9月3日
眠れなかったせいか、目の下の隈が酷かったので彼女Eの家へ寄って化粧をしてもらい、途中で迷子になりながらも私は旅団のアジトに無事に辿り着いた。
とりあえずは現在旅団がどこまで鎖野郎について知っているのかを確認するためにもアジトに来た。捜すのを手伝おうとは思ってない。

クラピカを不憫に思い、自分の中の良心から彼に協力すべきだと思っている。それでもやっぱり付き合いの長さなのか、旅団の肩を持ちたいと思う部分もある。
クラピカの気持ちを思えば復讐の邪魔はしたくない。必要なら私の知ることは全てクラピカに話してやるべきだ。でも本当は旅団を殺す手伝いをしたくない。
はっきりしない。どちらかは選べない。


ぼーっとしながらアジトへ足を踏み入れる。あ、尾行されてたのかな私。全然気にしてなかった。
ま、いいやそれはもう。もしクラピカが私を見付けてたら尾行なんてせずに声をかけてくるだろう。

奥の方まで進んでいくと何人か集まっていた。電話で鎖野郎を探すと言っていたので誰も居ないのかと思ったが、集合命令でもあったのか案外戻ってきているようだ。
シャル以外にはなんでお前?という目で見られたが「シャルに電話もらったから来ちゃった」と言えば、特に何か突っ込まれることもなく私も一員として瓦礫に腰掛けることが許された。

「あれ…」
「や、久しぶり」
「お久しぶりです」

軽く頭を下げる。なんとヒソカさんだ。そういえばこの人もいたんだっけ。
挨拶だけして話をする気はなかったのだが、周りの皆は私達の関係を全く知らなかったので中々に驚いていた。
シャルがわざわざ私の側に来て言う。

「セリ、ヒソカと知り合いだったの?」
「知り……うーん、……うん」
「何その反応」
「色々あるんだよ」

私ではなくヒソカさんが答えた。全く答えになっていないがこれで十分だろう。首切られたとか借金とかそういうのは話すと長いし、シャル達からすればどうでもいい話だ。

「親しくはないよ。正直、私はヒソカさんのこと顔と名前ぐらいしか知らないし」
「確かに。僕も君のことそんなに知らないな」
「お互い興味ないからどうでもいいですしね」
「うんうん」

という親しさなど微塵もないがただの顔見知りではないという微妙な関係の私達にシャルは「ああ、そう…?」とこれまた微妙な顔をしていた。多分なんだこいつらとか思ってる。

「それで、皆は何待ち?クロロ?」
「いや、ノブナガ達の後を尾けてたっていう怪しい奴ら待ち」

話題を変えるつもりで話したら結構物騒な展開になっていた。
元々はノブナガとマチが尾行されていたらしいが、それを後ろからフィンクスとパクノダが尾行し、上手いこと捕まえたらしい。つまり二重尾行か。

旅団ならすぐに殺してしまいそうな気もするが、今回は別だ。鎖野郎について何か知ってるかも知れないから生かしてここまで連れてくるのだ。
私は鎖野郎は、こう言っちゃ何だが“漫画的”にクラピカだと思っているのだが、確定ではない。鎖野郎がクラピカという証拠は一つもないのだ。だから実際はどうなのかまだ分からない。
全員集まるまでは鎖野郎の話をしないようで、今いるメンバーは好きなところに座って本を読んでいたりだとか、携帯を弄るなど、特に会話もなく過ごしていたので私も特に誰かに話し掛けることはせず大人しく待つことにした。

***

いくつかの人の気配に気付いて、この部屋に続く扉を見つめる。
話し声と共に扉が開き、パクノダの姿が見えた。彼女が扉を手で押さえ、後ろにいる面々を通してやる。
最初に中へ入ったのはフィンクスとノブナガ。その二人に続き、マチに背中を押されるようにして入った少年達を目にして私が声を出したのと、少年の一人がヒソカさんの方を見て声を出したのは同時だった。

「あっ」
「あ!」
「あ?」
「あ…あっ!?」
「あ、ああああ!?」
「んだよお前ら!!あーあーうるせぇよ!!」

少年、ゴンと二人で「あ」だけを使って驚きを表現しあっているとフィンクスにキレられた。
し、しまった!捕まえたのがまさかこの二人だとは思っていなかったのでつい声が出てしまった。何捕まってんの!?ていうかノブナガ達が旅団って知ってて尾行したの!?

聞きたいことが山程あったが旅団が全員揃っていて、彼らを尾行して捕まったというこの状況を思い、勢いで不用意なことは言わないように口を閉じる。
「あ!?」「ああ!?」合戦を見て、座っている私と立っているゴンとキルアの丁度中間の位置にいるノブナガが、軽く首を傾げて言う。

「なんだ?セリの知り合いか?」
「つーかテメェ来てたのかよ」
「…シャルに連絡もらったから。知り合いと言うか、その…」
「腕相撲したんだよ。あっ、確かあっちの女も」
「腕相撲ォ?」

私より先にもう一人の少年、キルアが答えた。あくまで他人のフリをするつもりらしい。
キルアが指を差したのはシズクちゃんだ。腕相撲というのは一昨日のことだろう。事実だったので頷く。
逆に指を差されたシズクちゃんは不思議そうな顔をして「なにそれ?」と言っていたが、代わりにフェイタンが思い出した、と口を開いた。

「腕相撲してた子供ね」
「?なんだっけ、それ」
「ほら、お前一昨日あの子供と腕相撲して負けただろ」

フランクリンがゴンを指差す。シズクちゃんも私と同じくゴン達の条件競売に参加していたようだ。
だが、当の本人は全くピンときていないらしい。シズクは一度忘れたことは思い出さない、とフェイタンが言う。彼女は忘れっぽいのだ。

「負けたってあたしが?嘘だよ、いくらあたしでも子供には負けないよ」
「いや、その時お前右手でやったから」

フランクリンに教えられるとシズクちゃんは「なんで?あたし左利きだよ」と曇りなき眼で聞き返していた。
結局このまま続けても思い出すことはない、と察したらしいフランクリンが自分の勘違いということにして話を終わりにした。

「シズクは右でやったんなら分かるけど、セリが負けたって本当に?」

しかし私の方は終わっていなかった。隣にいたシャルが信じられない、と言った様子で私に聞く。

「セリって力だけならそこそこゴリラな方でしょ?」

そこそこゴリラな方ってなに?賛辞?
シャルの中で私の力はそれなりに評価されているようだ。確かに私は力だけならシャルより強いはず。それをわかっているから聞くんだろう。
素直に「なんか可哀想で…」と頬を掻きながら答えると何言ってんだこのゴリラと言いたげな顔をされた。そんな顔するくらいならもうはっきり言えよ。

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