9月1日
私の鼓膜問題も解決したためシャルがヒルの毒で動けないウボォーさんの元へ行く。
体内に入り込んだヒルなんてデメちゃんで吸い出せるのでは、と思ったが生き物はムリらしい。そりゃそうだよね、生き物吸えたらシズクちゃん最強だもん。

ヒルはこのままだと卵を植え付け、すぐに孵化するそうだ。それが尿と一緒に排出されると激痛を伴うが、大量の水分を摂取してアンモニア濃度を薄めることで卵は孵らず、尿と共に無痛で排出されるんだとか。
どこでどういう意図でシャルがヒルの知識を身に付けたのか分からないが、とりあえずヒルの対処はビールをがぶ飲みすることで解決した。残りは身体の自由を奪っている毒だ。

「シズク、ウボォーの毒とてやるね」
「わかった」

フェイタンに言われてシズクちゃんがウボォーさんの方へ向かう。毒はシズクちゃんがデメちゃんで吸いとることになった。
が、その前にウボォーさんは消えた。突然身体に鎖が巻き付き、そのまま引っ張られたのだ。

「え!?何今の!」

全部終わったんじゃなかったの!?
ついさっきまでウボォーさんが居たはずの場所を指差し、慌てて周りを見たが相手をしてくれたのは「落ち着け」と私の頭を一発叩いたノブナガだけで他の皆は綺麗に無視して崖の下まで降りていった。お、おう。
ノブナガに引っ張られて私も下に降りる。斜面急すぎて途中で転けた。膝が痛い。

「見えたか?」
「うん、一瞬にして鎖が体中に巻き付いて…」
「新手の陰獣か?ウボォーは毒で体が動かねーし、ヒルも体内に入ったままだ」
「自力じゃ帰ってこれないね。仕方ない、助けに行くか」

みんな冷静すぎないか。
突然仲間が拉致されたのに対してこの反応だ。今はまだ慌てる時間じゃないのかな?
まあ、こんなに冷静なのはウボォーさんが簡単に死ぬわけないという信頼と助け出せる自信がある証拠だ。

「ウボォーに針をつけといたから今ならまだ行き先もわかるよ」

マチが全員に向かって言う。
彼女はあの一瞬でウボォーさんに自身のオーラを飛ばしたらしい。指先から細く伸びたオーラ、念糸を辿った先にウボォーさんはいる。

「糸の気配は消してあるから凝で見破られるか針に気づかれて捨てられない限り、どこまででも追跡できる」
「よし!悟られる前に追い付こう」
「残りの陰獣も一網打尽にできるかもな」

話は纏まり、マフィアが乗ってきた車を使って追い掛けることになった。
追跡担当のマチを筆頭にウボォーさんと仲の良いノブナガや過激派のフェイタンが乗り込むのを見て、フランクリンがシャルに言う。

「全員で行く必要ねェだろ。俺はビール盗りに行ってくる」
「よろしく。そうだ、セリはどうする?」
「え?えーっと」
「フランクリンに着いていけば?来ても邪魔だし」

なんかシズクちゃんが急に冷たいんだけど。

「六人も車に乗れねぇってことだ。俺と来い」

ぽん、と頭にフランクリンの手が置かれる。そういうこと、と頷くシズクちゃんの反応からその解釈で間違いない。通訳ありがとう。
私はフランクリンに着いていくことにし、シャル達を見送る。物凄い急発進だったのを見て行かなくて正解だったな、と思った。

「じゃあ俺らも行くか」
「徒歩で行く?それとも私達も車借りるの?」
「車だ。ここから歩きじゃ街に着く頃にゃ夜が明けてるぜ」
「ちなみに免許の方は」
「持ってねぇ」
「だよね」

無免許運転を気にしてたら盗賊なんてやらないか。
私自身もなんやかんや無免許運転なんて比じゃない犯罪をやらかしていたりするので今更突っ込む気にもなれない。
適当に選んだ車の助手席に乗り込む。フランクリンの身体の重さで車体は完全に傾いていた。
しかし意外にも安全運転でシャルの時よりずっと安心して乗っていられた。でも無免許。

「お前街に戻ったらそのまま帰るか?場所言えば近くまで送ってやるぜ」
「本当?あ、でも、うーん…、ウボォーさんのことも気になるし…」
「ならアジトに来るか?そこで待ってりゃ帰ってくんだろ。今回は全員集まってるから他の連中にも会えるしよ」
「そうなんだ…じゃあちょっとお邪魔しようかな」

そう返しながら、頭の中では「全員集まっている」というフランクリンの話が引っ掛かっていた。そんなに大きな仕事ならやっぱり何か漫画イベントがあるんだ。
そしてそれはもう始まっている。じゃなきゃあのウボォーさんがあんなボロボロになって連れていかれるわけがない。皆は楽観視しているようだが、何となく嫌な予感がした。

[pumps]