9月1日
運転は安全だったけどビール調達はかなり雑だった。
シャッターの下ろされた酒屋に外から念弾を撃ち込み、店内に侵入。ビールを車に詰め込めるだけ盗んだ。なんか色々騙されてたけどフランクリンも見た目通りの過激派だよね。
強盗の片棒を担いだ後は、彼らのアジトへ。腕一杯にビール缶を抱えた私達を最初に迎えてくれたのはパクノダだった。
「戻ったぜ」
「おかえりなさい。あら、セリ？久しぶりね」
「パク！久しぶり」
ちゃんと会うのは本当に久しぶりだったので、とりあえず笑顔で胸をガン見した。私この大胆なスーツ好き。
隠す気もなく普通に見ていたので本人にもバレていたが、パクは笑いながら「やめなさい」と軽く言うだけだった。なるほど、見て大丈夫だって。
パクは私が腕に抱えたビールを一本取る。
「このビール、ウボォーの？」
「うん。なんで知ってるの？」
「連絡がきたのよ、ウボォーが拐われたって。フィンクスが手伝いに出ていったわ」
「そっか、じゃあまだ誰も帰ってきてないんだ」
「フェイタンは帰ってきてるわよ。競売品を盗った陰獣を連れてね」
奥にいるわ、と教えてもらったがフェイタンとかどうでもいいので適当に相槌だけ打っておいた。
パクと一緒にフランクリンの後をついていくと以前モンジャラみたいだと思った小さい人と包帯ぐるぐる巻きの人がいた。私にはあまり馴染みのないメンバーだし、パクもフランクリンも紹介してくれる気配がないのでどうしたら良いか分からず会釈だけしておいた。
フランクリンに倣って抱えていたビールを地面に降ろすと先程フェイタンがいると教えてもらった奥の部屋の方から、今度は私もよく知っている奴が歩いてきた。
「うわっ！クロロだ！」
「人に会ってその反応はないんじゃないか？」
「そうだね、ごめん。あっ！クロロだ！」
「やり直さなくていい。しかもそんなに変わってない」
クロロは呆れたような目でこちらを見ながら、散らばっている瓦礫を足で退けてスペースを作り腰掛けた。
「団長、競売品はどうでした？」
「それはもう“盗った”。良い能力だ。ウボォーを拐った奴についても詳しく聞いているが、どうやら何も知らないらしい」
「フェイタンはまだ中で？」
「ああ、遊んでる。暇なんだろ」
パクの質問にクロロは淡々と答える。
当初の予定通り競売品は手に入ったようだ。これで旅団の目的は達成されたのだろうか。それともまだまだこれからなのか。オークションは10日間あるのでその可能性の方が高い。
やだな、本当に嫌な予感がする。みんな早く帰って来ないかな。
「団長、ヒソカの野郎はどうした？」
「用があるらしく出て行った。明日の六時までには戻るように言ってあるから問題ない」
今度はフランクリンの質問にそう返す。
ヒソカさんとかいう人もいたな。あの人も旅団だった。そうだよね、全員来てるんだもん。
そこである少年のことを思い出し、はい！と挙手するとクロロが「じゃあ、セリ」と当ててくれた。
「ねぇ、ハリーはどこ？」
「ハリー？誰だそれは」
「誰って、8番の子だよ」
「8番はシズクだ」
「！？シズクちゃんって…ハリーだったの…？確かにちょっと似てるところもあるけど、眼鏡の形状違うよ…？」
「よく分からないがお前は何か勘違いしてる」
私もよく分からない。
8番はハリーじゃなくてシズクちゃん？ハリーは私の想像上にしか存在しない少年だったのか。
クロロはもう答える気はないようでどこからか本を取りだし、読み始めた。
「ハリーって、前の8番のことよね？彼なら死んだわ」
「え！」
死んだ！？
パクの言葉に衝撃を受ける。どういうことなのか詳しく聞いてみるとパクもその場にいた訳ではないので正確な話とは言えないが、ハリーはボーダーのロンＴを着て自転車で坂道を下っているところをゾルディック家に殺されたらしい。どういう状況？
しかも殺ったのめっちゃ知り合いだった。ゾルディックということは依頼か。
「そ、そっか…死んじゃったんだ…」
「ええ、そういえばあなた彼と仲良くしてたわね」
「うん、たった一日、二日の付き合いだったけどたくさん眼鏡割った…」
「虐めてたの間違いだったわね」
ムカつくけど可愛い奴だったのになぁ。
誰が殺ったんだろう。イルミなら心の中で恨むけど、シルバさんとかだったら何も思えない。手と手を合わせる。
旅団のメンバーと言えど無敵ではない。こんな風に突然ゾルディック家に殺されることもあるのか。
ということは初期メンバーが今も生きてるのって結構すごいことなんだな、と思った。
ゾルディック家ってやっぱり強いもん。もし依頼されたらやっぱりクロロとかも普通に殺されちゃうのかな？
とそこまで考えて思い出した。あれ、そういえばクロロってゼノさんとシルバさんの二人と戦ってたような気がするんだけど。途中でイルミから連絡が来て、勝敗はつかずに終わったような。
てことは、今後ゾルディック家もどこかで旅団に関わってくるの？何それ怖い。