レオリオとハギ
ツイてない。

けたたましく鳴り続ける火災報知器の音を聞きながらそう思った。
まさか、ヨークシンに向かう途中でホテル火災に巻き込まれるなんて。
ゴンやキルア、クラピカに会いたくて約束の日より少々早めに出たらこれだ。

「(チクショー、日頃の行いのせいか?)」

何か悪いことをした覚えはない。
あえて言うなら少し勉強をサボったことくらいか。いや、でも本当に少しだし息抜きは大切だ。

「(っと、そんなこと考えてる場合じゃねぇ!)」

周囲は大混乱で、誰もがこの状況を理解しきれていないようだった。
エレベーターには人が殺到していて扉は閉まらず、結局意味を成していない。
エレベーターがダメなら階段、と思うが広さに対して明らかに誘導灯が不足しており、どこに行けばいいのかわからない始末だ。どうなってんだよこれ。
さらに電気系統が被熱したのか突然停電し、大きな悲鳴が上がる。

イライラしながら廊下を走るとようやく非常口を見つけたが、何故か扉が開かないらしい。男達が束になって扉を開けようとしている。
手伝おうとすぐに人を掻き分けて扉の前に行く。が、びくともしない。おい、嘘だろ。
ゾルディック家で試しの門を一人で開けたことから力にはある程度自信があった。なのに目の前の扉一つ開けられないこの状況に動揺し、どっと汗が出た。動揺だけじゃない、熱い。
くそ、と何度も身体をぶつける。痛みは感じないフリをしたが、限界がある。
疲れのせいか、煙のせいか、息が苦しくなってきたところで「ちょっと」と後ろから肩を掴まれた。焦って振り返る。
視界に映ったその男の姿に息を呑む。

「邪魔」

停電で暗くてもこれだけ近ければ顔はわかる。
人形のように綺麗な造りをした男の言葉にゆっくりと身体を動かし、素直に扉の前から退いた。あれだけ騒いでいた周囲の人々も今は静かだ。
声を荒げたわけでもないのに従わざるを得ない何かがあった。黙って、というより声を出す気になれずに男の行動を見守っていると信じられない事が起きた。
誰が何をやってもびくともしなかったあの非常扉を奴はいとも容易く蹴り飛ばしたのだ。ええ…なにこれ…。

やった、と我に返った人々が声を上げてすぐに駆け出す。
出口を作った張本人は「力の入れ方へったくそだよね」と呟いて歩いていた。いや、走れよ!?

「ちょ、あんた何のんびりと…!」

そう広くないはずなのに、不思議と男の周りには空間が出来ていた。皆が奴を避けて走っているのだ。奴が出口を作ってくれたからか、美形過ぎるからか。
そんなことは関係ない、と腕を掴むと思いっきり睨まれてすぐに離してしまった。こ、こえええ!!
が、男はすぐに睨むのを止めた。

「君、どこかで見たことある顔だね」
「えっ?」

じっ、と見つめられてドキッとするがすぐに周りを確認してもう一度男の腕を掴む。
ここ階段の真ん中!俺達すげぇ邪魔だぞ!?つーか死ぬ!!
もう睨まれてもいい。とにかく急がなくては、と男を引っ張ると意外にも素直についてきた。
そのまま勢いで階段を下ると後ろから「思い出した」と声が聞こえる。

「287期の合格者だ」
「はぁ!?」
「君、試験勉強を理由に裏試験遅らせたんだってね」
「いや、何の話を…」

言いかけてハッとする。
287期とはハンター試験のことか。“裏試験”とは確か最近耳にした話だ。

こいつ、なんだ?
つい足が止まり、振り向くと結構な力で掴んでいたはずなのに簡単に手を振り払われた。
驚きと同時にぐっ、と肩を掴まれ、男が俺の前に出る。
向こうから言い出したというのに奴は「まあ、話は後でね」とまた歩き出した。いや、だから走れよ!?

[pumps]