9月1日
かなりまずい状況だ。
なんで私の職場っていつもこう面倒な事ばっか起きるのかな、と思いつつ、とりあえず三人について行くと懐かしいメンバーが揃っていた。マチにノブナガ、ウボォーさん、…とシャル。
ちゃっかり同行してる私に皆驚いていたが、私に構っている暇はないらしい。挨拶もそこそこに歩きながらの盗賊トークが始まる。

「品物がなかったこと、団長には?」
「これから伝える。まずは此処から出るべきだぜ。音も聞こえるし、もう連中も殺られたことに気付いただろ」
「確かに。長電話できる時間はないね」

最後尾について彼らの会話に耳を傾ける。
品物がない?よく分からずに詳しく聞いてみれば競売品が別の場所に移されていたそうだ。
そのせいで盗みは失敗した。それは予め襲撃を受けることを予測していたことを意味する。

もう亡くなってしまった仲間が言っていたが、元々襲撃については噂されていた。私の雇われた組の人達は噂を信じて競売に来なかったが、この話を大袈裟だと捉えている人も多かったはずだ。
元から知らなかった人もいるのかもしれないが、少なくとも参加者は本気にしてなかった…と思う。

でも主催者側は襲撃を恐れて競売品を移した。参加者側にとっては噂程度であるが、主催者側には確実な情報として入ってきたのか。
かなり信憑性のある情報ってなると旅団に近い誰かが喋ったとしか私の頭のレベルでは考えられないんだが、実際はどうなんだろう。
団員じゃないけど旅団の計画知ってる人なんているのかな?そもそも旅団が仲間以外に計画を口外するなんて考えられないんだが。そうなるとあとは…………いや、それはない。
浮かんできた考えをすぐに打ち消した。ないない、マフィア側につくメリットがないもん。

というか、世界中からマフィアが集まる地下競売のお宝盗もうだなんて旅団も随分すごいことしようとする。マフィアと流星街はお互いにギブアンドテイクの関係なのに、流星街出身の彼等がマフィアに喧嘩売るなんて。
そんなの俺達には関係ねぇってことなのかな?クロロ頭おかしいもんね。

そんなクロロ率いる旅団メンバー達の後に続いて階段を登っていくと、着いた先は屋上だった。ど真ん中にあるモノに「んじゃ、行くか」と次々と乗り込んでいく。

「何してんだ。セリ」

目をぱちぱちさせている私に気付いたウボォーさんが言う。

「さっさと乗らねぇと置いてくぞ」
「…これに乗って、どうするの?」
「はあ?帰るに決まってんだろ」
「き、気球で…?」

そう、気球。あの気球。
すごく当たり前みたいな言い方されたけど、気球ってそんなメジャーな乗り物だったんだ。いや、まあ飛行機がなくて飛行船使ってる世界だから普通なのかもしれないけど。
まじまじと気球を見つめるだけ乗り込む気配のない私に今度はノブナガが口を開く。

「オイ、急げやセリ。乗らねぇなら置いてくぞ」
「えっ、いや、そんな簡単に乗っていいの?気球だよ?」
「?別に一人くらい増えても問題ねぇだろ?」

言ってノブナガは出発の準備をしているシャルを見た。
シャルは一度だけ私を見た後、手を動かしながら言った。

「まあ、元々は盗った競売品を乗せる予定だったからね。その分空いたから大丈夫と言えば大丈夫だよ」
「なっ、乗ってけよ」
「え……これ途中下車とか出来る…?」
「出来ない」
「タクシーかよ」

すぐに二人に返された。気球をタクシー代わりにしようとした私をウボォーさんがおかしそうに笑う横でマチが言う。

「別に嫌なら来ないでいいよ。下手したらあんたも仲間だと思われるだろうし」
「でも、このまま一人で戻ってもまずいんじゃない?他の人みんな殺しちゃったのにセリだけ生きてるなんて変だもん」

シズクちゃんの言葉にハッとした。言われてみれば確かに。
このまま行っても疑われる可能性があるのか。襲ったのがA級賞金首の旅団だとわかれば、生きている方が不思議だ。
着いていっても仲間だと思われるし、残っても仲間だと疑われるとか地獄かよ。

「長いよ。ささと決めるね」

痺れを切らしたフェイタンに睨まれ、一歩後ずさる。
が、結局一緒に行くため気球乗り込んだ。建物の外を囲んでいるマフィアから無事に逃げ切れる気がしなかったし、目撃さえされなければ私が旅団の仲間だと思われることはない。

[pumps]