奥様はゾルディック

「まぁ可愛い!とってもよく似合っているわセリちゃん、ねぇお姉様!?」
「そうね可愛い」
「なら次はこれ!絶対に似合うわ、ねぇお姉様!?」
「そうね似合うわ」
「あ、あとこれも。それからこれも!一着ずつ着て見せてちょうだい!」
「…………はい」

何だろうこの着せ替え人形状態。

宣言通りキキョウさんは私に似合う服を探していた。
試着を繰り返すこと18回、渡される服は全てレースにフリルにリボンの「え、どちらの舞踏会に行かれるんですか?」なものばかり。なぜだ…?なぜあのワンピースを選べた人がこのチョイスなんだ?
お金持ちの奥様に洋服を選んでもらうなんて普通なら申し訳なく思ったり、ついに貧乏卒業かと浮かれたりするだろう。そのどっちでもないとかどういうこと。

「まぁ!やっぱり可愛いわセリちゃん。どれもとってもよく似合って決められないわ!ねぇお姉様!?」
「そうね決められないわ」

しかもスズシロさん飽きてきてるだろ。
キキョウさんの代わりにキルアを抱っこしたスズシロさんは少し離れた位置にあるソファーに座って寛いでいる。私もそこに座りたい。
そんなことひたすら続け、22回目の試着を終えた時キキョウさんが動いた。

「セリちゃんは何でも似合うから決めるのが難しいわ。……ここは私達だけではなく男性視点も取り入れてみましょう!」

そう言うとキキョウさんは部屋の外に居た執事さんに何事かを指示した。
そして「すぐに来ますからこれを着てちょうだい」と今まで試着した中でも特にキキョウさんの反応が良かった服を渡された。
男性視点…?すぐに来る…?誰だろう。その正体を知ったのは服を着替えたすぐ後だった。
キキョウさんだけが騒がしい室内に響くノックの音。

「来たわね、入りなさい」

キキョウさんにそう言われて入ってきたのは無表情の黒髪少年だった。
歳はだいたい12、3歳くらいで一瞬ナズナさんかと思って本気で驚いた。謎の黒髪少年は私やスズシロさんに少し視線を向けた後「母さん何の用?」と言った。……息子?

「紹介するわねセリちゃん。この子はイルミ、私の一番上の息子よ。イルミこの子はセリちゃん。あなたの妹よ!」
「そうなの?」

ええええぇ!?違う!違うしやっぱりバルオじゃなかった!!謎の黒髪少年ことイルミは妹発言にきょとんとしている。
私の知っている長男イルミは黒髪ストレートロングだった。ところが今のイルミはどうだ?黒髪ストレートショートだ!…何が言いたいかっていうと昔の長男は髪が短かったんだねナズナさんかと思ってドキドキしたよってことなんだけど…。
キキョウさんは私の肩をズイッ!と押してイルミの前に出すと興奮したように言った。

「イルミ!あなたはセリちゃん(が今着ている服)についてどう思う?」

いやいや大事な部分が抜けてる!
その聞き方じゃ私自身についてだから!?初対面で答えられるか!

「弱そう」

答えられた。

「オーホホホ!全くイルミったら素晴らしい観察眼ね!でも今はそこじゃないわ。そんな些細な問題は後で私達が鍛えて解決すればいいの!今、重要なのはセリちゃんにどのお洋服が一番似合うかよ!さぁ、この服はどう?百何点くらい!?」

キキョウさんは後半もう息継ぎしてないんじゃないか?ってくらいの勢いで一気にまくし立てた。
なんか色々すごいこと言われてた気がするんだけど気のせい?ていうか必ず百点は越えるの?

「さぁ?150点くらいじゃない?」

キキョウさんの質問にイルミは明らかに適当に答えた。
そりゃ、初対面の子の似合う服なんてわからないよね。むしろ適当でも答えただけ偉いだろう。
イルミはじっ、と私を見てくる。逸らしたら負けな気がするので私もイルミを見つめてみた。

「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「駄目よ150点じゃあぁあ!!!」
「!?」
「なんで?」

突然響いたキキョウさんの甲高い声に驚いて肩を揺らした私とは対照的にイルミは何事もなかったかのように冷静に問う。
この程度で驚いていたらゾルディックは務まらないのか、いつもの事なのか。キキョウさんは早口で続ける。

「500点満点中150点なんて駄目に決まってるじゃない!半分も取れてないのよ!?」

500点満点なの!?最初に百何点って言ったのキキョウさんじゃん!

「今まで着た中で一番良かったものが150点!……こうしちゃいられないわ、ゴトー!ゴトーは何処!?」
「お呼びでしょうか奥様」
「パドキア中の腕の良い仕立屋に女の子用の子供服を明日までに用意するよう伝えてきなさい!今すぐよ!いくらかかっても構わないわ!」

いや、それは駄目だろ!私のためだけにそれは!

「あの、いくらなんでも私のためにそんな事させられません!」
「別にいいんじゃない?キキョウは一度決めたら取り消さないわよ」
「うん。母さんがやるって言ってるんだからほっといたら?」
「いやいや何言ってんの二人とも!?」

お姉様と息子!そんなどうでも良さそうな顔してないでちゃんと止めて!?今すごい事が起きてるから!
そんな私の思いもむなしく二人はキルアと戯れている。私も全て放棄してそっちに行きたい。
執事さんに指示を出し終えたキキョウさんは満足そうな顔をしていた。満足しないで。

「キキョウさん、それはホントに悪いですから…」
「いいえ!遠慮することないわセリちゃん。そもそもセリちゃんに似合う服を見つけられなかった私が悪いの!」
「いやキキョウさんは一つも悪くないですよ?む、むしろ一着も似合わなかった私が悪いっていうか」
「まぁ、優しいのね…。流石は私の娘!」
「えっなんの話ですか?」

感極まったらしいキキョウさんは私の両手をガシッと掴んだ。つ、強い。

「大丈夫、セリちゃんは何も気にしなくていいの!明日こそきっと素敵なお洋服を見つけましょう!」
「あの、なんか会話が噛み合ってない気がします」
「ああ、新しい家族を紹介しなくてはいけないから今夜はみんなで一緒に食事ね!」
「いや新しい家族て」
「それまでイルミと遊んでいて!イルミ、夕食まで妹と遊んであげて!」
「わかった」

新しい家族って何!?

[pumps]