奥様はゾルディック
――ゾルディック家は今まで誰もその姿を見たことがない伝説の暗殺一家である――
とバスガイドのお姉さんが言った。

なるほど、だから途中で寄ったお土産屋さんで売っていたゾルディック饅頭は、一家の姿を模っているわけでもないただの饅頭だったのか。
ゾルディックの要素どこにもないじゃんとか言ってごめん。顔見たことないなら仕方ないよね、試食したらとても美味しかったです。
ゾルディック饅頭は土産人気No.1らしいからシャルにあげるため帰りにスズシロさんに買ってもらうことにした。以前貰ったラジオのお返しにしてはお安い気がするが、まぁいいだろう。大切なのは気持ちである。

パドキアに着いた私達はデントラ地区へ向かいゾルディック家観光バスに乗った。
乗車してすぐ「バスからは降りないで下さい、降りた場合何があっても責任は負いません!」とバスガイドのお姉さんに笑顔で言われた。
いやいやどんだけだよ、とバスの乗客はみんな本気で危険だとは思っていないようだった。だからといって降車する人もいないだろう。普通の人はちゃんとバスガイドさんの言葉を守るものだ。
しかしそこまで言われても降りようとする人間が私の隣に居た。

「皆様、あちらに見えますのがゾルディック家正門になります。ちなみにここから先は私有地になりますので…」
「すみません、私達ここで降ります」

バスガイドのお姉さんが言い終わる前にスズシロさんが先に口を開いた。
バスガイドのお姉さんと他の観光客は「何言ってんの?最初の話聞いてた?」という反応だったが、スズシロさんは何も気にせず私を連れ当然のようにバスの扉を破壊し降りた。バスは大混乱だ。きっとこの人は正しいバスの降り方を知らないのだろう。
服の上からでもわかるほど鍛えている守衛室のおじさんが「また賞金目当ての…えっ?子連れ?」というような目で私達を見ていたが、スズシロさんはおじさんには目もくれず正門、通称『試しの門』へ向かう。
門には一〜七までの漢数字が書かれていた。ひっさびさの漢字!そう漢字!ジャパン!この世界ではジャポン!

そういえばカルトは常に着物だったしゼノは一日一殺なんて意味不明なもんかけてた。ゾルディックはジャポン贔屓なのだろうか。
バスの扉を壊したとはいえ、ここまでなら観光気分で楽しいんだけどなぁ。

「セリ、行くわよ」
「………」

そう、スズシロさんが片手で三の扉まで開けなければ中に入れず観光して終わりだったのにな〜………とか。
…一の扉が片方2トンって嘘だろ。

***

「まぁお姉様お待ちしてましたわ!お久しぶりです、お父様はお元気で?ああそういえばナズナは今流星街で暮らしているのでしょう?もうあのショックから立ち直れたのですか?」
「久しぶりねキキョウ。みんな元気に暮らしているわよ。ナズナも大分立ち直れたんじゃない?今はセリと一緒に暮らしているし、落ち込んでる場合じゃないって感じになったのかしら」
「まぁ!この子ですわねお姉様の養子って!かわいらしいわ、歳はいくつ?ミルキよりは上ね、でもイルミよりは下かしら!イルミの妹でミルキとキルアの姉なんてどうですお姉様!?素敵だわ!」
「ちょっと何言ってるかよくわからないわ。セリ、挨拶しなさい」
「えっ!?あ…はじめまして、セリといいます。歳は多分8歳です」
「やっぱりイルミの下でミルキの上!女の子が入れば華やかに」
「うぎゃああああ!!」
「まぁまぁ!キルアもお姉様が出来て喜んでいるのね!私にはわかります」
「お腹空いてんじゃないの?」

えー!?何これ何それ後半言ってること意味不明なんだけどとりあえず!
キキョウさんがキュイーン!をつけてないんですけど。ちょ、マジで何それ私の知ってるゾルディックお母さんじゃない。
着ているのはドレスだけど目にキュイーン!がない。ただのテンション高い美人じゃん!何それ!?私もちょっとテンション高いけど!

〜前回までのあらすじ〜
試しの門を突破した私達を待っていたのはちょっぴり強面な執事さん。その人に案内されて屋敷にやってきた私達を出迎えたのがキルアを抱っこしたキュイーン!の無いキキョウさんだった。説明終わり!

キキョウさんは泣き出した赤ん坊、キルアをあやしている。あの小さいキルアが漫画の生意気なキルアになるのか……そしてキキョウさんはキュイーン!になるのか。時の流れって残酷だ。
と思ってたら急にキキョウさんがこっちを向いて微笑んだ。

「セリちゃん、そのワンピース着てくれたのね。嬉しいわ」
「…?」

何の話?と思ったらスズシロさんが耳打ちしてきた。

「そのワンピース、キキョウがあなたにってわざわざ執事に流星街まで届けさせたのよ」
「!?」

このワンピースにそんな裏話があったの?勝手にキキョウさんってド派手な服好きだと思ってた!
これ結構大人しめだし意外っていうか……そうとわかればお礼を言わねば!

「あの、わざわざありがとうございました!私、他に服ほとんど持ってないしワンピース着たの初めて(転生してから)だったんでとても嬉しいです」
「まぁまぁ本当に!そう言ってもらえると嬉しいわ…ってお姉様?セリちゃんが他にお洋服を持っていないってどういうことで?」

キキョウは私の言葉に嬉しそうに笑った後、無表情になりスズシロさんに問い掛けた。なにこれ怖い。これがゾルディックの実力か。
しかしスズシロさんは全く動じる事なく言った。

「あなたもよくわかっているでしょう?流星街でまともな服が手に入るわけないじゃない。特に子供の服なんて」
「ええ、ええ!わかっていますわ。私も昔はナズナ達と同じような服しか着れず悔しい思いを致しました!でも、………はっ!まさかセリちゃんが普段着ている服は」
「ナズナのお下がりよ」
「ナズナは男でしょう!そこはせめてお姉様の服を着せるべきです!」
「私の服じゃサイズが合わないって。ほらナズナ今子供だし」
「セリちゃんは女の子ですよ!?なのにあの頃の私のような目に…………」

キキョウさんが何かを言いかけて止めた。なんで?なんで黙ってるんだ?殺気がすごいからやめて!
そんな私の心の声が聞こえたのかキキョウさんは殺気をなくした。
代わりにもの凄い笑顔で私を見て、言った。

「決めました!私がセリちゃんに似合うお洋服を見つけてみせます!だからお姉様、それまでここに居て下さい」
「ええ、観光ビザが切れるまでね」

な、なんだってー!?

[pumps]