裏試験
食事を終えた私達が次に向かったのはハギ兄さんの彼女Bの所有する家だった。
彼女Bは有名な会社の社長令嬢らしく、そこに泊めてもらうんだとか。ちなみに私達が移動に使ったあの高級車も彼女Bのものだそうだ。なんでもアリだな。

彼女Bは留守のようなので合鍵で中へ入り、ハギ兄さんが携帯を取り出して彼女へのメールを打っているのを横目に私とレオリオはソファーに腰かけた。
流石お金持ち、これは人をダメにするソファーだ。なんて思いながらレオリオと世間話をする。

「そういえばさ、キルア達は?別行動?」
「ああ。それぞれ目的が違うからな。ま、俺はただの勉強なんだが」
「ふーん、レオリオって学生?」
「今は浪人生みたいなもんだ。医大目指して勉強中だよ」
「医大!?レオリオ医者になるの!?」
「おお。言ってなかったか?」
「聞いてない…と思う!」
「そうか?わりぃな。結構顔合わしてたから言った気になってたぜ」
「いや、謝ることはないけど……」

ないけど、意外すぎてビックリした。そしてショックを受けた。
そ、そんなレオリオは私の仲間だと思ってたのに。バカ側の人間だと思ってたのに。なんだかすごく裏切られた気分だ。いや、私が勝手にバカ仲間だと思い込んでいただけか。
へぇ、頭良かったんだ…そっか、でもなんかこう、確かにインテリ臭は…そんなにしないけど見た目とか結構気を使ってるオシャレさんだもんね。スーツだし。あれ?これ関係あるのか?もう分かんなくなってきた。

「そ、それで、レオリオって念のことどのくらい知ってるの?」

なんだか辛くなったので話題を変えた。
私が教えるわけではないが気になっていたので聞いてみる。念の存在は知っているようだが、四大行とか系統についてはどうなのか。

「そもそも念が何かわかる?」
「何かって、なんか念力とか超人的パワーみたいなもんだろ」
「なるほど初期レベルだね」

ほぼ何も知らないわけだ。
別に間違ってはないけど、具体的に言うともっと難しい。
そういう人にはどうやって教えるんだろう。私は初めからある程度知識があったので特に問題は……なかった…?うん!ま、いいや!
メールを送り終わったらしいハギ兄さんがこちらに来たので後は任せようと私は口を閉じた。

「はい、じゃあ今から裏試験っぽいものするよ」

ぽいものってなんだ。
やる気を微塵も感じさせない態度のハギ兄さんを見てなんだか不安になった。やっぱりレオリオ騙されてるんじゃないかな。

「まず精孔を開かなきゃいけないんだけど、無理矢理とゆっくりどっちがいい?」

大した説明もなくいきなり出された二択に答えようのないレオリオは私の方を向く。

「よく分かんねぇが…セリはどうしたんだ?」
「えーっと、私はゆっくりの方かな…?座禅とかして半年くらいかけて開いたけど」
「えっ、半年って君、そんな才能なかったんだ…」
「何でハギ兄さん引いてんの?」
「待て!待て待て!その精孔ってヤツ開くのに半年もかかんのか!?」
「いや?これは個人差があるから…」
「うん、セリちゃんが絶望的なだけで才能あれば一週間くらいで開くよ」
「一週間!?いや、それはちょっと…」
「何?用事でもあるの?」

参ったな、と頭を抱えるレオリオにそう聞けば、9月1日までにヨークシンシティへ行かなければならないらしい。

「1日から暫くヨークシンに滞在した後、また国に帰って受験勉強する予定だ。だから、できればそれまでに修得してぇんだが」

それは無理じゃないか?念は一朝一夕で修得出来るものじゃない。使いこなすためにはそれこそ何年もかけて修行をするのだ。
口には出さなかった。きっとハギ兄さんもそう思ってて、ちゃんと言ってくれるだろうから。

「まあ、9月1日までに修得出来なくもないよ。覚悟さえあればね」
「え?」

だからハギ兄さんの言葉に私が不安を強くしたのは言うまでもない。
すごい、なんかめっちゃ嘘臭いぞ。これから詐欺始まるんじゃないか。それとも私の知らない最短コースみたいなものが存在するのか?絶対正規じゃないと思うけど。

そんな私の胸中など一切知らずに、覚悟はある、と答えるレオリオの顔は真剣そのものだった。
それを見てハギ兄さんは「ふーん…」と面白くなさそうに呟くとレオリオにソファーから立ち上がるよう促し、その真正面に移動する。そして人差し指を一本立てた。

「じゃあ、精孔は無理矢理開けよう。99%死ぬけど覚悟あるから大丈夫だよね」
「えっ」
「!?ちょ、ハギ兄さん、やめた方が」
「ぐぁっ!!」
「ごめんもうやっちゃった」
「早い!!!」

人差し指で軽く触れられただけなのにレオリオは勢いよくソファーに倒れ込んだ。普通に触れただけならこんなのあり得ない。ということは、ハギ兄さんは念を使ったのだ。
非念能力者相手に!?それ死んだよね!?どうしようメインキャラ殺しちゃった!

「どうしよ、どうする…!」
「君さぁ、凝も使えないの?」

おろおろとハギ兄さんの腕を掴んで今後について考えていると呆れたような声で言われた。
数秒かけて意味を理解し、凝を使うとレオリオの身体全体からオーラが異常な勢いで溢れ出ていた。同時にレオリオが身体を起こす。
よかった!生きてた!けどこのままだと多分死ぬ!

「うおおお!?なんだこれ!やばくねーか!?」
「やばいよ」
「やばいね!!」
「どうすりゃいい!?」
「纏うんだよ」
「纏ってみよう!!」
「なんだそれ!?」

だめだ、私もハギ兄さんも明らかに教えるの向いてない!!!
お願い死なないでレオリオ!今倒れたらゴンやキルア、クラピカはどうなっちゃうの!?オーラはまだ残ってる!ここを耐えれば生き残れるんだから!
次回「レオリオ死す」デュエルスタンバイ!

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