ネオン
シャルが私をどう思ってるか、本人に聞くのが一番良いんだけどそんな勇気はなかったし、この話にはもう触れたくなかったのでシャルには電話もメールもしなかった。
ただ明日になれば高確率でまたシズクちゃんに会うことになり、もしかしたらシャルの事について何か言われるかもしれない。
そうなったらちょっと面倒だな、と憂鬱な気分で眠りについた。


しかし翌日、その問題はあっさりと解決した。
ネオンお嬢様と一緒に泊まり掛けで出掛けることになったからだ。エリザさんが以前教えてくれた噂の侍女&護衛過酷労働ツアーである。
内心ほっとした。シズクちゃんは忘れっぽいみたいだし、何日か空けばあの話は無かったことになるだろう。私の存在も無かったことにされそうだが。


「ミュージカル楽しみだねぇ!」
「そうですね」

劇場に着き、私の隣の席で嬉しそうに話すネオンお嬢様。いやぁ、本当に普通にしてれば可愛い女の子なんだけどね、と思いながら話を合わせる。

「これが終わったらご飯でしょ?それから買い物行って〜、その後は皆でカジノ行こうよー!」
「はい、わかりました」

わくわくを隠しきれない様子で今後の予定を語るお嬢様を見て、逆隣に座ってるエリザさんがにっこり笑って頷いた。うわ〜、予定ぎっしりだ〜。
目をぱしぱしさせているとエリザさんが「頑張りましょう」的な目配せをしてきた。

ちなみに今回のお出掛けにはクロロ(犬)も一緒に連れてきたのだが、一時的に元飼い主であるスクワラさんが面倒を見ることになり、今は彼が飼っている他の犬と共に劇場の外で行儀良く待機中だ。
護衛はダルツォルネさんとトチーノさんだけが劇場内で残りの方々は外にいる。

ただ、お嬢様の両脇を固めているのは私とエリザさんなので入場前にダルツォルネさんから「何か起きた時は…わかるな?」的なことを言われた。
なら最初からダルツォルネさんが隣に座ればいいのに、と思ったが多分お嬢様が拒否したんだろう。
正直に言うと私もダルツォルネさんみたいな怖い人の隣でミュージカルなんて観たくない。彼が身内や友人なら話は別だが。

とっくにダルツォルネさんがやっているとは思うが、一応凝を使って周囲を確認する。
目に見えて怪しい人はいないようだ。むしろ凝をしてキョロキョロしてる私が一番怪しい。念能力者はすぐ怪しくなるから困るな。
とりあえずは大丈夫かな、とパンフレットを開く。有名な題目らしいが、この世界に転生してからそういったことに無縁だったので知らなかった。


***
公演終了後、一度外で待機している護衛さん達と連絡を取り、安全を確認してから劇場の外へ出た。
外にいる護衛はスクワラさんと犬達の他、この間私達侍女が乗った車を運転していた大柄の男性に頬がこけた黒髪の男性と髭面の男性の三人。いずれも念能力者だ。

ここからは食事をとるために専用車で移動するのだが、今回はお嬢様が先程の感想を言い合いたいと言うので私とエリザさんも同じ車に同乗することになった。
ダルツォルネさんやスクワラさん達は別の車に乗り込み、囲むように走るらしい。この車を運転するのは髭面の男性だった。

感想を言い合う、といってもほぼネオンお嬢様が一人で喋っているだけで私とエリザさんはくるくる変わるお嬢様の表情と声色に合わせて相槌を打つだけだ。わあ、なんて簡単なお仕事。

「ねぇ、ていうかまだ着かないの?私お腹空いた〜」

話にも飽きたのか、運転席にいる髭面の男性に向かってお嬢様が言った。
確かにもう随分長く乗っているが中々目的地に着かない。

「申し訳ありません。道が混んでいるようで…」
「見ればわかるよそんなの。なんとかなんないの?道空けさせてよ〜」

無茶言う。
お嬢様の発言に多分この場にいる全員がそう思った。言われた髭面の男性は前を見たまま「すみません」と申し訳なさそうに謝るが、心の中じゃこのガキとか思っているのかもしれない。

その後、混んでいた道を抜けたため車は順調に進み出したがここで(特に私にとって)予想外の事態が発生した。
どこで情報を得たのか分からないが、襲撃を受けたのだ。敵対しているマフィアか何かだろうか?

驚いているのは私だけで、エリザさんも含めて周りは案外冷静だった。ノストラードファミリーはかなり大きな組だし、裏社会じゃ数え切れないくらいの恨みを買っている。
こんなことは日常茶飯事…とまでは流石にいかないが、予想の範囲内なのだ。お嬢様なんか笑ってる。何この子怖い。
まあ、この時点ではまだ余裕があった。問題はここからである。

他の車に乗っていた護衛さん達が応戦している中、髭面の男性が勝手に車を動かしたのだ。銃弾の中を上手く潜り抜けて一気に加速すると皆の姿は見えなくなった。
えっ、これいいの?ダルツォルネさん達から離れちゃったけど。
単独行動は不味いんじゃ、と私が口を開く前に髭面の男性は「もう大丈夫、敵はあれで全部ですから」と言った。え、ええ?

[pumps]