9月3日
荷物を纏めた後、携帯を床に置いたままベッドに潜って眠れぬ夜を過ごし、朝になってからようやく携帯を手に取った。

[すぐには会えない、今いる場所も言えない。今日の夜、また連絡する]

キルアのメールにそう返事をした。悩んだ結果、私は彼らに会って聞かれたことには“できる範囲”で偽りなく答えると決めた。
だが、すぐには会えない。勝手だとは思うが、怖いのだ。だから夜にした。
少しして電話が掛かってきたが、無視した。すると今度はメールが届いた。

[OK。もし今日が無理だとしても、5日までに必ずまた連絡が欲しい。それまでに会えないならせめて電話で話したい]

5日まで、というのが気になった。自分でも調べたが、マフィアへの引き渡しに期限はなかった。ということは他に何か事情があるのかな?それがお金を集める理由なのかもしれない。
そのメールには返事をしなかった。夜までに心の準備をしておかないと。一応自分的には今日会うつもりだが、キルア達には“連絡する”とだけで会うとは約束していない。ゆっくり考えよう。

そう思った私に衝撃的な報せが入る。
突然シャルから電話がかかってきたのだ。今日これからの事を考え、出るのを躊躇ったが意を決して通話ボタンを押した。
そして言われたのだ。夜が明けてもまだウボォーさんが帰ってきていないと。
まさか、と思った。つい携帯を落としそうになり、持ち直す。

『パクに聞いたけど、セリ、ウボォーのこと気にしてたんだって?だから言った方がいいと思って』
「し、死んじゃったの?」
『そうは言い切れないけど、…可能性は高い。鎖野郎は操作系か具現化系だろうからね。どっちも強化系のウボォーとは相性が悪い』
「でもあのウボォーさんが…」
『うん、だからまだ分からない。ただ、帰ってこないからさ、予定を変えて二人組で鎖野郎を捜すことになったんだ。それで、ちょっとセリに聞きたいんだけど』

シャルが一呼吸置く。
私の心臓がさっきからうるさい。

『マフィアが俺達を捜してて、セリも仲間と勘違いされて写真が載せられてるんだけど、そのこと知ってる?』
「懸賞金かけられてるやつでしょ?それなら知ってる」
『今はまだヨークシンに?』
「いるよ」
『外に出て絡まれたりとかした?』
「いや、全然。私は横顔だったからか気付かれてないみたい。私が雇われてた組からも何の音沙汰もないし」
『そうか』

短くそう言って黙り込む。何か考えているみたいだ。
暫く待ったが、中々口を開かないので私の方から一番気になっていた事を先に聞いた。

「鎖野郎って誰かわかった?」
『まだ。でも拐われたウボォーはノストラードファミリーのダミー会社が所有するビルにいたから、鎖野郎はそこの構成員であることは間違いない』
「ノストラードファミリー!?」
『え?なに?』
「私、少し前までそこで働いてた」
『嘘!?』
「あ、一ヶ月もいなかったけど」

期待されないようにすぐそう言うと『あー…、そう』と残念そうな声色で返された。ノストラードファミリーに鎖を使う念能力者?そんな人いたのか?
ボスの娘であるお嬢様の護衛に鎖を常に持っている人はいなかった。ということは具現化系?だが、ちら、と見た戦闘でも鎖を具現化をしている人はいなかったような。

『よかったらセリもアジトに来て手伝ってよ。ノストラードファミリーのことは無しにしても鎖野郎もセリを仲間だと思ってるなら、歩いてれば寄ってくるかもしれない。一番弱そうだし』
「えっ」
『嫌ならいいよ?別にセリは関係ないし。ヨークシンを出た方が安全だろう』
「いや、出るには出れないって言うか」

ゴン達のことを思い出す。何て言えばいいんだろう。私はこれから旅団を売ることになるかもしれない。ゴン達に聞かれて言えないことでも、クラピカに聞かれたら私は言うしかない。
そこまで考えてあることに気が付いた。

鎖野郎ってまさかクラピカ?

いくら相性が悪くたってあのウボォーさんが、そう簡単に負けるはずがない。
旅団の彼が負ける可能性がある相手といえば、それはクラピカしかいない。

『セリ?』
「え?あ、えっと」
『ま、いいや。来たかったら来て。道分かるでしょ?』
「う、うん」
『ま、来るなら尾行には気を付けてね。それが鎖野郎か、その仲間なら連れてきてもいいけど』

そう言って通話が切れる。
ついに来たんだ。クラピカが復讐する時が。

でもまだ信じられなかった。正直クラピカの復讐は失敗に終わると思っていたからだ。
漫画の内容はまともに覚えていないが、クラピカが出なくても幻影旅団という団体はずっと残っていた気がする。だから所謂悪は全員倒した!みたいなことはまだまだ起きてないと思ってた。少なくとも壊滅なんてことはないと。
それがウボォーさんを倒す、いやこの場合は恐らく殺したんだ。

クラピカがやったとして、あと何人死ぬのか。

また心臓の音が大きくなる。
クラピカが旅団を殺していくのを私は止められない。だって私がクラピカと同じ立場なら旅団のことを絶対に許せない。
旅団は、あのメンバーは、決して“根は良い人間”ではない。恨みを持たれて当然の酷いことを沢山しておいて、そのことを悔いる様子などない。
むしろ忘れてるんじゃないかと思うレベルの誰が見ても本当に最低の連中だ。それは間違いない。きっと本人達もわかってる。

彼等が昔は今のように関係ない人間を殺すことまではやっていなかったとはいえ、そういった時代があったからって、罪は消えないのだ。帳消しにはならない。
だから私はクラピカを止められないし、彼に旅団のことを聞かれたら言うしかない。

それでも、やっぱり私“から”は言えない。

[pumps]