9月1日
乗っても乗らなくても殆ど同じ展開だったな。

「降りて来いコラァ!!」
「沈められるか埋められるかぐらいは決めさせてやるぞ!」

うわぁ…なにこれ…。
気球が降りた崖のずーっと下。徒歩での帰り道になると思っていた所が黒服の厳つい人達で埋め尽くされていた。当然の如く武装済みである。

気球が見付かるの早かったよね。そりゃ夜中に街の上空で気球が移動してたら目立つよね。しかも遅いからすぐ追い付くよね。
一人じゃないだけマシかもしれないけど、一緒にいるのが旅団じゃプラマイマイナス。
逃げようにも辺りはゴツゴツとした岩肌に囲まれている。登っても良い的になるだけだろう。下っても撃たれる。いくら念が使えても一度に銃弾を何発も受ければ流石にやばいと思う。経験がないから正確には分からないけども。
つまりもうどこにも行けない。

「わーあ、団体さんのお着きだ」
「あれは掃除しなくてもいいんだよね」
「別にいいね」

てか、そもそも私以外は逃げる気ないし。
格の違いか、踏んできた場数の差か。旅団は下に集まった絶望的な数のマフィアを見て焦りもしなかった。
とりあえず突然撃たれた時のための盾になってもらおうとウボォーさんの後ろに隠れる。が、その盾はすぐに消えた。

「俺がやって来らぁ。お前ら手ェ出すなよ」

と言って、一人で下へ降りてしまったのだ。
突然降りてきたウボォーさんにマフィアが一斉に銃を構えたがリーダー格っぽい人がそれを止め、ウボォーさんと対峙した。体格差がやばい。私からするとウボォーさんは頼れる盾だが、こうしてみるとやっぱりあの人怖いわ。

門答の後、銃声が響く。弾丸はウボォーさんが歯で受け止めていた。すごいあんな漫画みたいなこと本当にできるんだ、と思ったがよく考えたらこれ漫画だ。
それにウボォーさんが弾丸受け止めるのってそんな珍しいことじゃない。いつも通りだ。

しかしそこから始まる一方的な殺しには流石に引いた。人間というより虫が相手のような勢いで殺していくのだ。ウボォーさん強すぎる。
ぽかん、と口を開けて見ていると遠くの方からさらに大量の車が猛スピードでこちら向かってくるのが見えた。誰も焦る気配はない。

「見ろよ、次々来るぜ」
「わざわざ殺されにご苦労なこった」

すごい言葉だと思ったが、本当にその通りなのだ。何人集まろうが敵じゃない。彼等は何とも思ってない。絶対的な自信と後は感性の違いだ。
なんだか見ていられなくなって目を逸らす。

視線をさ迷わせているとシャルと目が合った。シズクちゃんとマチの話を思い出し、少しだけドキッとした。
久々に会うけど何を言おう。先に口を開いたのはシャルだった。

「なに?どうしたの?」
「いや……………私達って生身で会うの久々だよね」
「幽体であったこともないけどね」

そりゃそうだ。なにそれ、と呆れたような顔をされた。
ありえない…こいつが私を好きとかやっぱあり得ない…話しても見つめても頬も染めないぞ…私が読んでた少女漫画と違う…。あっ、でもマチの話だとそういう好きじゃないんだっけ。妹推しだっけ。

「ごめん、もういいや。ちょっと考え事する」
「は?考え事…?」
「なんか必要になったら呼ぶから、あっち行ってて」
「え、ええ!?」

一旦シャルを放置し、考えを纏めようとするが本人と周りがそれを許してくれなかった。

「あっち行ってて、ってなにそれ…?大体この状況で考え事って何?逃走経路?そんなのセリが気にしなくても大丈夫だから」
「ちょ、シャルうるさい」

傍で喋んな。
口には出さなかったが私の視線で分かったらしい。シャルは「こ、…こいつ…!久々に会ってこいつ…!」と私を指差した。怒りなのか寒さなのか分からないが震えていた。

「喧嘩すんなよ、落ち着けシャル。久々に会っても何一つ変わらない。いつも通りのセリだろ」

そう言ってフランクリンがシャルと私の間に割って入る。なんか今の台詞ちょっと私を貶めてた気がする。
しかしその台詞でシャルは落ち着いたらしく「確かに今更セリが変わるわけないか」と言われた。こ、こいつ……久々に会ってこいつ…!!

最早考え事などどうでもよくなり、シャルとフランクリンを挟んでのにらめっこ状態になっているとシズクちゃんがこの場にいる全員に向かって言った。

「ねぇ、暇だし皆でトランプとかしない?」

なんでトランプ限定?しかも暇って、下でいっぱい人が殺されてるんだけど、そう突っ込むのは野暮なのか。
マチがシズクちゃんにカードを持っているのか聞くが彼女は首を横に振った。

「あたしは持ってないよ」
「いや、じゃあなんでトランプっつったんだよ」
「誰か一人くらい持ってるかなって」

普通の人でも中々トランプは携帯してないぞ。
と思ったらにらめっこ中のシャルがズボンのポケットからトランプを取り出した。

「それならここに」

本当に一人くらい持ってた。

「なんでそんなの持てるね」
「アジトにあったから持ってきちゃった」
「何する?何でもいいけど」
「じゃあダウトで」

もう、もう本当にこいつら何。呑気すぎるだろ、自由時間か…自由時間かも。
驚きを通り越して怖くなった。普通は驚きより先に恐怖が来そうだが、私は昔の彼等を知っている分、恐怖心が薄かった。というより薄まった。何かしない限り自分が殺されることはないからだと思う。
さっきの地下競売でもそうだが、盗みの邪魔になる連中に私が含まれていても基本的には見逃してくれるのだ。フェイタン一人だったら死んでいた気もするがそこは置いておこう。
なので怖い怖いと言いつつ実際はそこまで恐れていなかったが、暇だからトランプって発想はもうダメだ。こいつらやばい。

「セリもやるでしょ?」
「手札配るよー」
「………私は……私は、…はい…やります」

って思いつつ参加する私も大分おかしい。
だって、人がどんどん殺されていく様を見るくらいならトランプやってる方がいい。こっちの方が酷いけど。

[pumps]