言うし、護衛側からしても正直そんなことまで一々行ってられるかよって感じみたいだ。ダルツォルネさんから無言でリードを渡された時に気が付いた。いや、気持ちは分かるけども。
以来、交代制で侍女が朝夕に散歩へ行くこととなり、私は一番したっぱなので夕方の散歩を毎日担当することになった。

一際目立つクロロ(犬)の首輪を見て、無邪気に笑うお嬢様の顔が浮かぶ。だめ、もうお嬢様怖い。
あのコレクション部屋ですっかり彼女を見る目が変わってしまった。人の趣味をとやかく言うつもりはなかったが、流石に…ね…。
人体収集家ってなんだよ。やはりマフィアなんて特殊な環境下にいるからそうなったのか。

最低一年って思ってたけどもう辞めちゃおうかな。
そんな考えまで浮かんできた。人の世話は向いてないし、お嬢様は怖いし。でも直接何かされた訳じゃないしな〜。
この程度で甘いだろうか?真剣に悩みながらクロロ(犬)を連れてここ数日間で確立された散歩コースの公園に入る。
この辺りじゃ一番大きな公園で、私みたいに散歩に来る人以外にも運動をする人、ベンチに座ってお喋りする人達など様々だ。
夕方といっても日が長く、明るいのでこの時間でもまだまだ結構な人がいる。

たくさん並んでいるベンチの側を歩いていると先の方で女の子が座っているのが見えた。
本を読んでいたようだが、読み終わったのかパタンと本を閉じた。そしてそのままぼーっとする。
余韻に浸ってるんだよね、多分。そう思って特に気にせず彼女の前を通りかかる。

「あっ」
「え?」

突然声が聞こえて、反射的に立ち止まる。ベンチに座っている女の子の声だったようで、彼女は穴が開きそうなくらい私をじっ、と見つめていた。え、何?
ぱち、と目が合う。大きな眼鏡をかけた黒髪の可愛い子。年は私と同じか少し下だろうか。黒いハイネックに逆十字のネックレスをつけていた。

あれ?なんかどこかで見たことあるぞこの子。

こちらもじっ、と見つめ返す。知り合いではない…はずだ。でも、何故か見覚えがある。どこで見たんだっけ?
思い出そうと必死に頭を働かせるが、どうも出てきそうにない。
首を傾げる私を上から下までじっくり眺めると彼女もまた不思議そうな顔をした。

「なに?」
「えっ、何って…」
「なんで止まったの?」

えー!?
そっちが「あっ」とか言ったんじゃん。私のことすごい見てたじゃん。
そう言いたくなったのだが、もしかして、私のことじゃなかったのかもという考えが浮かんできた。
彼女は別の何かに気付いてそれを見ていたのかもかれない。え、恥ずかしい。

自分のことだと勝手に勘違いして立ち止まってしまうとは。あは、は…と笑ってごまかす。完全に引き攣ってるけど。
この状況どうすればいいんだ?と困っていると彼女はゆっくりと私からクロロ(犬)に視線を移し、再び口を開く。

「それ」

徐にクロロ(犬)の首輪を指差した。話題変わるっぽい。

「変な首輪だね」

結構はっきり言うタイプだな。
普通初対面でこんなことを言われたら嫌な気持ちになるかもしれないが、全く否定できないし、私自身この首輪を変というか気持ち悪いと思っているので「あ、ああ…」と曖昧に笑って返した。

「皮膚?」
「わかるの…?」
「んー、なんとなく。質感がそれっぽい」

ええ?質感なんて知らねぇよ。
確かに見た目は変だし、明らかに普通のものではなさそうだが、大体の人はこれが皮膚とまでは分からないんじゃないか。
少なくとも実際に人革製品を見たことがある人以外は、皮膚で出来てるなんて思い付きもしないだろう。
何者だ?と訝しむ。表情や声色が殆ど変化しないので何を考えているのかさっぱり分からないし、明らかに見た目は普通の女の子っぽいのにもしかしてあっち方面に詳しい人なのか。お嬢様の例があるからあり得なくはない。

「お姉さん、そういうコレクター?」
「いえ、まさか」
「じゃあなんで?」
「私じゃなくて雇い主がそういうコレクターだからだよ」
「ふぅん」

なんかどうでも良さそう。
自分から聞いておいてこういう反応をする人が私の周りに二人は確実にいるが、女の子ではいなかった。新キャラ登場だね。
その後、一言二言話してすぐに別れた。ちょっと変わった子だったな、と思いながら屋敷へ戻る。

絶対にどこかで見たことがあるはずなんだけど、結局わからなかった。この日は。

[pumps]