9月2日
とっくに日付も変わった頃、男も女も関係なくスーツ姿で帰ってきた彼らの中にウボォーさんの姿はなかった。
失敗したのか、と一瞬焦ったが救出自体は成功したらしい。相手にバレないように変装までしてこっそり助けに行ったのに、ウボォーさんが大声を出したせいで拐った張本人やその他仲間らしき者には逃げられてしまった。
相手の姿すら見ていない以上どうしようもないし、めんどくさいし時間も勿体ないので皆は帰ろうとしたのだが、ウボォーさんは動けなかったとはいえ捕まったのが余程悔しかったらしくそれを拒んだ。

「つーわけでウボォーから伝言だ。『俺は鎖野郎とケリをつけるまでは戻れねぇ』ってよ」

クロロに向かってフィンクスが言う。

「鎖野郎?」
「ウボォーを拐った奴のことだ。鎖を使ってるから鎖野郎だと」
「なるほど。その鎖野郎の目星はついてるのか?」
「いや?ま、シャルが一緒に残って探ってやるみてぇだから早い内に見つかるだろ」

あ、よく見たら帰ってきた中にシャルいない。
旅団内では一番の友達のはずなのに今頃気付く辺り、思っていた以上に私はウボォーさんのことで頭が一杯みたいだ。元々私の頭に入る情報量は少ないから仕方がないな。

しかし、ウボォーさんはまだ体内にヒルが残っているはずだが良いのだろうか。ついでに言うならそのヒルを出すための大量のビールがここの地面に転がってるんだが。
あのー、と控えめに手を挙げて聞いてみる。

「戻らないって、ビールは?ここにあるんだけど」
「ビール?…ああ、適当に盗りながら行くっつってたからそれはもう必要ねぇな」
「えええ?私頑張って運んだのに!」
「運んだだけかよ」

店を破壊して盗ったのは大体フランクリンで、彼から受け取ったビールを車に運んだのが私だ。まあ、店側からすればどっちも強盗だけど。
でもウボォーさんのためを思って犯罪に手を染めたのに…と納得できずにいると「ま、仕方ねぇな」とフランクリンが私の頭に手を乗せて言った。

「捨てるわけにもいかねぇし、いる奴らで飲んじまおうぜ」
「お、そりゃいいな。疲れて喉カラカラだ」
「ノブナガお前なんかやったか?」
「ノブナガは陰獣の能力に捕まって小さくなってたよ」
「おいその話はやめろシズク。あれは位置が悪かったんだよ!」

私の知らないところでノブナガが小人になっていたのか。
シズクちゃんやフィンクスに向かってぷんぷん怒っているノブナガをぼーっと眺めていると私の視線に気付いたようで「セリ」と名前を呼びながらこちらにビールを投げてきた。反射的にキャッチする。

「おら、お前の分だ。飲め飲め!」
「…私はいいや、誰かあげる」
「セリ、飲まないの?」
「お子様だから飲めねぇんだよ」

そう言って、フィンクスが私の手からビールを奪う。言い方に少しムッとしたが間違ってないので否定はしなかった。そう、お子様なんだよ私。

「私ビールよりジュースが良い」
「ねぇよ、んなもん」
「欲しけりゃ自分で盗ってこい」

買ってこい、じゃなく盗ってこいと言うのが旅団である。決して冗談ではなく本気で言うのが旅団である。
買いたくてもバッグをどこかで落としてしまったのでお金がない。バッグ本当にどこ行ったんだ?競売会場を出る時は持ってた気がするから気球の中に忘れたのか?とりあえず帰り徒歩決定。

ていうかいつ帰ろう。一応ウボォーさんの無事は分かったからなぁ。
出来れば本人に会って安心したかったけど、暫くは帰ってきそうにない。私は早めに彼女Eの家で携帯を受け取り、一度ハギ兄さんに電話したい。
何故なら今回私が雇われたマフィアはハギ兄さんの紹介だからだ。地下競売に来ていた人が全員殺られたことにはもう皆気付いているだろう。
とすれば雇用側は私が死んだと思っているはず。そしてそれは私を紹介したハギ兄さんにも伝わる。

ハギ兄さんだけには死んでないって教えないと借金踏み倒したと思われる。本当に死んでても多分呪われる。
旅団が今後どう活動して行くのかわからないが、私がいても邪魔だろう。ゾルディック家なんかも関わってくるならあまり巻き込まれたくない。だって旅団もゾルディック家も誰も死なないのに私だけ攻撃受けて死ぬとか普通にありそうだもん。
ジュースもないし、早めに帰ろう。そう思い、近くにいたマチとパクに「もうちょっとしたら帰るね」と言えば、二人はお互いに顔を見合わせた後、いいの?と私に聞いてきた。

「「シャル帰ってきてないけど…」」

そこハモるな。
皆の頭の中ではきっと私=シャルなんだろう。シャルとはもう結構喋ったから良い。
ウボォーさんが帰ってきたら連絡して欲しい、と伝えてから今起きている全員に別れを言って彼らのアジトを出た。

[pumps]