9月2日
私が旅団のアジトを出たのは深夜の3時過ぎ。そこから迷子になりながらゆっくり歩いて彼女Eの家付近に着いたのが5時30分過ぎ。疲れた。
しかし、こんな時間に他人の家を訪ねるわけにもいかないので先にホテルに戻って一眠りした。

余程疲れていたのか、目が覚めて時間を確認したら14時を過ぎていた。ぐう、とお腹がなる。よく考えたら昨日の18時頃から何も食べていない。
ホテルを出て適当に食事をとって、さらには新しい服と靴を買ってそれに着替える。ついでに色々と気になった店を見て回り、途中で彼女Eへの手土産として美味しそうなケーキを買った。
そんなことをのんびりとやっていたので私が彼女Eの家に着いたのは17時過ぎ。早めに連絡とはなんだったのか。

随分遅かったわね、と彼女Eに心配されたが「仕事は失敗してその原因である盗賊のアジトに深夜まで居た後帰ってきて寝て起きたあと買い物してたのでここに来るのが遅れました」なんて特に前半部分を素直に言えるはずもなく、疲れて寝てましたと曖昧に笑っておいた。

受け取った携帯を確認すると新着メールが二件。
マフィアか…!?と若干怯えながら確認すると知らないアドレスからだった。誰かと思ってメールを開くと相手はなんとゴンとキルア。ヨークシンで新しい携帯を買ったらしい。
キルアからのメールは「アドレス登録しといて」で終わっていたが、ゴンは意外にも長文だった。

内容は腕相撲のことで、まずはキルアとレオリオの態度について謝られた後、会えてよかったやらヨークシンにはいつまでいるの?とか観光?とか質問がたくさん。
ゴンのイメージや私達の関係性からするとなんだか意外なメールだが、所々文体が違うので恐らくレオリオとキルアも打ったんだろう。お前らは自分の携帯から打て。
この二つのメールが届いたのは昨日、日付が変わる少し前だと確認してから、返信を打つ前にハギ兄さんに電話を掛ける。セリです、と名乗ってから最初に言われたのが「うわぁ、生きてる」である。

「やっぱりもうそっちに連絡行ったの?」
『うーん、まあ一応ね』

曖昧な返事をするハギ兄さんの声は雑音だらけで聞き取りにくい。外にいるのかな?

『競売会場が襲われたんだってね。客が全員消えてたってそこまでは聞いたよ』
「そうなんだ、分かってると思うけど実は皆殺されちゃったの。それであの、私が生きてるのは、」
『ああ〜、それはいい。とりあえずパソコンにメール送っといたから先にそっち見て』

メール?と首を傾げつつ、私が持ってきたケーキをお皿に取り分けてお茶を用意している彼女Eからパソコンを借りる。
仕事用のパソコンメールを開くとハギ兄さんよりメールが届いた。添付ファイルを開くとそこには八名の男女が写っていた。
左上からウボォーさん、シズクちゃん、シャル、フェイタンの四人。下の段にマチ、フランクリン、ノブナガ、そして私。“捕らえ次第こちらにご連絡を”と番号も記載されているあ…ああ…あ…?

「見たけどこれは…?」
『君が参加した地下競売を襲った連中。生死問わず、引き渡せば一人につき20億入るって』
「………………」
『ついさっきヨークシンで条件競売として参加者にこの紙が配られたみたいだね。主催は昨日の地下競売を取り仕切ってたマフィア。まあ、一人は見つかったね。よかったよかった』

やばいハギ兄さんに売られる。



「あ、あのあのあの、私はあの盗賊とかじゃなくて勘違いって言うか裏切ったとかじゃなくてあのあのあの」
『何言ってるのかわかんない』

私もそう思う。自分も仲間だと疑われるとは思っていたけど、まさか顔写真を撮られていたとは。
正面ではなく横顔なのが唯一の救いか。それでもわかる人には誰かわかる。私と親しくしている人ならすぐに。

「このこと、うちの組のボスは知ってるの?」
『いや、まだ。この写真は競売参加者がついさっき情報求む、って流してきたものだし、地下競売の参加者側は会場に強盗が入って客は全員消えた、という情報しか入ってないからね。今のところは君も行方不明扱い』

そっか、襲撃が起きたのは昨日の今日だし、競売を襲った犯人(の顔まで)を知ってるのはまだ競売の開催者だけなのか。そして彼らは顔の割れた犯人一味の身柄確保を求めている。
犯人が旅団と気付いているかわからないが、多分予想はしているはず。昨日ウボォーさんがあれだけ暴れたんだもん。
だから、自分達の手には終えないため条件競売として賞金までかけて参加者を集めた。この情報は参加者によって拡散させる。

『ま、この写真の君っていつもと違って小綺麗にしてるから、二日程度の浅い付き合いの奴には同一人物だってわからないだろうけど』

然り気無く悪口を混ぜていくスタイルやめてほしい。

『絶対に、とは言い切れない。僕も暫く流星街に戻るし、気付かれる前に君も帰れば?』

この写真がうちの組のボスの目に入り、さらに私が写っていると気付かれたら私を紹介したハギ兄さんも巻き添えを食らう。
ぶっちゃけハギ兄さんなら何とかなりそうな気もするが、常に追われる立場というのもツラい。だからハギ兄さんは流星街へ行くのだ。
マフィアと流星街は蜜月関係にあることもそうだが、流星街は仲間意識(と呼べるのか不明だが)が強いので何かあれば住人が報復に出ることもある。
つまるところ流星街の人間は何をしてくるか分からないから下手に手出しはできない、ってことだ。流星街にいれば基本は安全だろう。

「私も流星街に行った方がいい…かな」
『ヨークシンにいるよりは良いんじゃない。でも、好きにすれば?写真と似たような格好さえしなければ歩いててもバレないと思うよ。他にもっと目立つ奴が写ってるし』

ウボォーさんとフランクリンか。確かにこの中で一番目立つのは彼らだ。一見して最も印象に残るし、これだけ特徴的なら見つけやすいと思って大体の人はまず二人を狙うだろう。次がノブナガか、マチやシズクちゃん、ついでに私の女性陣。
でも女性は化粧や髪型でいくらでも変わるので見つけにくいかもしれない。似たような背格好の子もそこら中にいるし。気付かれるとすれば他のメンバーと一緒にいる場合だ。
どうすんのこれ。

[pumps]