9月1日
「今年の地下競売が何者かに襲われるって情報が入ったらしい」
「ええ?だからうちの組の人誰も来ないんですか?」
「ビビッてんだよ、馬鹿みてぇ」

内容が内容なので周囲を伺いながら小声で聞くが、他の二人は特に気にしていないようだった。

「一昨年もそんな情報が流れたが結局何も起きなかったぜ」
「まあ、情報自体は確かだろうが…組の幹部やボスが来ることもあってセキュリティ面では万全の対策が取られているからな。突破されることはまずないだろう」
「へぇ」

それフラグじゃね?と思ったが口にはしなかった。私の言葉は高度すぎてこの二人には通じないだろう。
少しだけ警戒して競りが行われる会場へ足を踏み入れた。中は劇場みたいな感じで、私達の席は後方に位置していた。


座って暫く待っているとコツコツ、と靴の音が聞こえてきた。
その音で、ざわざわしていた会場内がすぐに静かになる。唯一ライトが点いている壇上に二人の男が現れた。

「皆様、ようこそお集まりいただきました」

そう言った小柄な男の姿にはとても見覚えがあった。彼だけじゃない。その後ろにいる大柄な男もだ。

「それでは堅苦しい挨拶は抜きにして」

これはやばいな、と察して考えるより先に堅を使った。

「くたばるといいね」

いつもと違うスーツ姿のフェイタンがそう言うと同時に後ろにいたフランクリンが両手をこちらに向けた。座っていた全員が状況を理解するよりも早く指先が外れ、銃口のようにそこから念弾が発射される。
後ろの席なのが幸いし、念弾の殆どが前の人に当たっていたが、何発かはその身体を突き抜けてこちらまで届いた。威力が強すぎる。
人が密集している座席から抜け出し、なんとか横の通路まで辿り着いたが念弾をまともに食らったらしい人が吹っ飛んできて避けきれずにぶつかってしまった。
左肩とドレスにかかった他人の肉片と血を見て混乱した私は、何を思ったのか堅をしたまま壇上を目指して走った。

フランクリンの念弾を避けながら壇上によじ登ると殺気を感じた。上を見ると黒い何かが降ってきたので慌てて床に伏せて転がる。フェイタンだ。

「ちょ、ちょちょ待って…三秒くらい!」
「1、2、3」
「ごめんなさいっ!やっぱ明日くらい!」

壇上をごろごろ転がる私とそれを追うフェイタン。
いつの間にか念弾の音が止んだと思えばフランクリンがこちらにやって来て、転がる私を足で止めた。

「セリか?久しぶりだな」

殺されるかと思いきや、手を貸して立たせてくれた。流石フランクリンだ…目の前に広がっているこの惨状は大体フランクリンのせいだけど流石フランクリンだ…。

立ち上がってドレスについた汚れを払おうと無意識に手をやると普段滅多に味わうことのない感触に顔が歪む。手のひらについた血と誰かの肉片を見て、無傷の筈なのに自分が負傷したような気分になった。
そのためフェイタンが脛に蹴りを入れてきたことに全く反応できなかった。

「いっ!?あああ痛い!?」
「同郷の誼で殺すの明日まで待てやるよ。ワガママな奴ね」
「あっ、やっぱ寿命が尽きるまで!」
「それなら明日尽きるね」
「老衰で!殺人じゃなくて老衰で!」
「おい、仕事中だぜ。遊ぶなよ」

遊んでない。フランクリンには幼稚園児がじゃれているように見えるのだろうか。ていうか仕事中って、フラグ回収したのが旅団って。
レオリオの話通りなら今はゴン達もヨークシンにいるはずだ。もしかしなくてもこれからイベント始まるの?それともこれがイベント?だめだ何も分からない。

「あっちのお掃除終わったよ」

出入り口の一つが開く。
そこから聞こえた声に目を向けるとなんだか見覚えのあるデザインの掃除機を片手にこれまた見覚えのある女の子が歩いてきた。

「シズクちゃん!」

以前爆弾発言をしていった忘れっぽい女の子、シズクちゃんだ。うわぁ、やっぱりこの子旅団だったの。
私が彼女の名前を呼んだことにフランクリンは少し驚いたようで「お前ら知り合いか?」と聞かれる。当然私は肯定するが、シズクちゃんは私の顔をしっかりと確認してから首を傾げた。

「?誰?」
「えっ!セリだよセリ」
「セリ?顔違くない?」
「あの、ちょっと事情があって変えたの」
「なにそれ整形ってこと?」
「セリ、お前整形したのか?気付かなかったな」
「ハ、整形した割には不細工のままね」
「違う!整形じゃない!」

整形するならもっと良くするに決まってるだろ!ってそうじゃない。
シズクちゃんに細かい事情は伏せて化粧と髪型を変えたのだと伝えたが、彼女の反応を見るにピンとこないようだった。とりあえず整形じゃないことだけ理解してもらいたい。

「しかしまあ、あっけねェあっけねェ」
「ワタシの出番全然なかたね」

フェイタンとフランクリンはそんな私の整形疑惑などどうでもよいらしく、壇上を降りると散乱した死体の前にいるシズクちゃんの近くへ行った。

「いくよ、デメちゃん」

シズクちゃんの呼び掛けに彼女の持っている掃除機が「ギョギョギョ」と反応した。さか○クンか。

「この部屋中の散乱した死体とその血、肉片および死人の所持品全てを吸いとれ。あ、ついでに椅子も」

言いながらスイッチを入れると部屋中に目の前に広がっている大量の死体、その他全てが小さな掃除機の中へどんどん吸い込まれていく。
どんな制約があるのか分からないが、すごい便利な能力だ。そしてめちゃくちゃ見覚えがある。
ということは漫画に描かれていたわけで、シズクちゃんは漫画に出てくるキャラクターで間違いないんだろう。しかも旅団。
そのシズクちゃんにちょいちょい、と手招きされる。側に行くと私の肩やドレスに付着した血と肉片を指差された。

「セリのそれも吸いとってあげる」

そう言ってデメちゃんを向けられる。
ちょっと怖かったが、近付くと付着していたものだけが綺麗さっぱり吸いとられた。まるで初めから存在しなかったかのようだ。

「ありがと…」
「うん、いいよ」

軽く返してまた部屋の死体を吸い込み続ける。デメちゃんの吸引力すごい。
暫く見守っていると満腹になったのかデメちゃんが盛大なゲップを披露してくれた。その前には血塗れの男性が一人、残っていた。

「お」
「まだ息のある奴がいるよ」

フランクリンとフェイタンがゆっくり近付くと血塗れの彼は、顔を上げて二人、というよりも私やシズクちゃんも含めた全員を睨み付けた。
右目は潰れて見えなかったが、左目だけでも十分憎悪が伝わってきた。息も絶え絶えに「皆殺しだ」と言った。

「コミュニティーが必ず!!てめェらとその家族残らず凌辱し!切り刻み!地獄の苦しみを味わわせてやるぜ…!」

そこまで言って彼はフランクリンの念弾に撃ち抜かれた。死体となった彼をシズクちゃんがデメちゃんで吸い込む。

「家族?なにそれ?」

あれ?これもしかして私も仲間だと思われてない?

[pumps]