裏試験
結論から言うとレオリオは死ななかった。でもやっぱり騙されてた。


「はい、リラックスして。呼吸大切だよ」
「そうなんスか…呼吸って?」
「ほらあれ。ラマーズ法」

出産始まったな。
大の男二人が何をしてるんだ。私は纏の修行でラマーズ法なんて使った覚えないぞ。
もう明らかに遊ばれている。素直にひっひっふー、とかやってるレオリオに同情した。多分それ効果ない。

一週間足らずで念を覚えることができる、という話は嘘ではなかった。うん、嘘ではない。嘘ではないけど、でもそれは念の“基礎”の“纏”を教えてもらえるだけですよって話だった。
この話の一番の問題はレオリオが纏=念の全てだと思い込んでいてハギ兄さんがその誤解を一切解く気がないということだ。これは酷い。
ハギ兄さんって何?新人潰しなの?と聞けば返ってきたのがこちら。

「僕は代理だからこれで良いの。続きは別の奴が教えるよ」

どうやらレオリオに念を教えてあげる“指導役”の方が他にいるらしい。ハギ兄さんは偶然レオリオに出会い、時間もあったので暇潰しのつもりで本来の指導役が来るまで教えられるところまで教えてあげようとしたのだ。
ちなみに指導役の方からちゃんと許可は貰っている。

「そうだとしてもレオリオに言ってあげなよ。後で真実知って『念ってこれじゃねーのか!?』ってなったら可哀想だって」
「ええ?いいよ、別に。あんな嘘臭い話に乗る方も悪いって」

自分がしてたことの自覚は一応あるのか。いや、確かにレオリオがハギ兄さんを簡単に信じてしまったのはどうかと思うけど、あれは殆ど吊り橋効果みたいなもんだから一概には責められない。
普段の彼ならそんな簡単に信じないはずだ。うまい話には裏がある、ということをきっと私よりもよく分かってると思う。なんかそういう顔してるもん。

色々と状況が悪かったのだと不憫に思ったが、私から本当のことを話すつもりはなかった。
別に精孔開けて2日しか経ってないのに早くも纏が形になっていて「なんだよ一般人みたいな顔してやっぱり才能あるじゃん」と醜い嫉妬をしたからじゃない。イラっとしたからじゃないし。

私はハギ兄さんの紹介で新しい職に就き、二人と別れることになったからだ。ハギ兄さんが私を呼び寄せたのはこのためだった。
その職というのが、マフィアの用心棒である。そこそこ大きい組のようだが聞き覚えはなかったのでノストラードファミリーほどではないんだろう。

「ノストラードファミリーでの事があるから“シンシア・ブラウン”は暫く使いたくないんだけど、どうしよう」
「使わなきゃいいじゃん。というか向こうにもセリって言っちゃったし」

すごい、悩む暇がない。

「もう話は通してあるから、荷物まとめて此処に行って。明日にはヨークシンへ発つらしいから、なるべく早めにね」
「ヨークシン?…ってことはレオリオと一緒じゃん」
「だね。ヨークシンでは毎年9月1日から10日間オークションがあるんだけど、中には色々物騒な代物を出品する所もあるらしいし、それに行くんじゃない?」

彼はどうか知らないけど、と離れたところで一人ラマーズ法を用いて纏の練習をしているレオリオを眺めながら言う。
9月1日までに行かなきゃ、って言ってたし多分レオリオもオークションが目的なんだろう。で、ゴン達にも会うから……。

「もしかして…なんかイベント起きるのかな…?」
「イベント?」
「いや、こっちの話」

どうしよう。私もう漫画の内容全然覚えてないんだけど。
大丈夫だよね?私(の雇い主)が行くのはヤバイもの専門のオークションみたいだし、関わることはないよね?少年漫画だもん。主人公は少年だもん。

そう言い聞かせるように心の中で繰り返して、少ない荷物を纏めた。
ラマーズ法を続けるレオリオに挨拶をして、ハギ兄さんの彼女Bの家を後にする。

ここからオールスターによる人生最大の闘いが始まるとはまだ誰も知らなかったのだ…。

[pumps]